一般企業と違い景気に左右されないなど安定しているイメージが強い公務員ですが、反面制約が多く、副業も基本的に禁止されています。そもそも公務員って株式投資をしていいの?など、公務員に向いている投資手法、知っておきたい投資制度についてお伝えします。

目次

  1. 公務員が株式投資を行うメリット
    1. 老後資金を準備する上でそもそも選択肢が少ないのが公務員
    2. 副業禁止のなか、収入先を確保できる数少ない道が「投資」
    3. 日中に株価を見続けなくても投資はできる手法がある
    4. 時間を有効に使うことができる
    5. 金融経済知識が身につき、仕事で活かすことができる
  2. 公務員に向いている投資スタイル・投資手法
    1. インデックス投資(指標との連動を目指した運用)
    2. 中長期投資(企業の長期的な成長に掛ける)
  3. 公務員が知っておきたい投資制度:iDeCoとNISA
    1. iDeCoの制度概要、メリットとデメリット
    2. NISAの制度概要、メリットとデメリット
    3. iDeCoとつみたてNISAのタッグはどのくらいすごい?
  4. 公務員でも開設しやすいネット証券の口座開設手順
    1. 簡単なネットでの口座開設(例:SBI証券の場合)
    2. 一般口座?特定口座?どちらを選択するべき?
  5. 公務員が株式投資を始めるにあたって知っておきたいこと
    1. 公務で知り得た情報を投資に活かすのはNG
    2. 公務中の取引はNG
  6. 公務員の安定性を生かした投資をしよう

公務員が株式投資を行うメリット

公務員は、退職金もしっかりと支給され、年金面でも優遇されていたことから、「公務員なら老後は安泰」というイメージがあります。しかし、平成27(2015年)年10月から公務員の年金制度も変わり、以前の「共済年金」から「厚生年金」加入者に変更となりました。これにより、共済年金独自の「職域部分」が廃止されるなど、今まで有利といわれていた公務員の年金も厚生年金との差異がなくなりました。

退職金も5年ごとに官民格差の是正が行われており、国家公務員定年退職者の退職金平均は、平成26年は約2,167万円が平成30年は2,068万円と4年間で100万円ほど減額されています。

公務員のレールに乗っていれば万事安心とはいえず、一人ひとりが自分の資産をどうするか考えなければならない時代になってきたということです。

老後資金を準備する上でそもそも選択肢が少ないのが公務員

最近では副業が認められる民間企業が増えていますが、公務員は基本的に認められていません。本業以外の収入を得ることが難しいなかで、普通預金や定期預金に資金を置いていても現在の低金利では増えていく可能性はほぼありません。副業収入が得られないのであれば、制限のない資産運用を活用するのも一考の価値ありでしょう。

副業禁止のなか、収入先を確保できる数少ない道が「投資」

投資には、株式投資や不動産などさまざまなものがあります。公務員の副業にあたらない「投資」は、子どもの教育費や老後が心配だという人にとっては有効な手段になるのではないでしょうか。

とはいえ、投資のなかでも不動産投資は初期費用も大きく、自営に当たるかどうかの基準があり、基準を超えると副業とみなされる場合があるので注意が必要です。

一方で株式投資は、不動産より少額でも始められるうえ、税優遇があることで参加ハードルが低くなっているので、おすすめの投資といえます。

もちろん投資は「やらなければいけないもの」ではありませんが、「やっておいたほうがよいもの」といえます。

日中に株価を見続けなくても投資はできる手法がある

株式の取引は、平日の9時から11時30分と、12時30分から15時までの間に行われます。デイトレードなど短期売買をするのであれば、市場で取引が行われている時間帯に売買する必要があります。しかし、中期や長期の取引であれば日中や毎日、株価を見続ける必要はありません。注文自体は、勤務時間外の早朝や深夜でも受け付けています(注文が反映されるのは次の取引時間になってから)。

また、市場外の取引で「PTS取引」というものがあります。通称では夜間取引といわれるものです。こちらは、夜に注文を出してすぐに売買できますが、取引可能な証券会社が限られています。なお、現物株式の取引ではなく投資信託であれば、思い立った時にいつでも注文できます。

時間を有効に使うことができる

株式投資は、スマホやパソコンでも取引ができます。どこかに出向いたり、電話をかけたりする必要もありません。職務専念義務があるため就業時間内での取引はできませんが、通勤時間や深夜や早朝など隙間時間で取引することができます。

