海外に生活あるいは事業基盤を置くと、日本では「非居住者」と見なされ、所得税や年金、健康保険、住民税、相続税などでメリットがあります。居住者・非居住者の判定基準を理解し、どのようなメリットがあるのか見てみましょう。

「183日ルール」は日本で適用されない

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(写真=Iryna Rasko /Shutterstock.com)

日本の所得税法によると、非居住者は国内に住所を有していない、あるいは現在までに継続する居所が1年以下の人と定義されています。居住地が2カ国以上にわたる場合は、「恒久的住所」「利害関係の中心的場所」「常用の住居」「国籍」の順に検討し、どの国の居住者であるか判断します。

「183日以上海外に滞在すると非居住者と見なされ、日本の税金が免除される」と誤解している人も少なくないようですが、カナダやオーストラリアなどが居住者・非居住者の判定基準としている「183日ルール」は、短期滞在者免税などの特例を除き、日本の税法には適用されません。

日本の法律が定める「居所」は「その人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住している場所」であり、税務当局が生計をともにする親族の有無、資産の所在なども考慮に入れ、客観的事実に基づき判断します。

単に住民票を除票し、国外に183日以上滞在するだけでは、非居住者の認定を受けられない可能性があります。法人も同様、本店所在地を海外に置いていても、事業基盤が国内にあると見なされた場合、国内法人と判定されます。

「非居住者」の基準とは?

それでは、日本ではどのような条件下で、「非居住者」と見なされるのでしょう。前述したように、基準は国によって異なりますが、日本では他国に確固たる生活基盤があり、税金をおさめていることが第一条件です。法人は事業基盤が海外にあることが前提です。

例えば日本の企業で働き、日本の銀行口座を通して給与を受けとっている米国在住の人が、日本の非居住者・米国の居住者と見なされた場合、課税対象となるのはあくまで国内で発生した源泉所得のみ。国外で発生した源泉所得は米国で課税されるため、日本で支払う義務はありません。

国内源泉所得には、国内に所有する資産運用・保有によって生ずる所得(恒久的施設帰属所得)や、日本の国債・地方債・国内法人発行の社債の利子、過余金や利益の配当などが含まれます。

住民税・社会保険は免除。年金は任意で加入可能

住民税や社会保険(国民年金・健康保険)に関しては、居住者・非居住者の判断基準が緩和されるようです。そもそも住民税は所得税の申告納税情報に基づいて賦課されるため、国内源泉所得がない場合、住民税の対象とはなりません。 健康保険は住民票がなければ加入できないので、こちらも支払い義務はありません。日本年金機構の発表によると、国民年金に関しては原則として海外に移住する時点で、強制加入被保険者の対象外となりますが、日本国籍を保有している限り、任意で加入することも可能です。

英国やドイツ、カナダなど、日本と社会保障協定を結んでいる国では公的年金制度への二重加入の必要がなく、米国やスイスなどでは公的医療保険制度も保障されています。どちらの国で加入するかは、滞在期間や滞在国、雇用形態などにより、条件が異なります。

相続税・贈与税、税制改正後で移住期間10年に拡大

2017年4月以降は税制改正により条件が厳しくなったものの、一部の非居住者は相続税・贈与税でもメリットを受けられます。相続する10年以内に国内に住所を有していない、あるいは10年以内に住所を有していても非日本国籍である「非居住被相続人」は、国内の財産にのみ課税されます。ただし、海外移住期間が10年以下の場合は国外の財産も課税対象になります。改正以前は海外移住期間が5年と比較的短かったため、租税回避策として用いられることがありました。防止手段として、10年に拡大されたものと推測されます。

文・アレン・琴子/英国在住のフリーライター(提供:JPRIME


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