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投資についての情報ソースは、新聞・雑誌やインターネットなど、どんどん多様化しており、今や投資初心者でもリアルタイムで情報入手できるようになっています。反面、根本となる理論や考え方を身につけるには、即時性の高いメディアだけでは十分とはいえません。投資家たちが著した書籍は、今や古典とも評されるものもありますが、根本の部分はまったく古びていません。本記事では、投資初心者の役に立つおすすめの本10冊を紹介します。
投資を本で学ぶメリット
アメリカのオークションサイト「イーベイ」には2012年から毎年、投資の神様ともいわれるウォーレン・バフェット氏と「昼食を共にする権利」が事前オークションとして出品されています。2019年の落札価格は456万7,888ドル(約5億円)と過去最高額を更新し、その希少価値の高さを窺わせます。11歳で初めて株を購入して以来、約70年間で8兆円近い資産を築いたバフェットとの会食は、投資家にとっては魅力的ですが、一般人にとっては遠い世界の話でしょう。
ところが、バフェットなど著名な投資家たちが書いた本であれば、高くても数千円で入手できます。彼らが数十年かけて築いた理論や方法の「おすそわけ」が、たった数千円で得られるのです。
インターネットは、知りたい情報をピンポイントで得ることに適したメディアです。しかし「学ぶ」という行為では、個々の情報の前後にある文脈を理解することが重要です。そのためには知識を体系的に摂取していく必要がありますし、時には立ち止まり、過去に学んだところまで引き返すこともあります。
こうした学びには、本というメディアが強みを発揮します。ページを手繰ってすぐに戻れるだけでなく、ラインを引いたり書き込みをしたり、付箋を付けることで自分だけの参考書が完成するのです。本で学びつつインターネット検索で補い、投資サイトなどで新規情報を仕入れることで、自分自身の投資スタイルを効率よく形成できるでしょう。
「投資本」はどのような立場から書かれているか
ひと口に「投資本」といっても、テーマは多岐にわたります。投資に関心を持ち始めた人にその良さを紹介する本や、初心者に向けた入門書、独自の理論に基づく高度なノウハウなど、内容はさまざまです。
実践的と思えるタイトルでも、読んでみると個人の体験記に過ぎないものもあれば、手法について理論的に述べられているものもあり、内容は千差万別です。タイトルと内容が一致しないケースがあることは、念頭に置く必要がありそうです。
また、短期で儲けを出すための本と、リスクをおさえた長期投資を指南する本では、同じ投資でも主張は正反対となります。手法や目的で視点が異なるので、目指す投資スタイルに合ったものを選ぶことが重要です。
さらにデイトレーダーや大口投資家、銀行員、証券会社社員、保険会社社員など、その立場で投資観は大きく変わりますし、想定している読者層で内容も大きく変わります。「誰が」「誰に」伝えようとしているかを読み解くことも、投資本選びのポイントです。
成功者には「生存者バイアス」がかかっている
投資とは選択と意思決定の連続で資産を築いていく行為ですが、選択には成功と失敗の両面があります。少数の成功者の背後には多数の失敗した人たちが存在しますが、本を書く人のほとんどは成功者です。
彼らは自分自身の選択を、正しい理論と一貫した相場観に基づくものだと説明しがちですが、彼らには失敗した人たちのプロセスは見えていません。再現性の高い理論による成功なのか、あるいはたまたま運が良かっただけなのかを、彼ら自身に検証することはできませんが、成功者は自分自身のプロセスを一貫した正しい行動だと説明したがる傾向があり、これを「生存者バイアス」といいます。
体験記タイプの投資本は「1年で2億稼ぐ!」といった刺激的な表現で飾られがちです。しかしリスクとリターンは常に同じ振り幅で存在します。選択を理論で裏付けることでリスクを低減できる可能性はありますが、リターンの大きさばかりを強調する謳い文句や内容には要注意といえます。どんな名著も、あくまでも「参考にとどめる」冷静さが大切です。
「賞味期限切れ」に注意
長年読み継がれているロングセラーは、多くの人に支持されるだけの価値があるといえます。しかしながら、頻繁に改訂され著者の手で情報が更新されているものはともかく、初版からまったく内容が変わっていないものもあります。海外でベストセラーになってから、日本語版が発売されるまでに数年かかっていることも珍しくありません。
相場は日々刻々と変動します。投資の基本的なルールや考え方など根本的な内容は別として、挙げられている過去の実例などは、あくまでもデータの1つに過ぎないと認識する必要があります。
売れ筋ランキングから良書を精選
