客熱狂の便利キッチン用品~知られざる黒子企業
誕生から50年を経たホームセンターは、様々な業態が登場し、店舗数は増加の一途。競争が激化している。そんな競争の裏で大活躍する企業がある。
東京・江戸川区の「ホームズ」葛西店では、つい欲しくなるキッチン用品の実演販売が行われていた。刃がリンゴに沿って動きキレイにむける皮むき器「アップルピーラー」(1382円)に、客も釘付けだ。
このホームセンターでは、女性客をつかむため、便利なキッチン用品を巨大な壁一面に品ぞろえしている。驚くほど滑らかに大根をおろせる「ふんわり大根超軽おろし器」(915円)、最近流行りの保温ボトルへこぼすことなく注ぎやすい専用のおたま「フードマグ用ミニレードル」(537円)、レモンに刺すだけで簡単にレモン汁を絞れる「レモン・オレンジジューサー」(267円)……。
ホームセンターの魅力となっている便利商品の数々。作っている会社を見てみると、棚に並ぶほとんどの商品がパール金属のものなのだ。
新潟県三条市の田んぼの真ん中にあるのが、年商510億円を誇るパール金属の本拠地。周囲のいたるところに「P」の看板の建物が立ち並び、一帯はまるでパール村のようだ。
事務所に案内してもらうと、そこはまるで昭和の中小企業といった雰囲気。パール金属会長・髙波久雄の会長室も質素そのもの。一方でお金をかけているのが、社内にある店舗のような空間。おびただしい数の商品が並び、そのほとんどが自社製品だという。ここはホームセンターなど、日本中から訪ねてくる小売り業者との商談スペースだ。
「これだけのアイテム数、商品を持っている会社はないんです。全部ここに在庫がある。だからいいんです」(髙波)
膨大な商品の在庫があるこの場所なら、店頭さながらの状態で、どの商品をどう棚に並べるかまで、実際の売り場を再現しながらの商談があっという間にできてしまう。「商品を見られるのがいいですね。見ないと陳列方法が分からない」「本社で商談をやるとアイテム数が限られる。ここには全部の商品があるので早いんです」と、バイヤーからも好評だ。
全国に260社あるといわれるホームセンターだが、パール金属はその全てと取引。各社がしのぎを削りあう魅力ある「売り場作り」を支える、知られざる黒子企業なのだ。
新商品は年間2000種類~あっという間に商品化
髙波にその膨大な量の商品開発の極意を聞くと、「ゆっくりではダメです。『思いついたらすぐやれ』と。生活の中で考えたり、お客様の声を聞いて考えたり、毎日新製品を開発しています」と言う。
パール金属には商品開発の総責任者がいる。企画開発室部長の山本知幸だ。持ち前の柔軟な発想で、いくつものヒット商品を生んできた。
そんな山本が最近のヒット商品を見せてくれた。小さくて切りにくいミニトマトを、ケースに入れると一気にカットできる「プチトマト一発スライサー」(864円)。「月に3000個ぐらいのペースで売れています」と言う。
山本は会長の髙波に40年近くも可愛がられ、商品開発のノウハウを叩き込まれてきた。
企画開発室の楠正久が商品の企画書を作っていた。鍋をつかむ「ミトン」を改良した便利な商品だという。ラフなスケッチが完成すると、山本へ。それを見るなり、山本はあっという間に商品化を決定した。
パール金属では提案されたアイデアの実に7割が商品化されるという。
「私どもが『売れる』と思っても売れない物がたくさんあるし、『売れない』と思った物が売れることもたくさんあります。市場に出さなければ答えは出てこない。ここで結論を出すのはナンセンスじゃないかと思います」(山本)
採用されたアイデアは、専門のデザイン部隊が、商品化に耐えうるよう、おしゃれで使いやすい設計図面に書きおこす。それをパール金属の周りに集積している金物やプラスチック成型の工場へ。いくつもの町工場とパール金属の長年の連携で、最短20日という短期間で試作品ができてしまうのだ。
そんな独自の手法で生み出される新商品は、実に年間2000種類以上。客を魅了する商品を生み出すため、パール金属は徹底的にスピードにこだわり、アイデアを実現。次々と店へ送り込んでいくのだ。
