仕事を抱え込まず、任せる勇気を持とう
2016年4月に女性活躍推進法が全面施行されてから、2年以上が経った。しかし、会社も社員も、女性も男性も、女性の働き方について頭を悩ませ、試行錯誤し続けているのが現状ではないだろうか。そこで、2人の子供を育てながら、自ら起業した2社の経営をしている雲林院奈央子氏に取材し、女性の働き方についてのヒントを探った。
26歳で最初の起業。そして、働き詰めで倒れる……
雲林院(旧姓・山田)奈央子氏が代表取締役を務めるのは、化粧品開発などを手がける〔株〕シルキースタイルと、『お寺ステイ』というサービスなどを提供する〔株〕シェアウィングだ。『お寺ステイ』とは、お寺に滞在して文化体験をすることによって、セルフクレンズ(自分を見つめ直し、高めること)をするもの。飛騨高山にある高山善光寺での宿泊プランの他、東京都内での瞑想やヨガ、華道などの体験プランがある。
「起業したのは、自然な成り行きでした。
新卒で入社したワコールで、ほぼ一人で新規事業を担当することになり、ブランドの立ち上げからPR、販売促進までを自分でやったんです。それで、自分でビジネスをすることの面白さを知りました。
また、個人的に、下着の専門家としてブログを書いていたのですが、それを目に留めていただいて、出版のお話をいただきました。でも、会社員という立場では、出版は難しかった。それも、独立を考えたきっかけです」
そこで、26歳のとき、大学時代の友人とともに立ち上げたのが、シルキースタイルだ。
「その友人は外資系金融会社で働いていたのですが、仕事がハードで続けられないということで、転職を考えていました。それまで一緒にビジネスをしようという話をしたことはなかったのですが、ちょうどタイミングが合ったので、共同経営で起業することにしたのです。
事業としては、女性のためのボディケア商品を作ることにしました。最初に作ったのはマッサージソルトです。
本当は、やはり下着を作りたかったのですが、それにはかなりの資金が必要なんです。サイズがたくさんあるので、在庫を多く抱えるからです」
初めて経験する業界ということで、当初はかなり苦労したという。「先のことは考えていませんでした。若いからできたことですね」と、雲林院氏は振り返る。
「ボディケア商品を作るといっても、実際の製造は工場に委託するわけですが、工場に伝手はありません。他社の商品に書いてある製造元に電話をかけて、委託先を見つけました。
販売するルートもありませんから、百貨店などに電話をかけて開拓しました。
事業が拡大したきっかけは、ロフトの渋谷店に電話をかけたことです。朝日新聞で、ロフトの仕入れは本部で決めているけれども、規模の大きい渋谷店と池袋店は、店舗独自の仕入れをしている、という記事を読んで、かけてみたのです。
すると、電話口に出られたのが、その記事で取材を受けた方で、『電話をかけてきたのはあなただけだ』と言われました。そして、話を聞いてもらうことができ、商品を採用していただけました。そのうえ、良い商品だからと、本部にも勧めていただけたのです」
こうしてシルキースタイルの商品は全国展開されることになった。会社としては喜ばしいことだが、雲林院氏への負担はさらに大きくなっていった。
「小さな会社でしたから、外部のマネキン(販売員)にもお願いをしましたが、自分でも全国を飛び回って店頭に立ちました。すると、ある日、高熱が出て、動けなくなってしまったんです。『仕事の範囲を狭めないと、とてももたないな』と思いました。
そのすぐあとに、工場が夜逃げするという事件もありました。なんとか別の工場で製造することができたのですが、そのこともあって、業態を法人向けのコンサルティングに変えることにしました。
私はマーケティングを専門的に学んだことはないのですが、最初に勤めた会社で、実地でマーケティングの視点を身につけました。多くの女性向け商品のメーカーに、その視点を必要としていただいています」