書店の店頭には数多くの投資本が並びますし、Amazonや楽天ブックスなど通販サイトで「投資」と検索しても、無数に近いほどのタイトルが表示されます。事前に興味のある本をピックアップしておき、書店でざっと目を通してみるなど、本選びでは選択肢をある程度まで絞ることも大切です。
初めて投資本を読む際は、通販サイトで表示されるタイトルから、刊行から数年経っている本を選ぶと良書に出会いやすくなります。新刊は上位に表示されやすい傾向がありますが、数年経ってなお上位にランクインするものは、多くの読者によって精査されている可能性が高いからです。
ここからは、2020年11月にAmazonの「マネー・投資」売れ筋ランキング上位に表示された本から、10冊を選んで紹介します。
※Amazonの売れ筋ランキング結果は1時間ごとに変化するため、同じ本が表示されないこともあります。
『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください』
山崎元・大橋弘祐 著、文響社、1,518円(2015年11月刊)
金融12社を経験し「お金のプロ」と呼ばれる山崎氏が、「お金のド素人」の疑問に答えた一冊です。
イラストや図表が多く、会話形式の解説でテンポよく読み進められます。投資未経験者が抱く不安や疑問について、ユーモラスな表現をまじえつつ、わかりやすく説明しています。投資だけでなく銀行預金やローン、生命保険、社会保険、医療保険、年金など、お金にまつわる制度やサービスの仕組みも紹介されています。
『マネーの公理 スイスの銀行家に学ぶ儲けのルール』
マックス・ギュンター 著、日経BP、1,760円(2005年12月刊)
13歳で株式マーケットに参入した投資家マックス・ギュンターによる、「投機」の指南書です。
投資ではなく「投機」、つまりトレードを行うための姿勢や心構えについて、明快に論じています。「直感と希望とを混同するな」「小さな損失は人生の現実である」といったシビアな切り口は、爽快ですらあります。体験談の部分はやや生存者バイアスを感じさせますが、実践者ならではの説得力もあります。
トレーダーを目指すのであれば、読んでも損のない一冊といえます。自分に合う投資スタイルが定まっていない人にとっても、さまざまな投資手法を知ることができる本です。
『ウォール街のランダムウォーカー 株式投資の不滅の真理〈原著第12版〉』
バートン・マルキール 著 日本経済新聞出版、2,750円(2019年7月刊、初版1973年刊)
投信会社バンガードの社外取締役を務めた経済学者、マルキールの名著です。初版以来12回の改訂を重ね、全米では累計150万部を超えるロングセラーとなっています。
「インデックス・ファンドへの投資がベスト」という著者の主張の裏付けとして、さまざまな投資方法を詳細にデータ分析しています。資産運用の基本についても詳しく解説し、とくに第12章「財産の健康管理のための10カ条」は米国のみならず日本の個人投資家にとっても肝に銘じておきたい内容となっています。
リスクの取り方を安眠度に例えて投資対象を分類したり、オスカー・ワイルドの名言を引用したりと、シニカルな表現には読み物としての面白さもあります。内容はきわめて冷静で、明瞭な論調には長年支持されてきた理由を窺わせます。
『お金は寝かせて増やしなさい』
水瀬ケンイチ 著、フォレスト出版、1,650円(2017年12月刊)
『ウォール街のランダムウォーカー』に強い感銘を受けた著者が実践したインデックス投資を、本音ベースで解説した一冊です。金融のプロではない1人の個人投資家としての目線から、実体験や成果に基づいて投資法を明快に解説しています。随所にマンガもあり、投資初心者や未経験者でもイメージが湧きやすい内容となっています。
また、ほかの投資本にはあまり紹介されていない「出口戦略」、つまり投資の終わらせ方が具体的に指南されている点もユニークです。インデックス投資に興味がある人だけでなく、初めての投資指南書にも適していそうです。
『めちゃくちゃ売れてる株の雑誌ZAiが作った「株」入門 改訂第2版』
Diamond ZAi 編集部 著、ダイヤモンド社、1,760円(2013年4月刊)
全ページフルカラーで、写真やイラスト、図表などがふんだんに使われています。カジュアルな雰囲気で刺激的な表現が目立ちますが、数ある入門書のなかでもっともわかりやすく、楽しく読み進められるものの1つです。
ネット証券の銘柄ページ、株価のチャートや売買板など、実際の画像を用いて解説しています。言葉だけでは理解しにくい専門用語も、視覚情報が多いことでイメージしやすく、すんなりと理解できます。これから投資を始めようと思っている人、興味はあっても難しそうで手が出せない人に最適です。投資を始めたばかりの人にとっての用語辞典としても、しばらく活躍しそうです。