金融経済知識が身につき、仕事で活かすことができる

安定した給与を継続的に見込める公務員と比較して、景気の良し悪しなどで給料やボーナスの額が変わる一般企業で働く人は、おのずと経済に敏感になります。公務員が株式投資をすることにより、経済を実体験としてよりリアルに感じることができます。本業で生かせることもあるかもしれません。

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公務員に向いている投資スタイル・投資手法

公務員は民間企業と比べ、短期間で大きな昇給を目指すのは難しい環境にありますが、給料は景気に左右されにくく民間と比較するとやはり安定しているといえるでしょう。さらに、給与や退職金は、「級」、「号俸」という明確な基準に従って決められているので、将来の収入も予測できます。

収入が予測できるということは、ある程度大きな金額を継続して動かす投資や、長いスパンで積立ながら利益を得ていく投資も安定して行えるということになり、これは大きなメリットといえます。

インデックス投資(指標との連動を目指した運用)

日本の日経平均、TOPIX(東証株価指数)や海外のS&P500、NYダウといった指標(インデックス)に連動した運用成果を目指す投資方法です。具体的には、指標と同じ値動きをするよう設計された投資信託やETFで運用します。これらの投資商品を総称したものが「インデックス・ファンド」です。

はじめて投資をする人にも選びやすく、コストが安い、リスクも小さい、相場の変動がわかりやすいといった利点が挙げられます。

積立で購入すれば、定期的に一定額ずつを購入することで平均購入額を抑える「ドルコスト平均法」を駆使した買い付けができ、時間の分散もできます。さらに、頻繁に価格をチェックする必要もないので職務専念義務に違反することもありません。

また、投資信託やETFは基本的にインサイダー取引規制の対象外ですので、安心して購入できる点もメリットといえます。

中長期投資(企業の長期的な成長に掛ける)

個別株の取引を行う際は、中長期の期間で運用することで、仕事が忙しくても頻繁に株価をチェックする必要がありません。中長期の投資は、資金が固定されるので、継続的に安定して給料が入り、退職金がまとまってもらえる公務員の特性に合ったスタイルかもしれません。

公務員が知っておきたい投資制度:iDeCoとNISA

ここからは公務員が利用できる、投資の税制優遇制度であるNISA、iDeCoについて、解説します。金融庁が定めた国民の投資を促進するための制度で、公務員でも利用できます。これから投資を始めるなら、間違いなく確認しておきたい制度です。

iDeCoの制度概要、メリットとデメリット

iDeCo(イデコ)とは、「個人型確定拠出年金」の愛称です。2017年1月以降の個人型確定拠出年金は、それまで対象ではなかった公務員も加入できるようになりました。減額された公務員の退職給付総額(退職金+年金)の代わりになる制度といえます。公務員がiDeCoで積み立てることができる金額は月5,000円から月1万2,000円です。以下に、iDeCoのメリットをまとめます。

▽iDeCoのメリット

  • iDeCoのメリット1:積み立てた掛け金に対して全額所得控除が使える
  • iDeCoのメリット2:運用益に対して税金がかからない
  • iDeCoのメリット3:受給時(60歳以降)に退職所得控除や公的年金等控除を使える

仮に、iDeCoを使って、30歳の公務員が毎月1万2,000円を60歳まで、年3%の運用益で積み立てたとするとどのくらいの節税・運用成果がでるのでしょうか。三井住友銀行のホームページにあるシミュレーターでシミュレーションをしてみました。

▽公務員、30-60歳まで毎月1万2,000円の積立、年率3%の運用益の場合

  • 所得税・住民税の軽減効果:年間28,800円/60歳までの合計864,000円
  • 運用益の非課税効果:合計533,600円

→税効果の合計:1,400,658円

  • 元本の合計:4,320,000円
  • 運用益(非課税):2,641,683円

→運用結果:6,961,683円

三井住友銀行「メリットを確認!税軽減シミュレーション」

引用:三井住友銀行「メリットを確認!税軽減シミュレーション」

30年間の所得税・住民税の節税効果は約86万円、運用益約264万円に対する税優遇は約54万円となり、合計で140万円になります。

一方、iDeCoを利用しての投資について、知っておきたいデメリットは以下の通りです。

▽iDeCoのデメリット

  • iDeCoのデメリット1:どの商品を選ぶかは自分自身です。投資リスクは自己責任
  • iDeCoのデメリット2:原則60歳まで引き出すことができない
  • iDeCoのデメリット3:各種手数料など管理コストがかかる