金の卵から年商500億円へ~伝説のヒット商品誕生秘話
パール金属の商品はキャンプ用品のジャンルでも客をつかんでいた。東京・新宿の「S.R.C.」新宿店。1人でも気軽にバーベキューが楽しめるかわいらしいミニグリル「カマドスマートグリル」(3750円)。人気の「アンティーク暖色LEDランタン」(1980円)は、電池式のLEDライトで明かりを自由に調整できる。これらの商品は「キャプテン スタッグ」というブランド。鹿のマークでご存知の方もいるはずだ。
キャンプ用品だが、「日常使い」もできると大人気に。例えば超小型の「ハンディーコーヒーミル」(4580円)は、場所を選ばず手軽にコーヒー豆が挽けると、売れている。
「『こういう商品が欲しい』というのを早く取り入れて商品化するのがうまいと思います」(「S.R.C.」新宿店・馬場真一郎さん)
今ではホームセンターの定番となっているキャンプ用品だが、その火付け役となったのはバーベキューコンロ。40年前、髙波が日本で初めて売り出したという。
「フランスに行った時に、バーベキューをする様子を見て、『これからはこういう時代が来る』と思って始めたんです」(髙波)
18歳の時、新潟から集団就職で上京した髙波は、東京の金物問屋で営業マンとして働き始める。しかし極度の口下手で、注文を一つも取れなかった。それが必死の努力の末、営業で成績トップになる。きっかけは、休みの日に通りがかった担当する店でのこと。忙しそうな様子を見て、作業を手伝うことにする。夕方、そろそろ帰ろうとした髙波は、夕飯に誘われ、帰り際に封筒を渡された。中には注文書が入っていた。
「これはいい方法だと思って、次の日曜日に別の得意先に行ったら同じことが起きた。次から次へと注文がもらえるようになりました」(髙波)
髙波はそこで貯めた資金を持って故郷の新潟へ戻り金物商を創業。細々と商売を始める。そこでいきなり大ヒットが生まれる。それがおたまだった。当時の日本には、アルミ板から打ち出した耐久性のないおたましかなかったが、髙波は丈夫で扱いやすいステンレスのおたまを作り、爆発的な売り上げを記録する。
「アルミのおたまは20~30円。ステンレス製は200円ぐらいする。でも日本全国、津々浦々で売れました」(髙波)
客が求める商品さえ作れば、高くても売れる。そんな商品開発に希望を燃やした髙波はその後、視察に行ったアメリカで人生を変える店を目にする。
「日本にはなかったホームセンターがアメリカには多くあった。これからはこんな世の中になると直感したんです」(髙波)
口下手な青年が起こした企業は、今や年商500億円に成長した。
最強の商品戦略に大行列~1200店舗の業界トップ企業
滋賀県栗東市でオープンを迎えたホームセンターコメリの巨大店舗、「パワー」栗東店には大行列ができていた。ここは他とは全く違う魅力で圧倒的な支持を得ている。
人だかりができていたのは長靴売り場。コメリ・オリジナルの「かる~い長靴」(2480円)は年間11万足も売れるヒット商品だ。一般的な長靴の半分の700g。これなら長時間履いても疲れない。
一方、女性にバカ売れしているのがオリジナルの「ふんわりキッチンマット」(2480円)。柔らかいクッション素材で、立ちっぱなしの台所仕事でも足が疲れにくいという。
さらに年間8万台を売るのはコメリ・オリジナルのホースリール「ギアスピード(20m巻)」(2980円)。人気の秘密は巻き取りの速さ。ギアを内蔵し、従来の2倍の速さを実現した。日常の不便を解消するオリジナル商品がコメリの魅力だ。
集客パワーのもうひとつの秘密は、見るだけで楽しい驚異の品ぞろえにある。
棚にずらっと並んでいる手袋は580種類もある。台所の掃除にも活躍する油でも滑らないゴム手袋「耐油ビニローブ」(328円)に、包丁を使うときに怪我を防ぐ、刃物でも切れにくい素材の手袋「モデルローブ耐切創(インナータイプ)」(998円)……。
庭の手入れで欠かせない害虫駆除グッズも驚異の充実ぶり。スズメバチなどハチ関連からムカデ、ナメクジ……ここにくればほぼ全ての害虫が退治できる。屋根裏に潜んだコウモリを追い出すスプレー「スーパーコウモリジェット」(848円)まであった。
