医者が教える「ヤブ医者」の見分け方
金子俊之(かねこ・としゆき)
とうきょうスカイツリ―駅前内科院長・医学博士。1979年東京都生まれ金沢医科大学医学部卒。順天堂大学大学院医学研究科修了。日本リウマチ学会専門医・指導医。日本内科学会認定医。リウマチ・膠原病内科の名医。幼少の頃より動物や人体に興味を持ち医師を目指す中、基礎研究と臨床両方の経験を積めるリウマチ・膠原病を専門に力を注ぐ。大学卒業後は初期研修からリウマチ・膠原病領域で権威のある順天堂医院で学び、日本リウマチ学会専門医・指導医を取得。患者は30〜40代といった比較的若くリウマチを発症した女性が多く、都内だけでなく、関東近郊・全国からも来院する等、好評を得ている。また、専門分野に留まらず、医学業界(病院・医者)について鋭い発言を放つ等、今話題を呼んでいる期待の若手医師!

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不要な検査、無駄な医療を見直す

あきらかに受ける必要のない検査や考え方自体を見直していかなければならない医療行為というものがあります。

なかでも検査すること自体が無駄といわれている検査の一つが「インフルエンザ検査」です

そして無駄とまではいいませんが日本人全体が考え方を変えていかなければならないものが「延命治療」です。

それぞれについてなぜ無意味であるのか、本来はどう考えるべきなのかといった点を詳しく解説しましょう。これらは私たちが生きている限り一度は経験することだと思うのでとても参考になると思います。

~インフルエンザの検査は不要~ 

「インフルエンザが猛威をふるう」というニュースが流れる時期に、高熱が出ると

「もしかしたらインフルエンザかも」

と心配になる方は多いと思います。みなさんも一度はインフルエンザ検査を受けた経験があるのではないでしょうか。

インフルエンザ検査でインフルエンザと判定された場合は薬を使用しなければならないと信じている人が多いようですがこれには気をつけなければなりません。

実はインフルエンザ検査の感度はかなり悪く、特異度が非常に高いものなのです。そのため検査で陽性だった場合は間違いなくインフルエンザと言えます。

一方で感度は低いのでインフルエンザ検査が陰性だった場合でも、実はインフルエンザということだってざらにあります。

昔は、冬に高熱が出て呼吸器症状があればインフルエンザと診断されていました。

臨床所見でインフルエンザと診断された人は、他人にうつる可能性があるので家に帰って解熱剤や咳止め、痰きりなどを飲んで寝るというのが一般的でした。実は今でもこれで十分なのです。かりに抗インフルエンザ薬を使っても1日か2日ほど治るのが早まる程度で、それがないと治らないというわけではありません。

最近はインフルエンザ検査の精度もよくなって感度が上がっているものもありますが、感染してから時間が短いと検査をしても正確な診断が出せないのが現状です。

そういう理由からもインフルエンザではないと見極めるのはとても難しいと考えています。インフルエンザ検査が正確でないので、患者さんが逆に診断結果に振り回されることにもなりかねません。

ちなみにインフルエンザ薬や検査などがどうしても必要な患者さんというのは、免疫を抑制する特殊な治療をしている患者さん、高齢者、乳幼児など体力のない人に限ります。

こういった患者さんには積極的に抗インフルエンザ薬(ゾフルーザとかタミフルとか)などを使うべきですが、健康体である若い方に関してはインフルエンザ検査なんてそもそも必要ありません。それに抗インフルエンザ薬を乱用することで耐性ウイルスの問題も出てくるので、できれば使わないでほしいと思っています。

~延命治療の見直しについて~

延命治療についてはとてもデリケートな内容のため、私も言葉を選びます。

しかし避けては通れない問題ともいえます。延命については今でも難しい問題とされていますが、国の医療負担や超高齢化に対応していくためにも、延命治療に対する考え方の見直しは必須です。

患者さんの病状にもよりますが、すでに寿命をまっとうした高齢者の方に延命治療をしてしまうことは正直に言って本人のためにもならないと思っています。

誰でも健康で長生きすることが理想です。

しかし、厳しい言い方をすれば人間はだれしも最後は亡くなるわけです。昔は、今のように医療技術も発達していなかったので、人工呼吸器や心臓マッサージなんてものはなく、最後に死期を迎えた方に関してはごく自然に亡くなられていました。

それに予後がない患者さんの中には、現状の病気が辛くて延命を望んでいないケースもあります。しかし、日本では本人は延命を望んでいなくても家族がそれを受け入れられずに心臓マッサージや人工呼吸器といった延命治療を選択してしまうケースが圧倒的に多いのです。

延命治療とは本人の希望というよりも、むしろ家族の納得のためにおこなわれているといっても過言ではないでしょう。

延命治療をしなければ、目の前の家族を見殺しにするような気持ちになるのかもしれません。

病気の本人が延命治療を望んでいなくても、事前にそれを表明しておかないと家族はそれを判断できません。ご本人が心臓マッサージを望んでいないと事前に伝えていたとしても、いざ心肺停止を起こせばその場に直面した家族は

「やっぱりやってください!」

と言うこともあります。

家族としては、やれることは最後までやり尽くしたいといった気持ちがあるのかもしれませんが、ときにそれは無駄な行為でしかありません。

なぜなら、一度心肺停止に陥った高齢者の方がその後、人工呼吸器を使用し、それを離脱して元気に歩いて帰れる可能性はほとんどありません。

できれば死の淵に立つ前に本人はどうしたいのか、家族はどうしたのかをきちんと話し合ってそれをきちんと書面に残すなどしておいた方が後々困らないと思います。助からないとわかっていながら救急車を呼んで心臓マッサージをしてICU管理するとなれば、そこには莫大な医療費用がかかってきます。

日本人はもっと延命治療に対する考え方や、死に対する考え方、安らかに看取ることの大切さなどを国民全体で考えていくべきだと私は思っています。