(本記事は、石島 洋一氏の著書『ざっくりわかる「決算書」分析』PHP研究所の中から一部を抜粋・編集しています)

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(画像=PIXTA)

不動産業界の両雄を斬る

三井不動産と住友不動産を比較してみると

●不動産業界のビッグスリーといえば……

日本の不動産業界というと、三井不動産、三菱地所、住友不動産がビッグスリーとして挙げられます。今回はこのうち三井不動産と住友不動産の両社を題材に、実際の決算書を分析していきましょう。今まで勉強してきた決算書分析を体系的にまとめていこうという趣向です。

三井不動産と住友不動産というと、銀行(三井住友銀行)が一緒になっていますので、将来は合併するのではないかという見方もあるようですが、今のところ、それぞれに独立した経営を営んでいます。

三井不動産は、商業施設ららぽーと、東京ミッドタウンなどの開発を手がけ、最近では巨大な日本橋再生計画などを実施しています。

一方で住友不動産は、5年連続で分譲マンションNO.1の実績を誇るほか、都心部のオフィスビル賃貸などの分野でも、勢いのある会社です。

この両社の属する不動産業界は、意外と手堅く(「意外」は失礼でしょうか)、ここ数年、安定的な業績を上げています。しかし、リーマンショックなど経済環境の激変があれば、倒産する企業が多く出る業界でもあります。

●比率分析の前に確認しておきたいこと

さて、これから三井不動産と住友不動産の比較をしていくわけですが、銀行が一緒なので、三井か住友か、どちらがどちらだかわからなくなります。そこで、私たちは規模の小さな住友不動産の社員の立場で数字を見ていきましょう。業界最大手の三井不動産と比較しながら私たちの会社(住友不動産)を分析していくのです(念のためのお断りですが、私は三井不動産に敵意はありません。混同を避ける意味での手法です)。

そこで、呼称としては、住友不動産の社員という前提なので「住友」と呼び捨て、業界最大手の三井不動産のほうはそのまま「三井不動産(ふどうさん)」と、さんづけ(?)していくことにしましょう。

決算書の分析をする時には、すぐに比率分析に入りがちですが、その前に会社の規模を確認しておきます。

まず、貸借対照表の総資本(総資産)を見ると、三井不動産が6兆8000億円、住友が5兆1000億円と、3割ほど三井不動産のほうが多くなっています。

さらに売上規模では、三井不動産が1兆9000億円弱なのに対し、私たちの住友は初めて1兆円に手が届いたところです。資産規模以上に売上規模は三井不動産が大きいのです。また社員数(連結)では、三井不動産が約1万9000人に対し、住友は約1万3000人です。

ただ、ここ数年の売上の増加率(成長性)については、三井不動産よりも住友のほうが高く、まだまだ差が大きい状況ですが、追い上げていることには期待が持てます。

まずは両社の決算書(要約版)をざっと眺めることにしましょう。

ざっくりわかる「決算書」分析
(画像=ざっくりわかる「決算書」分析)
ざっくりわかる「決算書」分析
(画像=ざっくりわかる「決算書」分析)
ざっくりわかる「決算書」分析
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総資本対当期純利益率から出発

住友不動産が大きく上回っている数字とは?

●最初は大きな分析比率から出発

会社を分析する時には、前項で行ったように、必ず会社の規模を確認したうえで、比率分析に入っていきたいものです。

比率分析で最初に見ておきたいのは「資本利益率」ですが、ここでは資本に総資本、利益に当期純利益を使って、総資本対当期純利益率(ROA=Return On Assets)からスタートします(他に、特別損益等を無視して、総資本対経常利益からスタートすることもあります)。

当期純利益÷総資本で計算すると、三井不動産が2.6%であるのに対し、住友は2.6%と拮抗(きっこう)しています。経常利益率などと比べると、当期純利益率は税金を差し引いた後ですから低くはなるのですが、両社の比率は他業界と比べ高いとはいえないようです。

では、この両社ともに総資本対当期純利益率が一般レベルよりも低い理由を考える時、次にどんな比率へと展開したらよいのでしょうか。

投資利益率(利益÷資本)は2つの分数に分解できました。1つが売上高利益率で、もう1つが資本回転率でした。ここでは総資本対当期純利益率からスタートしていますから、分解式は、「売上高対当期純利益率」と「総資本回転率」です。

それでは、両社の売上高対当期純利益率及び総資本回転率を計算してみましょう。

●売上高利益率の大きな差の原因

売上高対当期純利益率では、業界最大手の三井不動産が9.1%であるのに対し、住友は12.9%と非常に高い数字です。三井不動産の数字も悪くはないどころか、非常に優良な数値です。それにもかかわらず、住友の比率がさらに上回っているのです。

住友は利益を非常に重視している会社といわれます。販売においても、顧客に自社物件のよさを十分にわかってもらい、成約に結びつける経営姿勢がこの結果を生んでいるようです。一般的に不動産の業界では、売れ残ったりすると大変なので、値引き販売が起こりやすいと言われます。その点、住友の高い利益率は立派なものです。

住友の利益率が高い原因として他に挙げられることが、収入の中で賃貸による収入が多いこともあります。賃貸は物件を所有しなければいけないデメリットはありますが、利益率が高いので、会社全体の利益率が高くなるのです。

●資本回転率は不動産会社のアキレス腱

一方の資本回転率はどうなのでしょう。

ちょっと考えればわかるように、不動産の業界は、販売用の不動産(棚卸資産として流動資産に計上されます)にしろ、賃貸用不動産(固定資産)にしろ、非常に多くの投資が必要になります。

この総資本回転率ですが、一般的な業種の大会社では1回転を下回っています。昔は多くの会社が、年間売上 > 総資本という関係にあったのですが、今はこの関係が逆転しました。といっても、1回転を少し下回る0.8から0.9回転程度です。

さて、この両社はどうでしょうか。

三井不動産は0.27回転と一般的水準からすると相当低くなっています。しかし、住友はさらに低く0.20回転です。この点では、住友は売上高のわりにものすごく多くの資本を投下していることになります。賃貸用不動産を多く所有していることなどが、その原因なのでしょう。

この両社の総資本利益率はほぼ同じですが、売上高利益率では住友が、資本回転率では三井不動産が上回っています。

ざっくりわかる「決算書」分析
(画像=ざっくりわかる「決算書」分析)
ざっくりわかる「決算書」分析
石島 洋一(いしじま よういち)
1948年神奈川県秦野市出身。一橋大学経済学部卒業。民間企業、東京都商工指導所、会計事務所勤務を経て公認会計士事務所を設立。公認会計士、税理士、中小企業診断士。
現職は息子慎二郎氏の主宰する石島公認会計士事務所会長および㈱産業開発センター(研修受託会社)代表取締役。
中小企業の税務、経理の実務指導の他、「わかりやすく元気の出る決算書セミナー」の講師としての評価も高い。座右の銘は「人生、意気に感ず! 」。
著書に、経理の本としては異例の60万部を発行した『決算書がおもしろいほどわかる本』をはじめ、『これならわかる「会社の数字」』『決算書まるわかりレッスン』(以上、PHP研究所)など多数。経理本以外に『クロネコヤマト「感動する企業」の秘密』(PHP研究所)という著書もある。

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