自分を「会社」に見たてお金を管理する

しかし、多くの人は自分のお金の状況すら把握できていないという。冨田氏は「自らを“自分株式会社”の代表だと思って行動する」ことが不可欠だと言うが、その際に最適なツールが、企業などの財務状況を知るうえで役立つ「損益計算書(P/L)」と「貸借対照表(B/S)」。これを個人資産の管理に応用するのだ。

「一般的なP/Lは、ある一定期間の会社の収益(儲け)と費用(コスト)を比べて、その差から利益を出す財務諸表の一つ。一方、B/Sは、企業が保有する資産、負債、純資産(資本)を記載した、企業の財政状態を明らかにするための財務諸表の一つで、バランスシートとも言われます。P/Lを見れば、その企業の一定期間の業績を把握でき、B/Sを見れば、財政状態がわかります。

これを個人に当てはめると、P/Lには、『収益』として、ある期間の自分の給与収入など、『費用』として、食費や住居費などの出費が入り、その差額の『利益』が貯蓄です。また、B/Sには、『資産』として、現金や有価証券、不動産など、『負債(借入金)』として、住宅ローンや学資ローンなどが入り、P/Lで生まれた利益が、利益剰余金──『純資産』として積み上がっていきます(下図参照)。

P/Lでお金の流れを把握し、B/Sで築いた資産を把握する──このように、自分の持つお金を可視化すると、お金に対する見方が変わってくるはずです」

その際にポイントとなるのが、資産の一つである「人的資本」だ。

「人的資本とは、知識・スキル(金融知識・スキルを含む)、健康、人脈、信用(ブランド)から成る『無形資産』。目には見えませんが、P/Lの収益を増やすための重要な要素です。

仕事のキャリアにつながる知識・スキル、健康な身体、様々なネットワークを生む人脈、自分自身の“ブランド力”とも言い換えられる信用。これらは、個人が備えられる普遍的な能力で、これからの時代どんどん価値が高まっていきます。

これまで、ただP/Lでの『収益』を上げる──つまり“給与を増やす”という短期的な改善を目指していたかもしれませんが、P/LとB/Sの関係性がわかれば、英語習得や資格の取得、人脈の開拓など、B/Sの『資産(人的資本)』に注力することが、キャリア構築による給与アップや、投資による利益の取得など、P/Lの『収益』に効果的に働くことがおわかりになるかと思います。自分のB/SとP/Lを考えながら、こうした能力を向上させることに時間とお金を費やすことが、長期的に見て“お金に困らない”ために重要だと思います」

お金の価値観,冨田和成
(画像=THE21オンライン)