(本記事は、石島 洋一氏の著書『ざっくりわかる「決算書」分析』PHP研究所の中から一部を抜粋・編集しています)

プラス
(画像=PIXTA)

営業外収益と営業外費用

「営業外がプラスかマイナスか」で、企業の財務体質が見えてくる

●重要じゃないように見えて、けっこう重要

売上高、売上原価、売上総利益、販売費及び一般管理費(営業経費)、営業利益と、営業に関する損益状況を見てきました。ここからは「営業外収益」と「営業外費用」について、考えていきましょう。

収益にしろ費用にしろ、「営業外」という言葉がつくと、つい軽視したくなります。重要なものではないと……。しかし、営業外収益と営業外費用の差は、その企業の財務的体質をよく表している場合が多いのです。

営業外収益は、預金などからの受取利息、持っている株式からの受取配当金や雑収入など、本来の営業目的ではない収益を指します。もっとも、臨時巨額なものは特別利益になりますから、ここでいう雑収入は毎期経常的に発生するものです。一方、営業外費用は支払利息や手形の割引に要する費用(割引料、勘定科目としては手形売却損)が代表格です。

この営業外収益と営業外費用との差、これがプラスかマイナスかで、その企業の財務体質が見えてくるのです。

●高収益体質を誇るあの有名企業

中小企業では、事業資金を借入金に頼ることが多いのですが、大企業では財務体質が向上したことから、実質無借金の会社も多くなっています。ここでいう実質無借金とは、借入金や社債などの有利子負債の金額より、保有する現金預金のほうが多い会社です。それでも借入金があるのは、銀行とのおつきあいや予備的動機(急な資金需要の時に対処するため)です。

そうした会社では、営業外収益が大きくなり、最終純利益にも大きな影響を与える場合があります。例として、(株)ヤクルト本社(以下ヤクルト)の数字を見てみましょう。

ヤクルトは、ほどほどに借入金はあるのですが、現金保有も十分ある実質無借金の会社です。ここ数年、売上高に対する営業利益の割合もほぼ10%と、安定した高収益体制を維持しています。

2019年3月期の決算数値を見ると、相変わらず好調な数値ですが、営業利益458億円に対し、営業外収益が129億円もあります。実に営業利益の3割近くもあるのです。営業外費用は16億円程度ですから、営業外収益と営業外費用の差は、100億円を優に超えているのです。

●さらに「支払利息の負担度合い」をチェックしよう

営業外費用の中で特に気になる事項の1つが、借入をした時の利息です。新規に借りた借入金に対しての金利が何%かはもちろんですが、すべての借入金(社債等も含む)の利息がどのくらいになっているかも重要です。

通常は、売上高に対する支払利息の比率で判断します。先ほどのヤクルトの場合で0.2%、トヨタで0.1%程度なのですが、借入金の多い会社では当然、この比率が高くなります。固定資産が非常に多く、そのため借入金の多い電力業界や鉄道会社などでは、金利の低い現在でも売上高に対し1%を超える支払利息となっています。これらの会社は長期の安定収入が確保される業界なのでそう大きな問題ではないと思いますが、一般の会社で売上高の1%を超える支払利息は、現在の金利水準を考えれば警戒レベルといえます。

ざっくりわかる「決算書」分析
(画像=ざっくりわかる「決算書」分析)

経常利益の分析

ライバル企業との数字の比較には「経常利益」が最適

●経常利益が重視される理由

営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引いたものが経常利益です。

決算書の分析を進めるうえで、経常利益は最も重要な利益の1つとされています。特に他の会社との比較や、業界平均値との比較、あるいは自社の過年度との比較においては、最適な基準です。

日本企業では昔から、この経常利益の向上を最重要課題にしていたと言っても過言ではありません。

昨年度に比べて最終利益が2倍になった、などという場合でも、その理由が昔から持っていた土地売却による利益だったとしたら、素直に喜べません。

本年度の経営評価は、そうした臨時的な要因は排除して考えるべきでしょう。ですから、土地売却などの臨時的な要素が加味された最終利益以上に、経常利益が重視されてきたのです。

自社の過去の数値との比較以上に、同業他社との比較や業界平均値との比較をする場合であれば、なおさら意味を持つ利益ということになります。少し前までは、経営分析と言えば、この経常利益を起点として行われるものがほとんどでした。

●有名企業2社の売上高対経常利益率を分析

それでは、売上高から経常利益に至るまでの数値を、大手上場企業に登場してもらい、分析してみましょう。

ここで取り上げる2社は、化学業界で幅広く事業を手がけている旭化成と信越化学工業です。

旭化成は繊維や石油化学、エレクトロニクスなどの他、住宅部門でも大きな売上を上げている企業です。

対する信越化学は売上規模では旭化成に及びませんが、塩化ビニル、半導体シリコンで世界NO.1を誇るなど、特徴のある企業です。

2社の比較表を見ると、両方とも優良企業ではあるものの、利益率に関しては信越化学の数値がものすごく高いようです。見方によっては、旭化成が悪い会社にさえ見えてしまいますが、一般的には売上高に対する経常利益の額(売上高対経常利益率)は5%程度ですから、旭化成の数値もその2倍程度。素晴らしい数値なのです。

信越化学は前述の通り、得意とする分野をしっかり持っており、それが高収益につながっており、日本でも有数の超優良企業と言われています。

信越化学の売上規模は、旭化成の7割程度に過ぎませんが、売上総利益でかなり接近、営業利益、経常利益では逆転して大きな差になっています。

ざっくりわかる「決算書」分析
(画像=ざっくりわかる「決算書」分析)
ざっくりわかる「決算書」分析
石島 洋一(いしじま よういち)
1948年神奈川県秦野市出身。一橋大学経済学部卒業。民間企業、東京都商工指導所、会計事務所勤務を経て公認会計士事務所を設立。公認会計士、税理士、中小企業診断士。
現職は息子慎二郎氏の主宰する石島公認会計士事務所会長および㈱産業開発センター(研修受託会社)代表取締役。
中小企業の税務、経理の実務指導の他、「わかりやすく元気の出る決算書セミナー」の講師としての評価も高い。座右の銘は「人生、意気に感ず! 」。
著書に、経理の本としては異例の60万部を発行した『決算書がおもしろいほどわかる本』をはじめ、『これならわかる「会社の数字」』『決算書まるわかりレッスン』(以上、PHP研究所)など多数。経理本以外に『クロネコヤマト「感動する企業」の秘密』(PHP研究所)という著書もある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます