「コミュニケーション」が経営の至上命題になる理由
複数の拠点に分かれていた事業所を「GINZA SIX」の広大なワンフロアに集結させたリンクアンドモチベーション。代表取締役会長の小笹芳央氏は、コミュニケーション活性化なくして組織は生存できないと断言する。モチベーション研究の第一人者でもある小笹氏に、経営におけるコミュニケーションの重要性と、その活性化に関する施策についてうかがった。(取材・構成=内埜さくら、写真撮影=榊智明)
企業組織は「One for All,All for One」であるべきだ
リンクアンドモチベーションでは社内コミュニケーションに年間2億円以上を投じている。そこまでコミュニケーションを重視する理由を聞くと、2つあると語る。
「1つは企業組織として究極の目指す姿は『One for All,All for One』だからです。これは、1人1人の従業員が組織全体のために機能し、組織全体も個人の欲求充足に寄与するという意味。『One for All,All for One』を高いレベルで維持していくことが企業の発展につながっていくのですが、『One』と『All』をつなぐものがコミュニケーションなのです。一般的に企業が拡大・成長していくと、当然のことながら役割や機能、階層が分化していきます。分化してコミュニケーションが不足すると、『All』として協力していく意識やリンゲージが図れなくなり、『for One』に傾き企業組織の発展・繁栄が見込めなくなります。従業員には『for All』を意識してもらい、『All』の中での役割を担ってもらうためにもコミュニケーションは不可欠なのです。
2つ目は、私たちは人間を『完全合理的な経済人』ではなく、『限定合理的な感情人』と捉えているからです。人間は感情を持つ生き物であり、金銭的報酬に加え、承認欲求・貢献欲求・成長欲求・親和欲求など、感情を満たす報酬が必要なのです。企業が金銭的報酬以外の欲求を満たすことを、私たちは感情報酬と呼んでいます。この感情報酬は、コミュニケーションによってもたらされるのです。金銭的報酬はゼロサムゲーム的な宿命を負いますが、感情報酬はいくらでも原資を作り出すことができます。良好なコミュニケーションによって提供する感情報酬によって、従業員のモチベーションも高まるのです。
高度成長期は、金銭報酬(給与)と地位報酬(役職)を得ることでほとんどの人の欲求を満たせましたが、今の時代はそれだけでは通用しません。組織側は、感情報酬も視野に入れたトータル的な報酬設計をしなければならない時代なのです」
小笹氏は創業当初からコミュニケーションに注力。さまざまな工夫を凝らしてきた。
「組織におけるコミュニケーションは、人体における血流のようなものです。血流が悪くなると身体全体が重くなり、ある一部に血流が届かなくなるとその部位が壊死してしまうように、組織のモチベーションを保つためには組織の上下・左右・内外のコミュニケーションを充足させておくことが大切です。
弊社でも、コミュニケーション活性化の取り組みの一つとして、社内メディアには非常に力を入れており、種類も5種類あります。 まず、「左右」のコミュニケーション充足を意識しているメディアが3つ。毎日17時に各社の業績を社内イントラにアップする日刊『LM-G新聞』やグループの課題に切り込んだ対談記事を発行している月刊『LM TIMES』、そしてグループのホットなニュースを取り上げる動画社内報『LM・ビジネス・サテライト(LBS)』は、毎週発行しています。毎月、「上下」を意識しているメディアは、私がイントラ上で発信する月刊『トップコメント』です。グループの状況に対して私がどんなことを考えているのかをトップコメントを通じて発信しています。
そして、3カ月に一度発行されるグループ季刊誌『LM JOURNAL』では、「上下」「左右」の他に、顧客や内定者の声を取り上げることで「内外」コミュニケーションも意識しています。
他にも3カ月に一度、グループ全体の視界共有を目的とした全社員総会を実施しています。私が執筆した弊社の歴史や大切にしている考え方を記した『DNA BOOK』や『History BOOK』も配布しています」
企業と従業員の相思相愛度合を現す「エンゲージメントスコア」
目には見えないコミュニケーションが「活性化した」と確認できるツールもある。
「当社では、従業員のエンゲージメント(相互理解・相思相愛度合い)に大きく影響する16領域64項目の要素(エンゲージメントファクター)を抽出しています。診断結果を、『期待度(従業員が会社に求める期待)』と『満足度(その期待の充足度合い)』の2軸で整理し、組織の優先課題を把握。その合致度合いを数値化したものが『エンゲージメントスコア(ES)』です。 企業と従業員の関係性を改善してエンゲージメントの度合いを高めると、収益力に好影響をもたらします。当社がこれまでに行った調査でも、『売上・純利益の伸長率とエンゲージメントスコアとの間に深い相関関係がある』という結果が出ています」
一方で、エンゲージメントスコアが低い企業には共通点があると続ける。
「人を雇用しても次々に辞めてしまい、現場はつねに人員不足。マネージャー職の従業員は自身もプレイヤーとして働き、部下を育てる意識を持っていません。結果、生産性も上がらないのです。今後、エンプロイエンゲージメントは企業で重視される項目になりますし、企業は商品市場とともに労働市場にも適応することが経営課題となります。私自身も現在、エンゲージメントスコア導入の重要性を各企業に説いている状況です」