厚生労働省は2019年1月18日、2019年度の公的年金の給付額を2018年度比で0.1%引き上げると発表した。4年ぶりのプラス改定だったが、一方で年金給付額を実質的に抑制する「マクロ経済スライド」が4年ぶりに実施されたことも話題となった。
マクロ経済スライドは、現役世代の負担軽減を目的に2004年の年金改革で導入された制度だが、実施されるのは今回が2度目。今回の年金額の改定にマクロ経済スライドはどのような影響を与え、現役世代の負担軽減にどの程度効果があるのだろうか。
私たちの老後の生活にも関わる公的年金のマクロ経済スライドについて、できるだけわかりやすく説明したい。
マクロ経済スライドとは ?
年金受給者が受け取る年金額は、賃金や物価の変動率によって毎年改定される。その改定率を調整し、給付額の増加を抑える仕組みがマクロ経済スライドだ。年金給付額を実質的に減らすことで、少子高齢化によって年々増加する現役世代の負担を軽減することを目的としている。
つまり、本来年金は物価や賃金の上昇率に合わせて給付額が増える仕組みだが、少子高齢化によって保険料を負担する現役世代が減少していくと、現役世代の負担が増え続け、ひいては年金財政が危機に陥りかねない。そこで、年金給付額の上昇を物価や賃金の上昇率以下に抑え、実質的に給付額を減らすことで、年金受給者にも現役世代の負担の一部を分かち合ってもらうというわけだ。
マクロ経済スライドが実施されると、賃金や物価の上昇に基づく年金給付額の伸びから、スライド調整率を差し引いて給付額が決められることになる。スライド調整率とは、現役世代の減少や平均寿命の伸びを反映して決められ、具体的には「スライド調整率=公的年金全体の被保険者の変動率+平均余命の伸びを換算した一定率」で算出される。
ただし、賃金や物価の伸びが小さいまたは下落した際に、スライド調整率が賃金や物価の伸びを上回ることがある。それにより年金の名目額が減額されてしまう場合は、マクロ経済スライドを実施しないことになっている。これを「名目下限措置」という。
具体的に、どのようなときにスライドが実施されるのかを見てみよう
ある程度、賃金や物価が上昇した場合
完全にスライドが適用され、給付の伸びが抑えられる。例えば、賃金の伸びが1.0%、スライド調整率が0.3%の場合、1.0%−0.3%=0.7%の年金改定率となり、スライド調整率分の給付が抑えられる。
賃金や物価の伸びが小さく、スライド調整率より小さい場合
賃金や物価の伸びが小さく、スライド調整を行うと年金給付額が減額されてしまう場合は、給付額の改定は行われない。例えば、賃金の伸びが1.0%、スライド調整率が1.2%の場合、1.0%−1.2%=−0.2%となるが、改定率がマイナスとならないようスライド調整率を1.0%とし、給付額は据え置かれる。
賃金や物価の上昇率がマイナスの場合
賃金や物価の下落率分は年金給付額が引き下げられるが、それ以上の引き下げは行わない (スライド調整はなし) 。例えば、賃金の伸びが−1.0%だった場合は、年金額は−1.0%の引き下げとなる。
また2018年度からは、年金支給額を前年度より引き下げないという措置を維持した上で、スライド調整の未実施分を翌年度以降に持ち越し、賃金や物価が大きく上がったときにまとめて調整するキャリーオーバー制度が導入された。
2019年度給付額改定の算出方法は ?
2019年度の場合は、賃金の伸びが0.6%、物価の伸びが1.0%だった。本来、年金を受給し始める人 (新規裁定者) は「賃金の伸び」、受給中の人 (既裁定者) は「物価の伸び」を基に年金給付額の改定が行われるが、今回のように賃金の伸び、物価の伸びがともにプラスで、物価の伸びが賃金の伸びを上回る場合は、年齢に関係なく、賃金の伸びの0.6%を基に給付額が改定される。
一方、19年度のスライド調整率は、公的年金全体の被保険者の変動率 (0.1%) +平均寿命の伸びを換算した一定率 (−0.3%) =−0.2%となった。これに18年度に繰り越されたキャリーオーバー分 (−0.3%) を加え、−0.5%が適用されることになった。
その結果、19年度は「ある程度、賃金や物価が上昇した場合」に当てはまり、年金給付額は「賃金の伸び (0.6%) −抑制分 (0.5%) =0.1%」のプラス改定となった。
老後の生活設計のため、年金制度に関心を持とう
今回のマクロ経済スライドの発動は、4年ぶりということで話題となり、新聞やニュースなどで聞いた人も多いだろう。現役世代の負担軽減を目的に始まったマクロ経済スライドだが、発動されるのは今回が2回目で、負担軽減の効果が出ているとは言い難い。一方で、年金支給額の実質的な引き下げで高齢者の生活は厳しくなるとの指摘もある。
老後の生活設計に大きく関わる公的年金制度。日本年金機構から送られてくる年金振込通知書や年金額改定通知書にきちんと目を通し、疑問点は年金事務所に問い合わせるなどして将来受け取れる額を確認するとともに、普段から年金制度についてのニュースや情報にも関心を持とう。
それは老後の生活設計のために欠かせない大事なことだ。(提供:大和ネクスト銀行)
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