医者が教える「ヤブ医者」の見分け方
金子俊之(かねこ・としゆき)
とうきょうスカイツリ―駅前内科院長・医学博士。1979年東京都生まれ金沢医科大学医学部卒。順天堂大学大学院医学研究科修了。日本リウマチ学会専門医・指導医。日本内科学会認定医。リウマチ・膠原病内科の名医。幼少の頃より動物や人体に興味を持ち医師を目指す中、基礎研究と臨床両方の経験を積めるリウマチ・膠原病を専門に力を注ぐ。大学卒業後は初期研修からリウマチ・膠原病領域で権威のある順天堂医院で学び、日本リウマチ学会専門医・指導医を取得。患者は30〜40代といった比較的若くリウマチを発症した女性が多く、都内だけでなく、関東近郊・全国からも来院する等、好評を得ている。また、専門分野に留まらず、医学業界(病院・医者)について鋭い発言を放つ等、今話題を呼んでいる期待の若手医師!

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健診内容から判別 無意味なオプションを勧める健診医療機関

会社員ならば年に一度は会社の健康診断を受ける機会もあると思います。自営業や個人事業主の方もたとえばお住まいのエリア(区や市など)で開催しているような健康診断に参加した経験があるのではないでしょうか。

病気になりたくなければ、少なくとも年に一回は健診を受けることが重要です。

なぜなら、健康診断によって大腸がんや胃がん、子宮頸がん、乳がんなど日本人が発症しやすい病気を早期発見できるといったメリットがあるからです。

ほかにも糖尿病や高血圧の疑いがある方をそのまま放っておくと、のちに心筋梗塞になったり失明などのリスクも出てきます。健診を受けることで事前に病気の疑いなどを察知して早期治療につなげることができます。

ここで問題なのが、健診医療機関で働く医者のほとんどが無知なヤブ医者であることです

私も若い頃に一度だけ健診医療機関でアルバイトをする機会があったのですが、そこでは驚くほどのヤブ医者が存在していました。悪徳な健診医療機関というのは、ヤブ医者を抱えているだけでなく、営利目的のために無意味なオプションを平気で勧めてくるので注意が必要です。

酷な言い方ですが健診医療機関で働いている医者の中には、非常に多くのヤブ医者が存在します。

大学病院だけの給与では生活できない若くて志のある医者がアルバイトで勤務しているとか、生活環境の変化で一時的に短時間勤務をしているなどの理由があればまだわかります。

しかし、健診医療機関で長い間フルタイムで勤務しているような医者で最新の医療知識をきちんと更新できている医者などいないに等しいと思っています。

悪徳健診医療機関は営利目的のためにすぐに無意味なオプションや検査をつけたがります。

そもそも検査のオプションというのは本来であれば専門医が必要に応じた検査をするものであり、専門医でないと必要性を判断できないものです。しかし、健診医療機関で働く医者たちはそういった知識や判断力さえ乏しいため、悪徳健診医療機関の操り人形のごとく安易な検査と誤診を繰り返しているのです。

もしかしたら、あなたも過去に無意味なオプションを勧められるがままに検査した経験があるのではないでしょうか。無意味なオプションにはたとえば次のようなものがあります。

~無意味なバリウム~

無意味な検査の一つにバリウムがあります。

バリウムを平気で勧めてくる医者は良心を欠いた医者であると断言できます。

もはやバリウムを医療保険でやっている医療機関などほとんどありません。みなさんも一度はバリウムを飲まされたことがあると思いますので、バリウムを飲む辛さはご存知だと思います。

日本では悪徳健診医療機関に用いられているバリウム検査ですが、米国をはじめ海外では使用を控えている病院がほとんどだと言われています。なぜなら、バリウム検査は無意味な検査であるだけでなく、バリウムを飲むことで健康被害に遭うリスクが高いからです。

そもそも早期の胃がんは、粘膜面に明らかな凹凸が見えないことがほとんどのため、バリウム検査で早期の胃がんを発見することは非常に困難だといわれています。

それなのにバリウムを飲んだことで、透視台で転倒しやすくなったり、便秘になってしまうリスクもあります。

それにバリウムは体内で固まりやすいので便秘気味の人だとかご高齢で消化器官の機能が弱っている方などは、飲んだバリウムが排泄されずに下手をすれば腸閉塞になるリスクもあります。

さらに検査ではたくさん放射線を浴びる分、被ばくもします。

結局、バリウムを飲んでみて異常が見つかれば次は胃カメラに回されます。だったら最初から胃カメラでよいという話になります。

そういった意味でも、悪徳健診医療機関が無意味なオプションであるバリウムを勧めるのは明らかに営利目的としか言いようがありません。

健診業者がバリウムの機械を入れているとか、バリウムの薬を使っている会社が儲けたいという理由でバリウムを勧めているのです。つまりバリウムを積極的に推奨している健診医療機関は詐欺の領域ともいえるでしょう。

スキルス胃がんなどごく稀なケースで、バリウム検査を勧めることはありますが、ほとんどが胃カメラで対応できます。そのため、健診レベルのスクリーニングでバリウム検査をすることは全くの無意味であることは覚えておいてください。

~無意味なオプション腫瘍マーカー~

二つ目の無意味なオプションが腫瘍マーカーです。

健診のオプションにはこの腫瘍マーカーが追加料金でついてくるケースが多いのですがこの検査自体が不要だと私は思っています。

腫瘍マーカーとは「がんのチェックができる」とうたっているオプションなのですが、これほど意味のないオプションはありません。

がんの種類が色々あるように腫瘍マーカーの種類もたくさんあります。

がんチェックと称して腫瘍マーカーをやっても、腫瘍マーカーの感度と特異度はどちらも50%ちょっとなのでかなり低いといえます。感度と特異度については次のとおりです。

・ 感度=感度が高いと除外診断に有用
・ 特異度=特異度が高いと確定診断に有用

つまりは腫瘍マーカーが陰性であってもがんであることはざらにあるのです。

腫瘍マーカーが陽性だったので追加で検査をするのであればまだマシと言えるでしょう。しかし腫瘍マーカーが陰性だったことで患者さんはがんじゃないと勝手に思い込んで必要ながん健診を受けなかった結果、後で実はがんと発見された場合は一体誰が責任をとるのでしょうか?

地域の医師会が主催する健診は私のような開業医がおこないますのでこんなことは絶対にありません。しかし、営利目的で企業と一緒におこなっている健診医療機関は問題です。そういう悪徳健診医療機関は場所代や最新の機材を導入しているという理由からコスト回収や利益追求のために無意味な検査やオプションを繰り返しているケースがほとんどだからです。

企業にとって健診というのは半ば義務化されているため、やむなく従業員に受けさせるものですが、そこに必要以上のお金をかけたくないというのが企業の本音でしょう。つまり企業にとっては健診そのもののサービスの質にはこだわりがないのが現状です。

健診医療機関のサービスの質だとか良し悪しに限らず単に健診費用が安ければいいという考え方なので健診医療機関のサービスの向上にまでは関われないのです。

これらの理由からも健診医療機関のサービスの質はいつまでたっても改善されないことが理解できると思います。

毎年受ける健診だからこそみなさんにはくれぐれも騙されないように注意してほしいと思っています。もし悪徳健診医療機関によって無意味な検査やオプションを勧められたときは、その医療機関に十分な説明を求めてみるのもよいかもしれません。