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ジョブズならきっと許さなかった「Apple Watch」
「iPhone」といえば、あのAppleを最も象徴する登録商標だ。Appleの他の製品にも、決まって頭に「i」のイニシャルがついている。
「iMac」、「iBook」、「iPad」、「iPod」、そして「iTunes」、「iPhoto」、「iSight」と徹底して「i」を頭に冠したグローバルブランドだ。これだけ「i」にこだわるために要したライセンス料は、いったいいくらになるのだろうか。
もちろん、Apple社がすでに所有していた商標もあっただろうが、すべてがそうではないだろうことは容易に想像がつく。ちなみに、現在のApple社の繁栄を支え、Apple社の象徴といってもいいあの「iPhone」に類似する登録商標「アイホン」と「AIPHONE」を保有していたのが日本の「アイホン株式会社」だった。
結果的にApple社は、商標のライセンス料を支払って、「iPhone」という名称を使っているのだが、そのライセンス料は年間1億円にも及ぶと推測されている。また、日本語でアイフォンではなく、アイフォーンと呼称しているのもこの商標権によるものだろう。
ちなみに、Apple社の創業者であるスティーブ・ジョブズ亡き後にApple社から販売された腕時計型情報端末の商品名は、「iWatch」ではなく「Apple Watch」だった。
ジョブズなら、たとえいくら払おうとも、「iWatch」という名前にこだわっただろうと思うのは私だけだろうか。
著作物を守った商標権
知らないひとはいないだろう「ミッキーマウス」。当然「ミッキーマウス」も商標登録はされている。
結局キャラクターは、著作権で守るのか、商標権で守るのか、どっちなのだろうと思われたひともいるかもしれない。
キャラクターの場合、その原画が「美術の著作物」として著作権による保護が認められているケースが多い。キャラクターのデザインは著作権による保護だけで十分とも考えられるが、著作権も実はパーフェクトではない。
著作権は出願しなくても発生するが、この場合、権利を主張するためには、自らが作り出したキャラクターであることを証明するものを残しておかなくてはならない。「たまたま似たような著作物を創作しただけです」と言ってくるような第三者が現れ、その人がそれを証明してしまえば、自分の著作物だと言えなくなってしまう。そこをカバーするのが商標権なのである。
蘇り続けたミッキーマウスの延命措置
アメリカ合衆国におけるディズニー社の存在価値、ステイタスがどれほどのものか想像できるだろうか。
ちなみに、AppleやGoogleに代表されるアメリカの大企業の半数以上は、タックス・ヘイブンといわれる租税回避地に本社を置き、巨額の租税回避を実施している。
ところが、ディズニー社はそんな小細工は労せず、利益から定められたすべての税金をアメリカ合衆国に納税している。そんなディズニー社を、国や政治家達が軽々しく扱うわけはない。驚くべきことに、ディズニー社の著作権を守るために、合衆国の政治家達は一丸となって法律そのものを変えてくるのである。
アメリカの著作権法は、ミッキーをはじめとするディズニー社の主要なキャラクターの著作権が切れる直前になると、その保護期間の延長を定める改定措置を何度も繰り返している。
アメリカで初めて著作権法が誕生したとき、その保護期間は14年間と制定されていた。その後も改定措置が繰り返され、保護期間は延びる一方だったが、現在とは異なり、著作物保護のために登録が必要であった当時、申請を行う者はごく一部でしかなかった。
ミッキーマウス登場の以前から、著作権を主張したい一部の有力者のために保護期間を延ばす措置は行われていたのだが、ミッキーマウスの登場により、その傾向が一層高まったのだ。ミッキーマウスは1928 年に公開された「蒸気船ウィリー」でデビューを果たしたが、当時の著作権法に従うと、その権利は1984年には失効してしまうことになっていた。
そのためディズニー社は、その保護に向け、さらに合衆国を動かすことになる。1976 年、アメリカ連邦議会は著作権法制度の大幅な見直しを決定した。これまでの法律では、「作品発表から56年間」であったものを、ヨーロッパの基準である「著者の死後50年間」に変更された。これにより、ミッキーマウスは、2003 年まで著作権法で守られることになった。そして、2003 年が近づくと、またもお決まりの活動が始まったのだ。
1998 年に著作権法延長法が制定され、著作権の保護期間は原則として「著者の死後70年」となった。しかも、法人の場合は「発行後95年間」または「制作後120 年間」のどちらか短い方が適用されることとなった。さらにミッキーマウスは、2023 年まで著作権で保護されることになっている。
これらのことは「ミッキーマウス延命法」とか「ミッキーマウス保護法」などと揶揄する形で呼ばれている。
2023 年もすぐそこに迫っているが、アメリカの著作権法はもちろんすでに改定を前提に動いており、「著者の死後110 年」までという話も出ているくらいだ。これらのことが「フェアユース」の観点からすると長過ぎるのではないかという批判もあることは事実だ。
「フェアユース」とは、批評、解説、ニュース報道、教授、研究または調査等が目的の公正な利用であれば、著作権者の許諾がなくても著作物を利用できる制度であるが、少なくともディズニー社の著作物に関しては、「フェアユース」さえも認められていない感さえある。
日常を忘れさせてくれるディズニーランドの裏側には、常識さえも超えた非日常の法律が存在する。豪華につくられている建物の数々は、アメリカ合衆国という巨大な国家に守られた著作権料でできているのである。