いちばん確認をしておきたいのは、iDeCoは老後に備える制度のため、投資したお金を60歳前に引き出し、ライフイベントに使うことができないことです。そこがクリアでき、iDeCoのメリットをフル活用すれば、他の2つのデメリットはそれほど大きな問題にならないのではないでしょうか。

NISAの制度概要、メリットとデメリット

株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当などの利益に対して、20.315%の税金がかかります。その税金が非課税になるNISA(ニーサ)という制度があります。iDeCoと違い、投資する金額が所得控除となる仕組みはありません。また、運用したお金を引き出すのに、一部を除き年齢的な制限もありません。

▽NISAのメリット

  • NISAのメリット1:NISA口座で買い付けた商品の運用益はすべて非課税
  • NISAのメリット2:iDeCoのように、口座内のお金の出金に年齢制限がない
  • NISAのメリット3:つみたてNISAで買える商品は低リスクのもののみで選びやすい

金融機関でNISA専用の口座を開設し、その口座内で購入した金融商品で得た利益が非課税になります。NISAの種類の1つ「つみたてNISA」の場合、対象商品は、手数料が安い、複利で運用できる、長期での積立や分散投資に適している商品に限定されています。つまり、投資初心者にとって安心で利用しやすい仕組みといえます。

NISAは一般のNISAか、つみたてNISAのどちらか一方を選択して利用できます。なお、未成年者を対象としたジュニアNISAもありますが、こちらは2023年で制度の終了が決まっています。NISAとつみたてNISAでは、年間での非課税投資枠や非課税期間、扱える商品に違いがあります。以下、確認しましょう。

▽NISA(一般NISA)とつみたてNISAの違い

NISA つみたてNISA
年間投資枠 120万円 40万円
非課税期間 5年間 (最大10年間) 20年間
実施期間 2028年まで 2042年まで
取り扱い商品 株式・投資信託など 投資信託、ETFのみ

▽NISAのデメリット

  • NISAのデメリット1:年間の非課税枠は限られ、売却した分の非課税枠は再利用できない
  • NISAのデメリット2:損益通算ができず、損失の繰り越し控除ができない
  • NISAのデメリット3:iDeCoと違い、投資に使うお金の所得控除はない

NISA口座で購入したものを途中売却すると、売却した分の非課税枠は再利用できません。また、他の口座との損益通算ができず、損失の繰り越し控除ができません。すでに他口座で購入している金融商品は対象外で、新たにNISA口座で買い付けるものだけが対象になります。

iDeCoとつみたてNISAのタッグはどのくらいすごい?

公務員がiDeCoを利用するとき、掛金の上限が1万2,000円と会社員や自営業者、専業主婦に比べて少額に設定されています。しかし、NISAと併用することで大きな税優遇を受けることができます。

例として、先ほどの30歳の公務員が年3%の運用益で、60歳まで毎月1万2,000円をiDeCoで積み立て、同時につみたてNISAを、年3%の商品で月3万円を20年間積み立てた場合はどうなるでしょうか。こちらも、三井住友銀行ホームページのシミュレーターで確認します。

▽公務員、iDeCoを利用し30-60歳まで毎月1万2,000円の積立、年率3%の運用益の場合、あわせてつみたてNISAを利用し、月3万円を20年間の積立、年率3%の運用益の場合

  • iDeCoの所得税・住民税の軽減効果:年間28,800円/60歳までの合計:864,000円
  • iDeCoの運用益の非課税効果:合計536,658円
  • つみたてNISAの運用益の非課税効果:合計534,247円

→税効果の合計:1,934,905円

  • 元本の合計:11,520,000円
  • 運用益(非課税):5,271,499円

→運用結果の合計:16,791,499円

公務員、iDeCoを利用し30-60歳まで毎月1万2,000円の積立、年率3%の運用益の場合、あわせてつみたてNISAを利用し、月3万円を20年間の積立、年率3%の運用益の場合

iDeCoとつみたてNISAを合わせて月4万2,000円の積み立てで、30年後の元本合計1,150万円の運用成果が1,680万円という複利の効果に加え、193万円の節税効果もあります。

