2019年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比4.9%増(1)と前期の同4.5%増から上昇し、Bloomberg調査の市場予想(同4.7%増)を上回った。
4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に外需の改善が成長率上昇に繋がった(図表1)。
GDPの5割強を占める民間消費は前年同期比7.8%増(前期:同7.6%増)と小幅に上昇、食品・飲料やホテル・レストランを中心に高水準で推移した。
政府消費は前年同期比0.3%増(前期:同6.3%増)と大きく鈍化した。
総固定資本形成は同0.6%減(前期:同3.5%減)と低迷した。設備投資が同4.2%減(前期:同7.4%減)と3期連続のマイナス成長、また建設投資は同1.2%増(前期:同1.3%減)と2期ぶりのプラスとなったが、+1%台の低成長で停滞したままとなっている。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の7割を占める民間部門が同1.8%増(前期:同0.4%増)と小幅に上昇した一方、公共部門が同9.0%減(前期:同13.2%減)と7期連続のマイナスとなった。
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+1.4%ポイントとなり、前期の+0.9%ポイントから改善した。輸出が同0.1%増(前期:同0.1%増)の横ばいで停滞したものの、輸入が同2.1%減(前期:同1.4%増)とマイナス幅を広げた。
供給側を見ると、鉱業の回復が成長率上昇に繋がった(図表2)。
第一次産業は同4.2%増(前期:同5.6%増)と低下したものの、高めの水準を維持した。前期に二桁増に急上昇した天然ゴム(同2.2%増)が鈍化、漁業(同5.4%減)と林業(同5.8%減)がそれぞれ減少した一方、パーム油(同9.5%増)は好調だった。
第二次産業をみると、まず鉱業は同2.9%増(前期:同2.1%減)となり、前年同期に落ち込んだ天然ガスの反動増によって7期ぶりのプラスとなった。また製造業は同4.3%増(前期:同4.1%増)と小幅に上昇した。内訳を見ると、電気・電子、光学機器(同4.1%増)と石油・化学、ゴム・プラスチック製品(同3.0%増)は伸び悩んだが、輸送用機器(同7.2%増)の好調が全体を牽引した。また建設業は同0.5%増(前期:同0.3%増)と僅かに上昇したものの、2期連続のゼロ成長となった。
GDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比6.1%増(前期:同6.4%増)と低下した。卸売・小売(同6.7%増)と情報・通信(同6.3%増)、不動産・ビジネスサービス(同7.9%増)が堅調な伸びを維持した一方、政府サービス(同3.7%増)と金融・保険(同4.8%増)が低調に推移した。
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(1)8月16日、マレーシア中央銀行が2019年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
4-6月期GDPの評価と先行きのポイント
4-6月期の成長率は+5%弱となり、新政権発足後の+4%台半ばの緩やかな成長ペースから加速したが、これは前年同期の鉱業生産が供給ショックによって落ち込んでいたことによる「ベース効果」に起因するものとみられる。昨年4-6月期はサバ州東部にあるパイプラインの破損に伴う修復作業で天然ガスの供給が滞っていたほか、悪天候に伴うパーム油の生産減少が成長率を押し下げる要因となっていた。現在は天然ガスの生産能力が回復しており、7-9月期もこのベース効果がGDPの押上げ要因となりそうだ(図表3)。
また景気の牽引役である民間消費が小幅ながら加速したことも成長率を押し上げた。民間消費は新政権が実施した6月の物品サービス税(GST)の廃止(2)が消費を押し上げる構図が続いている。昨年4-5月は総選挙でマハティール首相がGST廃止を打ち立て消費が低迷していたため、今年4-6月期まではGST廃止の消費の押し上げ効果が続いたものと見られる。しかし、この減税効果は既に一巡しており、6月の消費者物価上昇率は前月から+1.3%ポイント上昇した(図表4)。インフレ率は依然として低水準にあるものの、物価上昇により家計の実質所得は目減りすることには変わらない。
世界経済の減速や米中貿易摩擦の激化を背景にマレーシアの輸出は低迷している。マレーシアは中間財の対中輸出が多く、米中貿易戦争の影響を受けやすい国である。実際、この2四半期は民間投資が低調に推移している。雇用・所得環境は依然として良好な状態にあるが、19年に入ってから変調をきたしている。4-6月期は製造業とサービスセクターの給与が同4.2%増(前期:同4.9%増)、就業者数が前年比1.9%増(前期:同2.1%増)と、それぞれ鈍化傾向が続いており、今後の民間消費の減速が懸念される。こうした外需主導の景気後退リスクは依然としてくすぶったままであり、先行きの景気は+4%台半ばの緩やかな成長ペースが続くと予想される。
マレーシア中銀は今年5月の金融政策決定会合で景気支援を目的として2016年以来となる政策金利の引き下げを決定しているが、最近の米中貿易摩擦の激化を受けて金融市場では早速マレーシア中銀の追加利下げ観測が高まっている。年明けからの米連邦準備制度理事会(FRB)のハト派化が新興国の利下げの後押しとなっていることもマレーシアの追加利下げ観測を補強している。今後、先進国経済が景気後退に陥る展開となれば、マレーシアを含む新興国は資金流出圧力に晒されるだろう。9月には欧州中央銀行(ECB)の金融緩和が予想される。先進国の金融緩和に乗じてマレーシアも追加利下げに踏み切り、国内経済を下支えすると同時に将来の利上げ余地を確保するなど金融政策を柔軟に見直すことは有効だろう。
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(2)新政府は18年6月1日よりGSTの廃止(ゼロ税率化)を実施し、9月にSSTを再導入(売上税10%、サービス税6%)するまでの3ヵ月間はタックス・ホリデー(免税措置期間)となった。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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