紆余曲折あった「長さの単位」の歴史

1メートル
(画像=The 21 online)

我々が当たり前のように使っている「メートル」という単位。だが、それが世の中に根付くまでにはさまざまな紆余曲折があったという。そもそも、人類はどのように「長さ」を測ってきたのか。本記事では、東大、JAXAを経て人気数学塾塾長を務める永野裕之氏がその歴史を紐解いていく。きっと、身の回りの「単位」を見る目が変わってくるはず。

地球1周の長さがちょうど4万キロなのは偶然ではない?

私は小学校3年生か4年生の時に、「この世で最も速いもの」は光であることを知りました。光は1秒間に地球を7周半出来るのだと聞いて驚いたのをよく覚えています。

では地球の1周は何キロかご存知でしょうか? 地球はもちろん丸いのですが、完全な球形ではありません。ちょうどみかんのような形をしています。横方向(赤道)の長さは40075kmで、子午線=北極点と南極点を通る大円(方角を十二支で表すと子(ネズミ)は北の方角、午(うま)は南の方角を指すことからこの名前がつきました)の長さは40009 kmです。いずれにしても端数を無視すれば

地球の1周:約4万km

と言えます。実は地球1周の長さが4万kmと切りのよい数字になっているのは偶然ではありません。これについては後で詳しくお話します。

2300年前に地球の大きさを正確に測定した人物がいた!

地球1周の距離を人類で初めて計算したのは紀元前3世紀頃の古代ギリシャで活躍したエラトステネスでした。当時のギリシャではスタディオンという長さの単位が使われていました。

1スタディオンは、地平線に太陽が昇り始めた時に歩き出し、太陽が完全に地平線の上に表れるまでに進んだ距離を指します。1スタディオンをメートルに換算すると約180mです。

エラトステネスは、図書館で学ぶうちにエジプトのナイル川上流にあるシエネという町では夏至の日に太陽の光が井戸の底にまで届く(太陽が真上に来る=南中高度が90度になる)ことを知りました。

同じ夏至の日、エラトステネスがいたギリシャのアレクサンドリアでは太陽は真上方向より7.2度傾いた方向に見えます。

シエネからアレクサンドリアまでの距離を5000スタディア(スタディオンの複数形)と見積もったエラトステネスは、これらから地球1周の長さは25万スタディアであると結論しました。25万スタディアは約4万5千kmですから、今から2300年前の計算としては驚くべき精度だと言えるでしょう。

余談ですが、競技場のことを「スタジアム」というのは、古代オリンピックの競技の中心が長さ1スタディオン(約180m)のトラックを走る競争だったからだと言われています。

4000年前より使われてきた「キュービット」

そもそも人類が「単位」を使うようになったのは、集団生活を営む上で法律(ルール)が必要になった頃と同時期だと言われています。収穫物を分配したり、物々交換をしたりする際に喧嘩にならぬよう長さや大きさや重さなどを測る単位が生まれたのは想像に難くありません。平等に分けるために共通の基準が作られるのは当たり前です。

長さの単位を作る際に最初に参考にされたのは、やはり一番身近な人体です。

中でも、時の権力者の肘から中指までの長さを基準にした「キュービット」は、西洋を中心に広く使われていました。権力者の身体を基準にするので1キュービットの長さは時代や場所によって変わってしまいますが、概ね1キュービットは50cm前後(公式のもので現存する最古のものは、紀元前2170年頃のシュメール王グデアの坐像の腕の長さから測定される49.6cmです)です。

1メートル
(画像=The 21 online)