そんなコメリの店舗数は全国で1204店と業界トップ。驚異的な品ぞろえと魅力ある商品で急拡大し、右肩上がりの年商は3400億円に達した。
干柿、ビニールハウス…~ホームセンター異端児の裏側
その売り上げの大半を稼ぎ出すのは、実は全く違うコメリだ。山梨県甲州市の「コメリ ハード&グリーン」三日市場店はずいぶんと小ぶり。店内には園芸用長靴をはいた女性客や地下足袋の男性客もいて、「パワー」とはずいぶん違った雰囲気だ。
この店で売れていたのが、白いビニールロープの「柿縄」(448円)。普通のロープと比べると簡単にヨリが解けるようになっており、その隙間に柿を引っ掛けられる、干し柿専用の縄なのだ。他の柿関連の商品も多く、今は、柿関連の商品にこだわり抜いているという。実はこの辺りは柿の栽培が盛んな地域。この季節は、干し柿作りで大忙しなのだ。
一方、茨城県鉾田市の「コメリ ハード&グリーン」鉾田店を訪ねると、まず目に飛び込むのがビニールハウスのパイプ。さらに人気だというのが、ビニールハウスの必需品「ハウス用サイド巻き上げ機」(5980円)。ビニールを窓のように巻き上げ開閉させる機械だ。この店が力を入れるのはハウス栽培に関する商品。周辺はビニールハウスだらけだ。
コメリは東京にもある。練馬区の「コメリ ハード&グリーン」大泉学園店。気になるその品ぞろえは、農家が少ないのでDIYコーナーに力を入れていた。特に意識する客層が「アパートで工具を使うと隣の人にうるさいと言われる。そういう方を応援したい」。手軽に使える商品に特化しているのだ。
例えば貼るだけでレンガ風の壁が作れる壁紙「ドリームクッションレンガ」(1320円)。
マンションの住民を意識するのはペット商品でも同じ。犬を無駄に吠えさせない「ムダ吠え防止スプレー」(1080円)や、観葉植物売り場にはスペースを取らない「極小サボテン」(198円)があった。
地域に合わせたきめ細かな品ぞろえで客をつかむコメリ独自の出店戦略が船団方式だ。地域ごとのニーズに応える小さなコメリを細かく出店。その真ん中に、圧倒的な品ぞろえの「パワー」を出し、足りない商品を補うことであらゆる客のニーズをカバーする。
そんなユニークな戦略を進め、日本一の1200店舗体制を作り上げた社長・捧雄一郎は、「大きい店と小さい店で船団を形成するように、商圏の空白地帯がないように出店していこう」と言う。
きめ細かい出店戦略を支えるコメリの店員たちは、暇さえあれば客の不満や要望を吸い上げる。客の生の声を徹底的に聞き、それが新潟のコメリ本社に集まってくる。
商品開発会議をのぞくと、ある農家からの声で、長靴の改良が話し合われていた。靴底の深い凸凹に土がこびりついて歩きにくいという声から、改良版では土が落ちやすい凹凸にした。こんなとき、客目線で誰よりも厳しくジャッジするのが捧の役割だ。
捧のポリシーは、数字に惑わされず、客の本当の声を追いかけることにあるという。
他が売らないものを売れ!~業界異端児コメリの原点
コメリの「パワー」栗東店オープン前日。通路の奥で話し合う人だかりができていた。捧が指摘したのは、サッシの値札についた「アルミ樹脂複合」という、一般客には分かりにくい表現についてだった。
これは開店直前にコメリ幹部総出で行われる改善視察。地域に合わせた品ぞろえになっているのか。商品の表示板が見やすく作ってあるか。広大な売り場をまわり、徹底的に客目線で陳列を見直していく。視察は10時間も続いた。
「売る側の理論、メーカーの理論ではなく、全部お客様目線、お客様の論理でどんどん店を良くしていく。それが一番のポイントだと思います」(捧)
コメリにとって店舗は特別な場所だという。それを示すのがコメリの経営の根幹を示すというコメリ綱領。そこには「店は神聖なる殿堂である。愛と真実とまごころをもって世の中の人々に奉仕する」とある。
そんな信念を叩き込んだのが、コメリを作り上げた捧賢一だった。新潟の米農家に生まれた賢一は、父親が始めた米や燃料を売る「米利商店」を引き継ぎ、ビジネスを拡大していく。そして1970年代始め、視察に訪れたアメリカであるものに出会う。
