(本記事は、石島 洋一氏の著書『ざっくりわかる「決算書」分析』PHP研究所の中から一部を抜粋・編集しています)
営業経費の分析「人件費」
「人」に関する費用は、売上高の何%くらいか?
●「営業経費」の問題の大半は……
売上総利益(粗利益)までがまったく同じでも、販売費及び一般管理費(俗称で営業経費)が大幅に違うことがあります。たとえば、表のようなケースです。A社とB社を見比べてください。
さて、皆さんは経営コンサルタントです。B社の社長から「ウチはどうも営業経費の割合が高いようだが……」と相談されました。誰がどう見ても、営業経費に大きな差があるようです。
さて、この場合、営業経費のどの科目に問題があると考えるのが普通でしょうか。
営業経費に関する何の資料も見せないで答えさせるなんて、データを重視すべき時代に無茶な話かもしれません。でも、多くの方は「給料(あるいは人件費)」と考えたのではないでしょうか。
意外性がなくて申し訳ないのですが、それでよいのです。
ほとんどの業種・会社では、営業経費の中でいちばん大きな経費は「人件費」です。営業経費の半分くらいを人件費が占めていると考えてもよいでしょう。
それだけ、人件費のウエイトは大きいのです。
こうした人件費が売上高の何%くらいになるのか、この比率も決算書分析をする時に重視すべき比率の1つです。
●人件費は給料だけではない
人件費を分析する時に注意しなくてはならないのは、人件費は給料だけではないことです。
賞与や退職金はもちろんですが、社会保険料などの法定福利費、従業員の慶弔禍福(けいちょうかふく)や社員旅行などの費用である福利厚生費も人件費に含まれるのです。また、通勤交通費も人件費として分析することが多くなっています。
特に、社会保険料については、給料の15%ぐらいを負担するような水準になっています。人件費を考える時に無視できない項目です。
経営改善をしようとする時に、まず人件費の問題を抜きにして考えることはできません。大胆な経営再編を考える時、機械化により大幅に人的効率がアップする時、競合上経費のカットが不可欠の時……など、人件費は大幅な収益改善を目指す時には必ず登場する、注目しなければならない費用であることは確かです。
- 法定福利費
- 社会保険料の会社負担分。厚生年金や健康保険の保険料は会社と社員で折半だが、雇用保険は会社負担分のほうが多い。また、労災保険は全額会社負担。最近、政策的にパートなども社会保険に加入させようという動きがあり、企業の費用負担は増えている。
営業経費の分析「広告費等」
過去数年の推移を見て、「徐々に上昇している」経費に要注意!
●前年だけでなく、過去5年分を比較してみよう
決算書分析において、前年度の実績と比較してみることは、非常に有効な分析手法です。特に、営業経費の分析に関しては非常にわかりやすく、なぜその経費が増加したのかどを分析してみることが重要です。
ただし、2期間の比較だけだと、たまたまその年に特殊事情がある場合など、比較がムダになることがあります。そこで考えたいのが、もう少し長い期間での費用の分析です。ある基準年度の経費の金額を100として、どのように変化しているかを見るわけです。
図表の例は、売上高、人件費、広告費、運賃について、5年前を100として作った表です。指数だけのほうが見やすいかもしれませんが、金額も入れてあります。金額の大きさで重要性が判断されるからです。
この図表を見ると、明らかに広告費の金額が増加しているのがわかります。さらにグラフ化すれば、はっきりと変化が読みとれます。
こうした営業経費の分析で注意したいのは、ある種の意思決定によって、特定の費用科目が増加する反面、別の費用科目が減少するケースがあることです。
たとえば、今までは借りていた店舗等を購入した場合はどうでしょう。「貸借料」が減るかわり、店舗等の固定資産の時の経過による価値減少分=「減価償却費」が増えることになります。
このように、ある経費の増減原因を追求してみると、「そういう理由だったのか」と簡単に納得してしまう場合も少なくありません。経費増減の背景を考えることは重要です。
●営業経費の「業界平均との比較」は有効か?
「営業経費を10種類挙げてください」
研修会で、2分程度の時間を使って挙げてもらうと、10種類以上の営業経費を挙げられる人は1割前後です。
給料、賞与、法定福利費、福利厚生費、広告費、交通費、水道光熱費、通信費、租税公課、保険料、減価償却費、修繕費、諸会費、交際費、会議費、研究開発費、雑費……。他にもあるでしょうが、これらの科目はどのように分析すればよいのでしょうか。
前述したように、自社の過年度との比較は有効で、これは容易です。
他社、または業界平均値との比較はどうでしょう。
実は営業経費の勘定科目の使い方は自由で、会社ごとにかなり異なっています。したがって、業界平均値などの指標が勘定科目単位では取りにくいのです。
実際に各種の経営指標を見ても、人件費以外で指標に使われている営業経費の科目は広告費くらいです。そうした意味からすると、各経費が多いかどうかの判断は、業界平均との比較ではなく、自社の前年比較などの時系列比較のほうが有効であることになります。
- 減価償却費
- 建物や車両などの固定資産は、年数の経過とともに劣化していく。この価値減少分が減価償却費。減価償却費がいくらかは誰も判定できないため、税法でその計算方法を決めている。減価償却費は他の経費と違い、資金支出を伴わない費用である点が特徴。なお、固定資産でも土地は減価償却しない。
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