『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』
ハワード・マークス 著、日本経済新聞出版、2,200円(2012年10月刊)
世界最大の投資会社オークツリー・キャピタルの会長兼共同創業者である著者が、顧客レターに綴っていた「大切なこと」を元に、投資哲学を説いた本書はバフェット氏が激賞したこともあり、全米でベストセラーとなりました。
本書には刺激的な言葉も、挑発的なあおり文句もないため、成功への近道を求めている人には物足りなく感じられるかもしれません。あくまでもじっくりと丁寧に、投資の基本が説かれています。
投資の難しさも詳らかにしているため、厳しい内容ともいえますが、恩師の教えのように腑に落ちるものばかりです。手元に置いて、何度も読み返したい一冊といえそうです。
会社四季報の達人が教える10倍株・100倍株の探し方』
渡部清二 著、東洋経済新報社、1,540円(2018年6月刊)
『会社四季報』(以下「四季報」)は、日本の上場企業の基本情報や株価、業績などが掲載されている情報誌です。毎号2,000ページを超えるその情報量は膨大ですが、20年にわたり「四季報」を完全読破してきた著者が、テンバガー(10倍まで跳ね上がる銘柄)を探すコツを紹介したのがこの本です。
急成長の兆しを見つけるために、過去のデータを検証しつつ、注目すべき指標の見方や追い方を解説しています。掲載されていない数字を計算で出す方法や、コメント欄から編集者の見解を読み取る方法など、裏技ともいえるアドバイスも載っています。
銘柄選択の参考としてだけでなく、著者の「四季報」への愛情の深さが伝わってきます。触発されて「四季報」を購入するきっかけにもなりそうです。
史上最強の投資家 バフェットの財務諸表を読む力 大不況でも投資で勝ち抜く58のルール』
メアリー・バフェット、デビッド・クラーク 著、徳間書店、1,650円(2009年3月刊)
バフェットの投資手法を解説する本は数多ありますが、この本では、バリュー投資に適した「永続的競争優位性を持つスーパースター企業」を探すためのルールが解説されています。とくに財務諸表から見落としがちなヒントを読み取る方法が詳しく紹介されているのが特徴です。
損益計算書では「売上高のどこに注目すべきか」、貸借対照表では「流動資金のサイクルが何を表すのか」など、多くの実例とともに具体的に解説され、実践してみたいと思わせてくれる内容となっています。
数字の動きから企業の状況が鮮やかに浮かび上がるさまは、読み物としてのおもしろさもあり、じっくりと読みたい一冊です。
株式投資の未来~永続する会社が本当の利益をもたらす』
ジェレミー・シーゲル 著、日経BP、2,420円(2005年11月刊)
「ウォートンの魔術師」と称されるジェレミー・シーゲルが、長期投資のための銘柄選択を指南する一冊です。バフェットの説くバリュー投資の正しさ、長期的な戦略の盲点、陥りやすい罠について、膨大なデータを用いて解説しています。
成長の兆しの見きわめ方や、市場の見方、資金配分など基本的なルールだけでなく、タイトル通り「未来」に向けての考察があるのも特徴の1つです。なかでも高齢化による人口変遷の影響や、世界的な視野での見通しは興味深い内容です。
『オニールの成長株発掘法【第4版】』
ウィリアム・J・オニール 著、パンローリング、4,180円(2011年4月刊、初版2001年)
米国屈指の投資家ウィリアム・J・オニールが、独自の「大化け銘柄発掘法」を紹介するロングセラーです。
「CAN-SLIM」と呼ばれるオニール独自の投資法について、徹底的に解説されています。実際に大化けした100銘柄のチャート表が掲載されており、見方や落とし穴についても丁寧な解説が添えてあります。銘柄の選び方、買うタイミング、売りの見きわめ方など、実例を挙げての説明はわかりやすく、専門的でありながら初心者を突き放しません。
大暴落から身を守る方法や、投資家が陥りがちな誤りなど、基本的で普遍的な教えもあり、高価とはいえその分の値打ちは十分にありそうです。
まとめ:投資本は良薬にも劇薬にもなる
入門書やノウハウ本、体験記と指南書など、投資本にはそれぞれの目的があり、いくつか読み比べてみるとその違いが理解しやすくなります。自分の目的や目標にあった本に出会えたら、その内容を鵜呑みにするのではなく、自分なりの解釈を加えて投資メソッドを仮組みし、実践と検証を繰り返すことでメソッドは完成に近づいていくことでしょう。名著であってもその内容のすべてが真理ということはなく、良薬として用いるためには、本との適切な距離も大切です。
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