2018年7月、統合型リゾート実施法案、通称「IR法案 (カジノ法案) 」が可決された。同法案ではカジノを含む統合型リゾートの設置が3ヶ所と定められており、現在も都道府県の間で第1号IR (統合型リゾート) の誘致合戦が繰り広げられている。ここではIRの詳細と、カジノ誘致によってどのくらいの経済効果が見込まれるのかについて述べてみたい。

日本の経済成長の切り札として期待が高まる

カジノ,経済効果
(写真=Nejron Photo / Shutterstock.com)

IRというと企業の投資家向け広報活動 (インベスターズ・リレーション) を思い浮かべる人がいるかもしれないが、ここでいうIRは「カジノを含む統合型リゾート (インテグレーテッド・リゾート) 」を指す。カジノだけでなく、ホテルやショッピングモール、会議場、展示場、劇場、公園などが集まった総合施設のことだ。

日本では法律でカジノの設置が認められていなかったため、カジノの設置に向けて法改正をする必要があった。政府は2020年の東京オリンピックの開催に間に合わせたかったようだが、国会での審議に手間取り、2020年までにカジノをオープンさせることは現実的に厳しくなっている。ただ、オリンピックには間に合わない可能性が高いとはいえ、外資と連携してカジノ事業の拡大に動いている日本企業も出てきていることを考えると、数年後には日本にも世界的なIRが誕生することが期待される。

アジアでは、マカオやシンガポールのセントーサ島やマリーナ・ベイ・サンズといったIRが世界的な観光地として人気を集めている。マカオは「中華人民共和国マカオ特別行政区」という小さなエリアではあるが、「東洋のラスベガス」と呼ばれるほど、世界的にもカジノが有名だ。JETRO (日本貿易振興機構) によると、2017年のマカオへの訪問客数は前年比5.4%増の3261万人。沖縄県の南大東島とほぼ同じ面積のマカオで、日本全体に匹敵する観光客を集めているのである。

IRで収益の鍵となるのはもちろんカジノだ。2017年時点で、ラスベガスのある米ネバダ州には272施設、マカオには40施設、シンガポールには2施設のカジノがある。売上げに占めるカジノ (ゲーミング) の比率はマカオで約9割、シンガポールで約7割、ラスベガスで約4割と、収益の大半をカジノで稼ぐ収益構造になっている。

日本がIRの導入を急ぐのは、IRがゲーミング売上げと生産誘発・付加価値誘発効果でGDPを成長させる手段の1つとして有効と思われるからだ。日本はすでに人口がピークアウトしているほか、製造業や小売業など中心に企業の海外進出が加速しており、景気循環の影響を除いた成長率、つまり潜在成長率が低下している。政府は、東京五輪が開催される2020年に訪日外国人客を4000万人、2030年には6000万人に増やす目標を打ち出しており、IRは観光や地域振興を含めた成長戦略の切り札として注目されている。

統合型リゾートは「いつ」「どこに」誕生するのか

IR法案では、当面は国内3ヶ所を上限とするが、7年後の2025年には将来的に施設数を拡大する方向で見直せるように定められた。また、設置には地方自治体の同意が必要なこと、カジノ事業者に課す納付金は収益の30%、それを国と地方自治体とで15%ずつ分配されること、収益金は基本的に公益目的の事業に活用されることなども定められている。

今後は、まず国土交通相が整備区域の選定基準などの「基本方針」を策定。誘致を希望する地方自治体はカジノ事業者とともに事業の内容や規模、経済効果、ギャンブル依存症への対策といった整備計画を作成し、国に提出する。その後、それら整備計画をチェックした国交相が認可するというスケジュールになっている。具体的な日程は確定していないが、認定されるのは早くても2021年か2022年、IRの施設が完成するのは2020年代も半ばころになってからとの見方が主流のようだ。

IR誘致に向け、すでにいくつかの地方自治体が名乗りを上げている。北海道、大阪、和歌山、長崎などが積極的に誘致に向けて動いているほか、千葉や東京、横浜、愛知なども検討中だ。

間接的な消費押し上げ効果だけでも名目GDPを0.2%押し上げる ?

では、IRは実際にどれくらいの経済効果が見込めるのだろう。大和総研が2017年に全国への経済波及効果に関するリポートを作成している。そのリポートによると、建設費が約5兆円、運営では毎年約2兆円の生産誘発効果 (≒カジノ建設による一次的な経済効果) が見込めると試算 (シンガポールのIRを参考に、北海道、横浜、大阪の3カ所にIR施設が作られると仮定) 。また、IR建設のために雇用された人の所得が増え、それによる関節的な消費の押し上げ効果として1兆1400億円の付加価値誘発効果 (≒二次的な経済効果) が期待されるという。この消費による付加価値誘発額だけでも日本の名目 GDP の 0.2%に相当する金額である。大したことがないと感じるかもしれないが、日本の潜在成長率は1.0%程度だと言われており、0.2%は決して小さい数字ではない。

大阪は2025年に万博を控えている。それを踏まえ、2024年度にはIRを完成にこぎ着けたいとの思惑から、積極的な誘致活動を展開中だ。大阪府では、大阪湾の夢洲に開業した場合、開発に伴う経済効果は約1兆3300億円、年間来場者数2480万人の前提で近畿圏への経済波及効果は年間7600億円と試算。また、IR全体の年間売り上げ4800億円のうち、カジノの売り上げが8割を占めると試算している。

当初、第一候補として挙げられていた東京がIRの誘致について「検討中」とするなど、やや及び腰になっているのは、カジノによる社会への悪影響が指摘されているだめだ。治安対策やマネーロンダリング対策なども重要な課題であり、この課題を片付けないとIR誘致が実現しない可能性がある。そう考えると、選定まではやはり時間がかかりそうだ。とはいえ、日本のIRがどんな形になるのか楽しみである。(提供:大和ネクスト銀行

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