新規事業プロジェクトの悲劇

新規事業のプロジェクトも、日本企業における成功率は極めて低いのが現状です。

大企業でよくあるのが、社内のコンペやビジネスプランコンテストで選ばれたテーマをプロジェクト化し、アイデアの提案者にプロマネを任せるケースです。

この場合、スタート時には役員レベルが何人も後ろ盾について応援してくれます。

ところが、途中からプロジェクトの雲行きが怪しくなったり、自分が管轄する部門に不利益となる事態が発生した途端、役員たちはさっさと手を引いて逃げ出します。

支援者を失ったプロマネは、必要な人材や予算などのリソースを失い、プロジェクトは完全に頓挫します。メンバーからは突き上げをくらい、チーム内は混乱に陥ったまま、最終的に中途半端な状態でプロジェクトは解散に至ってしまう……。これが典型的な失敗パターンです。

さらにひどいのは、プロマネ一人が失敗の責任を負うことになり、プロジェクトが終わってからも周囲からの評価は下がったままになってしまうことです。

スタートの時点で、後ろ盾についた役員が「もし失敗しても責任は自分がとる」と明確にしていれば、この事態は回避できるはずです。ところが日本のプロジェクトは、権限や責任の所在が曖昧なまま進むので、いざ問題が起こった時に結局プロマネが泥をかぶることになります。

プロマネの仕事がAIに奪われることはない

プロマネを引き受けても何もいいことがないのだから、社員たちが「プロジェクトには参加せず、通常の業務に専念したほうが得だ」と考えるのも無理はありません。

しかし実際は、前述の通り、どの会社でも「プロジェクト的な仕事」は増える一方です。

そのたびに誰かが嫌々ながらプロマネを引き受け、メンバーも会社の命令によって仕方なく参加していたら、プロジェクトの失敗確率はますます上がるだけです。海外企業との差も広がるばかりで、グローバル競争の中で日本企業だけが取り残されてしまいます。

これは日本という国全体にとっても、大変由々しき事態です。

暗い話が続いてしまいましたが、考え方を変えれば、これはチャンスでもあります。

プロジェクトを敬遠する人が多い今、「プロマネの達人」と呼ばれるほどのノウハウを身につければ、ビジネスパーソンとして抜きん出ることができるからです。

AIがどんなに発達しても、プロマネをやり遂げる力があれば、あなたはどの企業でも引く手あまたの人材になれるはずです。

三木雄信(みき・たけのぶ)トライオン〔株〕代表取締役社長
1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱地所㈱を経て、ソフトバンク㈱に入社。27歳で同社社長室長に就任。孫正義氏の下で「Yahoo!BB事業」など担当する。 英会話は大の苦手だったが、ソフトバンク入社後に猛勉強。仕事に必要な英語だけを集中的に学習する独自のやり方で「通訳なしで交渉ができるレベル」の英語をわずか1年でマスター。2006年にはジャパン・フラッグシップ・プロジェクト㈱を設立し、同社代表取締役社長に就任。同年、子会社のトライオン㈱を設立し、2013年に英会話スクール事業に進出。2015年にはコーチング英会話『TORAIZ(トライズ)』を開始し、日本の英語教育を抜本的に変えていくことを目指している。2017年1月には、『海外経験ゼロでも仕事が忙しくでも 英語は1年でマスターできる』(PHPビジネス新書)を上梓。近著に『孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術』(PHP研究所)がある。(『THE21オンライン』2018年08月20日 公開)

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