(本記事は、石島 洋一氏の著書『ざっくりわかる「決算書」分析』PHP研究所の中から一部を抜粋・編集しています)

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EVAで企業評価をする

先進企業が採用する「積極性」を表わす指標

●損益計算書の「最大の欠点」とは何か

冒頭での皆さんへの質問です。

銀行から借りたお金等への「支払利息」は、損益計算書の営業外費用に計上されると申し上げました。では、株主等への「支払配当金」はどこに計上されるのでしょうか。

実は、支払配当金は損益計算書に計上されないのです。つまり、損益計算書には負債のコスト(支払利息)は計上されているのですが、自己資本(純資産)のコストは計上されないのです。これは損益計算書の最大の欠点ともいえます。

自己資本を多く用いている企業では、「最終的には利益が出ているからよいだろう」では済まされません。自己資本のコストに見合った利益が出ているかどうかが問題なのです。

そこで、自己資本コストも含めた企業評価の方法が考えられるようになりました。ここでご紹介する「EVA」(Economic Value Added=経済的付加価値)が、その1つです(EVAはスターン・スチュアート社の登録商標です)。次の算式で示されます。


EVA=税引後営業利益-資本コスト

EVAでは、税引後営業利益(NOPAT=Net Operating Profit After Tax)という概念を使っています。要は、営業利益から税金を差し引き、さらに資本コスト(負債コストと自己資本コスト)を差し引くことで、これがプラスなら経済的付加価値が認められるというのです。

ざっくりわかる「決算書」分析
(画像=ざっくりわかる「決算書」分析)

●比率でなく金額であることが重要

資本利益率(利益÷資本)は、経営指標の最重要指標とされています。しかし、資本利益率向上のために、利益の増加よりも、分母の資本の減少に力が注がれたのでは問題です。企業が縮小均衡に向かってしまう危険性があり、望ましいことではありません。

その点、EVAは金額で求めるものであり、積極的な企業姿勢が評価されることになります。

EVAの最も大きな特徴は、資本コストとして、負債コストの他に自己資本コストを組み入れていることです。負債のコストは外部に支払う金利等ととらえればよいでしょうが、自己資本のコストとは何でしょうか。

自己資本のコストは、株主の期待収益率と考えられるのが普通です。国債のようなリスクフリーの商品ではなく、株式のようなリスク資産を購入するのは、それだけ大きな利益が期待できるから。それが期待収益率です。

これがどのくらいかは議論の余地のあるところですが、この期待収益率を自己資本コストと考え、税引後営業利益が資本コストを上回れば、一定の評価が与えられるとする方法です。

たとえば、税引後営業利益が10億円あったとしても、負債のコストが6億円、株主の期待利回りを考慮しての自己資本コストが5億円であるなら、その会社(あるいは事業)のEVAはマイナス評価となります。これがプラスになれば満足できる利益水準というわけです。

EVAと同様の考え方は以前からあったようで、日本でも多くの先進的企業が取り入れるようになりました。しかし、一時期と比べると採用企業は減っています。自己資本コストの決め方が難しいことに大きな原因があるようです。

ただ、自己資本コストを意識した経営を目指すべきだという主張は、非常に重要であることは間違いありません。

PERとPBR

投資家なら必ずチェックしておくべき「1株あたり」の数値

●PERが高い株は「割高」?

株主の立場から気になるのが、「PER」(Price Earnings Ratio ピー・イー・アール)です。

PERは「株価収益率」と訳されており、株価を1株あたりの利益で除して求めます。


PER=株価÷1株あたり利益

この場合の1株あたり利益は、税引後の当期純利益を株数で割って求めます。そして、株価をその数値で除したものがPERです。

たとえば、株価600円、1株あたり利益30円なら、PERは20倍となります。PERが高いということは、利益のわりに高い株価水準で株が売買されていることを意味します。

ざっくりわかる「決算書」分析
(画像=ざっくりわかる「決算書」分析)

どちらかといえば、PERが高い会社の株は買い得とはいえないようです。ただ、PERが高いことは、今後の企業への期待値が高いことを意味するものでもあります。

それに対し、PERの低い会社は、株価が割安の状況にあるわけです。

PERはその時の株式環境でかなり変動しますが、10倍から20倍くらいの企業が多く、平均は15倍くらいになっています。

なお、1株あたりの利益については、実際の利益ではなく、企業の発表する予想利益を使うこともしばしばあります。

●PBRが1以下の企業に注目?

「PBR」(Price Book value Ratio)は株価純資産倍率と訳されますが、株価が「1株あたり純資産」の何倍になるかです。

純資産とは総資本から負債を差し引いた金額です。


PBR=株価÷1株あたり純資産

PBRが低い会社は、純資産が多いわりに株価が低いことを意味しています。特にPBRが1以下の会社は、割安感が強いといえます。

理論上は、PBRの割合が1というのが株価の下値と考えられますが、実際には、1を下回る会社も相当数あります。平均すると1.2倍程度です。

もし、PERとPBRが株価と連動しているのが確実なら、株式を買う時にはこの比率だけを見ればよいことになるのですが、そう単純ではないようです。株価の変動要素は複雑ですし、企業業績とは関係ないところで変動することもあります。ですから、PERやPBRはあくまで参考指標といえます。

投資指標の調べ方
1株あたり利益を計算する際などに必要となる「発行済み株式数」は、『四季報』などの書籍や各種ホームページで簡単に調べることができる。また、PERやPBRといった投資に役立つ指標は計算しなくても、こうしたホームページなどにそのまま載せられていることも多い。
ざっくりわかる「決算書」分析
(画像=ざっくりわかる「決算書」分析)
ざっくりわかる「決算書」分析
石島 洋一(いしじま よういち)
1948年神奈川県秦野市出身。一橋大学経済学部卒業。民間企業、東京都商工指導所、会計事務所勤務を経て公認会計士事務所を設立。公認会計士、税理士、中小企業診断士。
現職は息子慎二郎氏の主宰する石島公認会計士事務所会長および㈱産業開発センター(研修受託会社)代表取締役。
中小企業の税務、経理の実務指導の他、「わかりやすく元気の出る決算書セミナー」の講師としての評価も高い。座右の銘は「人生、意気に感ず! 」。
著書に、経理の本としては異例の60万部を発行した『決算書がおもしろいほどわかる本』をはじめ、『これならわかる「会社の数字」』『決算書まるわかりレッスン』(以上、PHP研究所)など多数。経理本以外に『クロネコヤマト「感動する企業」の秘密』(PHP研究所)という著書もある。

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