「ちょうどアメリカではホームセンターという『衣・食・住』のうち『住』を担う産業が非常に伸びていた。会長はアメリカ視察で『新しい業態がある』と」(捧)
賢一は1977年、ホームセンターコメリの1号店を新潟の三条に開業する。しかし当時、すでにいくつものライバルが全国に現れており、結果を出せなかった。
そんな中で目を付けたのが、いつも買いに来てくれる地元の農家だった。実家が農家だった賢一は、他の店にはない農業用品の品ぞろえを強化し始める。例えば鍬ひとつとっても、「地域によって違うんです。斜面によって角度も違う」(捧)と言う。どこに売っているのか分からないような農業器具のメーカーを訪ね、一つ一つ商品をそろえていった。
そんな店に手応えを感じ、1983年、小ぶりな「ハード&グリーン」を開業。他のホームセンターにはない徹底的に農家に特化した品ぞろえで客をつかんでいったのだ。
「ハードというのは工具、農具、金物。グリーンというのは園芸であり、植物などの生物。ハードウエアとグリーンストア、略して『ハード&グリーン』と」(捧)
今や全国にゆきわたったコメリ。だが、他が置き去りにした客に全力を尽くす店作りは変わらない。
最新ホームセンター、客目線の驚きのサービス続々
一般的にホームセンターは、周辺に3万人住んでいないと成り立たないと言われているが、コメリの「ハード&グリーン」は「1万人ぐらいの人口で成立するローコスト体制を構築しています」(捧)と言う。
その徹底的なローコスト運営の現場が、例えば物流センターにある。茨城県稲敷市のコメリ茨城流通センターでは、花の加工を行っていた。花を業者から買わず、自分たちで大量に直接仕入れて加工。店ごとの販売数を1本単位で予測し、大量の花を売り切る。
あらゆる手段で無駄をなくし、少ない客でも成り立つ仕組みを作ってきたのだ。
またコメリでは、砂や肥料など持ち帰るのが大変そうな資材がたくさん売れていく。そんなお客のために、和歌山市の「パワー」和歌山インター店に作ったのがドライブスルー。客は車のまま店に入り、ずらりと並んだ商品の欲しいものの目の前に車を止める。あとは積み込むだけ。工事関係者の客もこれで楽になる。
積み込んだ商品を所定の用紙に記入し、店内で会計を済ませれば、ゲートが開く仕組み。ブロックや木材、肥料など、重い資材なら何でも車で買い回れるとあって大好評。もちろん一般の客でも利用可能だ。このドライブスルー併設店は和歌山と千葉で展開している。
一方、福岡県須恵町の「パワー」須恵店では、新鮮な野菜を売り始めていた。野菜で儲けたいというわけではないという。いつもコメリで農業資材を買っている農家のために、農家が作った野菜を、自由に値段をつけて売れるスペースを作ったのだ。
さらに最近では、農家の困りごとを解決してくれる専門の農業アドバイザーを置いた。すでに100人を超えるアドバイザーを全国に配置し、農家の支援に取り組んでいる。
農家の願いは全て聞く。それがコメリだ。
~村上龍の編集後記~
コメリと、パール金属には、重要な共通点がある。コメリも創業地が新潟・三条市で、パール金属は今でも同市が本拠地だ。
また両社は、ともに優れた商品企画力を持ち、圧倒的かつ先端的な物流システムを備えている。そして、商品開発、物流は、利益優先で整備されたわけではない。
「ホームセンター」は和製英語らしいが、両社をよく表していると思う。わが家、故郷など、「ホーム」には、温かい響きがある。
コメリ、パール金属、どちらも生産者、消費者のための、温かい「ホーム」を提供しようとしているのではないだろうか。
<出演者略歴>
髙波久雄(たかなみ・ひさお)1940年、新潟県生まれ。1967年、パール金属創業。1976年、バーベキューコンロ発売。2012年、「キャプテンスタッグ」設立。
捧雄一郎(ささげ・ゆういちろう)1956年、埼玉県生まれ962年、捧賢一がコメリ創業。1988年、コメリ入社。2003年、コメリ社長に就任。
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