富裕層が保有資産の運用を考える場合、一般的に「殖やす」ことよりも「減らさない」「守る」ことに重点を置く傾向にある。その中でも、米ドル建ての商品が選択されることが多い。なぜ富裕層は米ドルを選ぶのだろうか。
富裕層は外貨建て資産を保有することで「守りながら攻める」
富裕層は円だけで資産を保有することにはこだわらない。運用利回りの高さ以上に、資産防衛の観点から外貨建て資産への投資をおこなう。築いた資産、先代から受け継いだ資産をいかに守るか、次の世代に残すかを重視する。投資格言の「卵は一つの篭に盛るな」にもあるように富裕層はリスク管理に特に敏感だ。
そして外貨に資産を振り分けたら外貨で運用し続ける。運用や家計管理をするために「お金に色をつけましょう」と言われることもあるが、富裕層は「外貨建て資産」という色を付けて別口で保有する。
例えば、年利3%、期間10年の米国債があるとしよう。金額の大小にかかわらず、円を米ドルに換えて10年保有した場合、10年後には米ドルベースで30%資産が増えることになる (便宜上、単利計算で税金は考慮せず) 。米ドルを円に換えることを「出口」と考えると、購入時の為替水準よりも30%以上の円高が進まない限り、米ドルから円に換えても購入時に支払った金額を下回ることは無いだろうと判断するのが一般的だ (便宜上、為替手数料は考慮せず) 。
しかし富裕層は10年間で米ドル建て資産を増やした後、次の10年間も外貨で保有し続ける。為替水準を気にする必要もなく、円に転じる際のコストも掛からないため、単純計算で手元の資産は20年間で1.69倍となる。便宜上、単利で計算したが、複利で運用すればそれ以上の効果が見込めるのは理解いただけるだろう。
このように富裕層は外貨を保有することで「守り」と「攻め」を同時におこなっていく。では、米ドルを保有する理由は何だろうか。4つの観点からみていこう。
(1) 流動性の高さ・流通量の多さ
富裕層が米ドルを選ぶ理由として、信用度・信頼度の高さが挙げられる。
米ドルは基軸通貨として、流動性の高さ・流通量の多さを誇っている。財務省HPによると、2013年の外国為替市場の通貨別取引高は、日本円のシェアが11.5%であるのに対して、米ドルのシェアが43.5%と4倍近い差がある。また、2015年の世界の外貨準備における通貨別割合をみると、米ドル64.1%、ユーロ19.9%、円4.1%となっており、他の通貨と比べて圧倒的な準備高となっている。さらに世界最大の決済機関であるSWIFT (国際銀行間通信協会) の支払通貨の割合を見ても、米ドル41.92%、円3.24%となっており、世界各国間の取引等において米ドルが利用され、それだけ信用度・信頼度が高いことがわかる。
(2) 商品選択肢の拡大、運用利回りの高さ
米ドル資産の選択肢が広がり、様々な商品で運用を行いやすくなる。円・米ドル間での為替取引や米ドル預金のほか、証券会社ではMMF・債券・投資信託・株式・ETF等も米ドルで購入できる。一時払いの米ドル建て商品も販売されており、一時金を一定期間据え置くことで、米ドルベースで資産を増やすことが可能である。また近年は円と比較して、相対的に運用利回りが高い。
(3) 海外での利便性
銀行によっては外貨口座にある米ドルを海外の支店やATM等で引き出すことも可能であり、現地で米ドルのまま利用することも可能である。海外旅行・海外留学・ショートステイ・ロングステイ等、渡航先が米ドルの利用が可能な国・地域であれば、渡航時の円・米ドル間の為替を気にすることなく、運用によって殖やした資産を有効に活用することができる。
(4) 米国経済の今後の成長性
米国は人口動態・生産人口の推移の点から見て、今後も成長マーケットであることが推測される。総務省統計局HP「世界の統計2018」によると、米国の人口は2010年では約3億864万人であるがその後も増加を続け、2050年には約3億8959万人になると推測されている。日本の人口は2010年で約1億2805万人、2050年には約1億192万人と減少することが推測されていることと比較をすると、マーケットは今後も拡大していくことが予測できる。
さらに15歳から64歳までの生産人口の推移をみても2010年で66.8%、2050年で60.7%と、高齢化率が急速に進まないことが予測されている。日本の生産人口の推移は2010年で63.8%、2050年で51.7%と推測されていることと比較をしても、生産人口が生み出す経済活動によって今後も成長を続けることが期待できる。
このように米ドルは、流通面・運用面・今後の成長性といった面から見て、運用によって資産を殖やす通貨としてはもちろん資産を守るといった面から見ても、資産の一部に組み入れても良い通貨ではないだろうか。通貨はその国の国力を表すという一面もある。米ドルを保有するということも、選択肢の一つとして考えたい。(提供:大和ネクスト銀行)
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