多くのビジネスマンは、時代の潮流に乗り先端のテクノロジーを用いたビジネスをしたいと思うものだ。だが、あえて斜陽産業とされるビジネスで起業して稼いでいくことには大きなメリットがある。斜陽産業で起業した筆者の体験を交えつつその理由を解説する。
斜陽産業も完全に消えるわけではない
筆者はいくつかビジネスを手掛けてきたが、最初に手を付けて今でも取り組んでいるのがフルーツギフトショップの経営である。正直、フルーツビジネスを取り巻く環境は明るいとは言えない。フルーツの消費量は減っているし、そもそも果物の生産者も年々減少を続けている。
供給も需要も減少しているのだから、多くの人に言わせれば「オワコン(終わったコンテンツの略)」としか言いようがないだろう。
だが、このまま永遠に下げ続けるか?というとそうではない。日本のフルーツは日本で独自進化を遂げ、日本人の食の風物詩だ。お中元・お歳暮離れなどと同じで、減りはするものの文化なのだから消えてなくなることはない。それが消える時は、日本文化もとい、日本という国が文化を営めなくなるときだろう。
さらに、フルーツは日本全国でおやつや貴重な栄養源として楽しまれてきたので、もともとパイは大きいのだ。出版や新聞といった分野も斜陽産業とされているが、全部消えてなくなるか?というとやはり一定数は愛用者が残る。
さらに国の保護すべき重要文化財のような指定を受けて守られる立場になる可能性すらある。そんな斜陽産業の市場でスタンディングを取ることができれば、もはや保護産業とすら言えるだろう。
斜陽産業には新規参入者、強豪プレーヤーがいない
現在、世界を牽引している企業はほぼそのすべてがITと金融企業ばかりだ。それは世界の時価総額ランキングを見れば分かる。
世界時価総額ランキング (2019年09月末時点)
こうした分野には、高学歴、高キャリアの優れたエリートが世界から集まり、激しい社内外の競争を繰り広げている。筆者も会社員時代に金融系とメーカー系の外資系企業で働いていたが、同僚は高学歴の高キャリアばかりで、上を見てもきりがないほどであった。さらに、次々と優秀な社員がやってくるし、新しい企業も参入する。
だが、斜陽産業には優れたエリート人材はこうしたハイテク企業、先端の分野ほどはやってこないのが実情だ。産業内の変化も激しくない。シェアを取っている老舗企業も、旧態依然とした企業体制とマーケティングを繰り広げているので、後発組でもシェアを奪ったり、作り出したりすることは金融やITの分野ほどは難しくない。
実際、筆者は完全後発組のド素人スタートだったが、今ではこの分野でご飯を食べることが出来ている。斜陽産業はビジネスの速度が遅く、変化も緩慢なためにプレーヤーに優しいのだ。
世界を変えなくても生きていける
ITや金融の世界で名を上げようとする人は、「自分こそが世界を変える!」という強い気概と意気込みであることが多いようだ。その姿勢は素晴らしいことだし、決して否定はしない。そうしたフロンティアスピリッツにあふれる人が世界を変え、社会を豊かにしてくれるので称賛の声を届けたいと思うくらいである。
だが、起業家、経営者の全員が世界を変える必要はない。顧客や従業員が満足する会社を作ることができれば、十分すぎるほど豊かに人生を送ることができる。斜陽産業で起業する、経営をしてビジネスをすることは知られざる多くのメリットがあるのだ。
文・黒坂岳央(水菓子 肥後庵 代表・フルーツビジネスジャーナリスト)
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