「通常価格3万円が今なら限定10名様に2万円!」そんな宣伝文句を聞いて、ついつい購入してしまったという経験はありませんか?魅力的な言葉で「こんな機会はもうない」「これは価値がある」と思わせる心理効果を「アンカリング効果」と呼びます。この効果を狙ったキャッチコピーやセールストークには様々な場面で出くわしますが、その裏にはどんな狙いがあるのでしょうか。

面白くない劇を「入場料がもったいないから」見続けてしまう

損しないための心理学
(画像=PIXTA)

何万円も払って楽しみにしていた演劇を見に行ったら、つまらない内容。最初の10分程度で結末も分かってしまった。でも残りあと2時間近くある。そんなとき、あなたはどうしますか?あと2時間我慢して見るか、席を立ってしまう…。

多くの人が「せっかく払ったお金がもったいないので、つまらないけど見続ける」と答えるのではないでしょうか。人は、「費やした時間や労力を無駄にしたくない」という気持ちがはたらきます。この取り戻せない時間や労力のことを「サンクコスト(埋没費用)」といい、これがもったいないからと思ってしまうことを「コンコルド効果」と呼びます。これは高い費用を投じていた超音速旅客機コンコルドの開発からなかなか撤退できなかったことが由来です。

観劇の例でいうと、既に払ってしまった入場料はサンクコストです。これはつまらない劇を我慢しながら最後まで見ても戻ってきません。それならいっそ、その2時間を別のことに使ったほうがいいかもしれません。

サンクコストに打ち勝つためには、目の前の物が必要かどうか冷静に判断し、過去にとらわれず、自分が費やした労力や時間を諦める勇気を持つことが大切です。

「松竹梅」があったら「竹」を選んでしまう

あなたは、TVで紹介されていたイタリアンレストランに行きました。Aコースは7,500円、Bコースは5,000円、Cコースは3,000円です。あなたはどのコースを選ぶでしょうか?

懐具合によっても変わるでしょうが、多くの人は中間のBコースを選ぶことが多いようです。これを「極端の回避性」といいます。別名「松竹梅の法則」といわれますが、人は「真ん中のもの」を選ぶ傾向にあります。それは「安い商品よりは高い商品のほうが品質は良いはず」という思い込みがあるからです。

ただし、5,000円と3,000円の2択だと、5,000円が最も高くなるので、「一番高いのはぜいたく」と思ってしまい、その下のコースを選びます。価格、内容は同じでも、何と比較するかで判断基準が変わってしまうのです。

保険の乗り換えに抵抗がある理由

保険会社にもオンライン専業のところが生まれています。ネット保険会社は、営業担当者の人件費をはじめとした運営コストが従来の保険会社よりも低いため、保険商品も安いものが多いことで知られています。テレビCMなどを見て、「ネット保険に替えれば毎月の掛け金が大きく引き下げられそう」と思っている人は多いでしょう。

しかし、そう思ったすべての人が保険の契約を切り替えているかというと、決してそうではありません。それは「現状維持バイアス」 によるものです。これは「この保険会社にはこれまでお世話になった」「他の会社に替えて失敗したらいやだ」「手続きが面倒」 という心理がはたらくというもの。だから多くの人が現状を維持するのです。

こうした「現状を変えたくない」という心理作用には、「保有効果 」というものもあります。これは、自分が所有するものに価値を感じて執着し、手放すことに心理的な抵抗を覚えることです 。例えば、「今お持ちのスマホを新品と無料で交換します」と言われても、「交換したい」と考える人ばかりではないのです。新品のほうが価値は高いはずですが、人は自分の所有物は価値を高く見積もる傾向があるため、手放さないことが多いのです。

値引きよりキャッシュバックをして心理的な痛手を和らげる

こうした人間の心理を考慮したマーケティング戦略は、他にもあらゆる商品やサービスで利用されています。

たとえば自動車のような高価な商品を販売する際、値引きではなくキャッシュバックすることで、「高いものを買ってしまった」という心理的な痛手を和らげる効果があると考えられています。逆に自動車やマンションなどの購入時にはオプションの追加を勧めると効果的といわれます。200万円の車を買う時に5万円、10万円程度のオプションをつけるのは安く感じられるからです。

また映画館や野球場でポップコーンやビールを売るとき、サイズの大きい、変わった形の入れ物で販売することで、参照価格が混乱し割高感が薄れる効果も得られるといいます。

こうした事例は実は身の回りにたくさんあります。賢くお得に生活するには、「自分自身の価値基準を持っておくこと」「感情に流されず、客観的に損得をシミュレーションすること」です。サービスや商品を見て「安い!」「今しかないかも?」と思ったら、「なぜこういう心理になったのか?」「売り手の狙いは何か?」と考えてみると後悔する確率は下げられるかもしれません。(提供=auじぶん銀行)

執筆者:冨士野喜子(ファイナンシャルプランナー)

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