近年の日本の税制は、資産家を狙い撃ちにしているといわれます。2015年からは所得税(最高45%)と相続税(最高55%)の最高税率がアップ。深刻な国家財政を考えると、さらなる負担の可能性もゼロではありません。このような状況に、「税金が安い国に移住したい」と考える方も増えていますが、実行前に「国外転出時課税」について学ぶことが大事です。

永住者の人数は?海外移住のメリットは?

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(写真=PIXTA)

日本から海外へ永住する人の数は増加傾向です。2017年には48万4,150人に達し、前年度よりも 約3.4 %増加しています。永住者の中には、資産家も含まれていると考えられます。そういった方々が海外への永住を希望するのは、税金が安く快適に生活できる国です。たとえば、移住先として近年注目されているシンガポールの主なメリットは次の3つになります。

1. キャピタルゲインやインカムゲインへの課税がない
金融資産を持つ方にとって大きなメリットが税制面の優遇です。日本をはじめ多くの国で課税される株式・債券・不動産などの売却によって生じる譲渡益は原則非課税となっています。同様に株式の配当や債券の利息、不動産の家賃収入にも原則課税されないので、資産家が移住するのに大変有利です。

2. 相続税や贈与税がない
上記に加えて、シンガポールでは相続税・贈与税もありません。たとえば、日本では6億円超の財産(法定相続分に応ずる取得金額)には55%もの高い相続税がかかります。資産を代々守るという点では大きな差になるでしょう。

3. サービスのレベルが高い
一般的に、シンガポールは教育や医療のレベルは世界でも高いレベルにあるといわれています。また、飲食店も充実しており、日本の食材も比較的入手しやすい傾向です。日本人が生活してもストレスのない環境も魅力。ここでは、シンガポールを例にとりましたが、富裕層に人気の国それぞれに移住メリットがあります。ただし、移住する際は有価証券などに課税される「国外転出時課税制度」に要注意です。

国外転出時課税の対象になる資産とは?

国外転出時課税制度とは、2015年7月1日以後に国外転出(国内に住所および居所を有しなくなること)をする一定の居住者が1億円以上の有価証券などの資産を所有している場合、含み益に所得税が課せられるものです。対象資産は次の通りです。

・有価証券 (株式、投資信託等)
・匿名組合契約の出資持分
・未決済の信用取引
・デリバティブ取引など

有価証券だけでなく、オフィスビルの共有やクラウドファウンディングでの匿名組合契約の出資持分なども対象です。一例としては、ひと昔前に購入した上場株式が現在かなり高い価格になっているといった場合は、多額の税金が発生する可能性もあります。ちなみに、この制度の対象になる方は国外転出する日の前10年間のうち、5年以上国内に居住していた人です。

売却しなくても対象になる「みなし課税」

また、この制度で注意したいのは、本人が国内にいても、海外に居住する子や孫に有価証券などの対象資産を贈与・相続した場合は課税対象になることです。これは「国外転出(贈与・相続)時課税」と呼ばれるもので、1億円以上の前項で挙げたような対象資産を所有している方が国外に居住する親族へ全部または一部を贈与・相続した場合に、含み益に所得税が課税される制度になります。

国外転出時課税制度で注意したいのは、みなし課税である点です。通常の有価証券取引では、含み益が出ていても売却しない限り課税されることはありません。しかし、国外転出時課税(贈与・相続を含む)では、売ったものとみなして課税されてしまうのです。端的にいえば、海外への持ち逃げは許されないということになります。

ただし、すぐの納税が難しい場合は「納税猶予制度」を利用することもできます。税務署に確定申告期限までに必要書類を添付した確定申告書と、納税猶予分の所得税額・利子税額に相当する担保を提供すれば、国外転出時から5年間まで納税を猶予されます。さらに所轄税務署に「延長届出書」を提出すれば5年間延長されますので、最長で10年の猶予期間を得ることができます。

海外移住の予定のある資産家は有価証券など以外の購入を

この制度に対応するには、段階的に有価証券の資産を減らすことです。対象になることを免れたいなら対象資産の合計が1億円を超えないラインまで売却するしかありません。もちろん、その際には株式等の譲渡課税が課せられます。大切なことは、将来海外に移住する可能性がある資産家の方は、有価証券などで資産を所有しすぎないことです。

ポートフォリオにこれから加えるなら、国外転出時課税の対象にならない不動産などの現物資産がおすすめです。

※国外転出時の課税制度の詳細については、最寄りの税務署又は税理士にご相談ください(提供:Wealth Lounge

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