ミッション、カルチャーに共感したメンバーが集まったfreee

しかし、開発初期に壁にぶつかります。佐々木さんたちの構想は、当時の中小企業の経営者たちにはピンとこなかったようです。

「会計ソフトというのは、僕が子どもの頃から約20年まったく進化していなかったんです。当時開発を進めながら、ユーザーになりうるいろんな経営者とか会計事務所の人に話を聞いても、『いまの会計ソフトで満足しているから別にいらない』なんて言われて、何度も心が折れましたね。

だけどある時期から開き直って、もう周りからのフィードバックを一切聞かずに、一度完成形をつくって世に問おうと。で、半年間部屋にこもって、自分たちの直感を信じて開発に専念しました。

実際に世に出してみると、一部の、それこそインターネットの中に住んでいるような人たちを中心に「こういうのを待っていた」という反応があって、SNSで積極的に拡散してくれました。そのうちだんだん世の中の受け止め方も変わってきて、「たしかにこういうやり方もあるよね」というように、これまでニーズがないと言われていたものが少しずつ、ある時から一気に、世の中に広まっていったという経験をしました」

朝渋,freee佐々木大輔CEO
(画像=日本実業出版社)

スモールビジネスに携わるすべての人が創造的な活動にフォーカスできるよう」をミッションに掲げたfreee株式会社は現在創業6年、社員は500人規模に急成長しましたが、当初の9人のメンバーはいまでも会社の中核として残っています。ベンチャー企業ではめずらしいことで、それだけ佐々木さんを中心につくられたミッションやカルチャーへの共感が強いことのあかしでしょう。

そして、そのミッションも進化しています。

「ここ2年ほどは、単にバックオフィス業務を自動化、効率化するだけでなく、それによって生まれた時間がユーザー企業の業績の好転、利益の創出に貢献できているという実感を持てるようになりました。

そうだとしたら、自分たちのミッションは、スモールビジネスがもっと強くなるようなプラットフォームをつくっていくことだろう。そう考えて、この6月から会社のミッションを『スモールビジネスを、世界の主役に。』と変えました。小さなビジネスが世界の主役になれるような環境をつくりたい、そうなれば世の中はもっと面白くなるだろうし、イノベーションがより起こりやすくなって、個人も成長しやすくなるんじゃないか。そんな風に考えています」

「5つの価値基準」が組織を強くした

若く、自由闊達なイメージのあるfreeeですが、自社のミッションやカルチャーには強いこだわりがあります。そのカルチャーを行動規範として言語化したのが「5つの価値基準」(参照:「freeeの価値基準」freee株式会社webサイトより)です。著者『3か月の使い方で人生は変わる』でも度々言及されているこれらの価値基準は、どのようにして形になったのでしょうか。

「社員が30人ぐらいになったときに、新しく入ってくる人がこの会社のことをすぐわかってくれるように、あるいは自分たちが日々仕事に取り組んでいる中でも、ふと立ち返ることができるように、自分たちのいいところを言語化しておこうということでつくり始めました。みんなで議論しながらつくって、いまの形に落ち着くのに3年ぐらいかかっています。

いちばん最初は、僕と当時のCOOが週末に会議室で書いて、それをみんなに広めようとしたんですが、まったくダメだった(笑)。

いまできあがっているものはやわらかい表現で、造語というかある種freee独自の言葉みたいになっていますけど、僕が最初に書いたワードは本当に何でもない、小学校の学級目標みたいな感じになっちゃって(笑)、こういうことを意識するのもいいんだろうけどまあ当たり前だよね、と。

『これじゃあ普通すぎる』って、自分でキャッチコピーを追加して壁に貼るようなメンバーも出てきたので、じゃあもっとオリジナルな言葉にしようとみんなで議論しながら、形にしていきました。

浸透してきたと感じるようになったのは、ミーティングなどで『それって本当にマジ価値なの?』みたいに、会話の中に出てくるようになってからですね。『本質的(マジ)で価値ある──ユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えることをする』は5つの中でももっとも大切にしているものですけど、最初はなかなか広がらなかった。でもそのうち『マジ価値』と略されて会話で使われるようになってからみんなが意識するようになりました。

言語化された組織の理念とか価値基準が、メンバーたちに言葉として埋め込まれて、日常的に使われるようになると組織は強くなるんじゃないかと思います」