公務員でも開設しやすいネット証券の口座開設手順

NISAやiDeCoなどで投資をはじめるには、証券会社に口座を開設することが必要ですが、実店舗に行き営業担当と相談する従来のスタイルは、日中忙しい公務員にはあまり向かないかもしれません。一方のネット証券であれば、株式の売買手数料も安く、口座開設や取引もネットで完結できて便利です。

簡単なネットでの口座開設(例:SBI証券の場合)

1:公式ホームページから「今すぐ口座開設」をクリック 2:メールアドレスを登録 3:入力したメールアドレスに認証コードが送信される。解説画面に戻り認証コードを入力 4:住所等の情報を入力 5:画面に表示される規約等を確認 6:口座開設方法で「ネットで口座開設」を選択(郵送による口座開設もできる) 7:口座開設申込完了。ユーザーネームとログインパスワードが発行されるので保存しておく 8:口座開設状況画面よりログインを行う。提出書類(マイナンバー確認書類+本人確認書類)をアップロードにより提出 9:口座開設申込完了後、続けて初期設定できる(初期設定は、取引開始までに行う) 10:完了通知が届く(メールか郵送)

すべてネット上で完結し、最短で翌営業日には取引が開始できます。

一般口座?特定口座?どちらを選択するべき?

はじめて証券口座をつくる時に、「一般口座」か「特定口座」にするかで悩まれる方が多いのではないでしょうか。じつは証券口座は、大きく3つに分かれます。

  • 特定口座(源泉徴収あり)
  • 特定口座(源泉徴収なし)
  • 一般口座(源泉徴収なし)

一般口座(源泉徴収なし)を選択するメリットは、ほとんどありません。特定口座を選択しましょう。

特定口座は、金融機関が株や投資信託の利益や損失を計算して、「年間取引報告書」という書類を作成してくれます。

なかでも源泉徴収ありは、売却した時に自動的に利益の20.315%の税金が引かれているため、確定申告は不要です。源泉徴収なしは、確定申告が必要になります。

ほとんどの方は、「源泉徴収あり」を選んでおくと無難です。なぜなら、確定申告をすると不利になる場合があるからです。たとえば、控除の要件を超える所得になってしまい配偶者控除が受けられなくなる、国民健康保険料や介護保険料・住民税の計算根拠となる所得が増えてしまい次年度の保険料や住民税が増額される、などがあげられます。なお、確定申告自体は、源泉徴収ありを選択していても、後からご自身で確定申告することも可能です。

公務員が株式投資を始めるにあたって知っておきたいこと

公務員が株式投資で懲戒処分を受けたというニュースを時々見かけることもありますが、「そもそも公務員は株式投資をしてもいいのだろうか?」と疑問に思う人もいるのではないでしょうか。

結論からお伝えすると、公務員でも株式投資をすることは可能です。株式投資は資産運用とみなされるため、公務員の副業規制の対象外です。ただし、いくつかの制限がかかることがあり、違反すれば懲戒処分の対象となることもあります。つまり、この制限以内であれば株式投資は公務員でもできるのです。

公務で知り得た情報を投資に活かすのはNG

これは、インサイダー取引規制によるものです。職務上知り得た情報により、株式を売買してはいけないという規制です。仕事以外の場面でも、上場会社の役員や社員などから得た情報に基づいて売買した場合も同様です。

インサイダー取引規制の主な対象は、上場会社についての株式・ 新株予約権証券・社債、J-REIT 、上場インフラファンドなどです。ETFや一般に販売されている投資信託は対象外です。

いずれにしても、インサイダー取引を疑われれば社会的信用を失いかねません。たとえ悪用する意思がなく、悪用できるような情報を得ていないとしても、自分の公務に関係する業種の株式は扱わないのが無難でしょう。

公務中の取引はNG

公務員には、職務専念義務があります。国家公務員法第101条に、「職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。(以下略)」とあります。これは、地方公務員法でも同様です。(地方公務員法第35条)つまり、勤務時間中に株取引をすることは仕事に専念していないということで職務専念義務違反になります。

株式投資をして懲戒処分を受けたというケースは、インサイダー取引とへの抵触と職務専念義務に抵触したためというのが多いようです。ただし、どちらも、公務員のみが制限されるものではなく、民間企業の社員と特段の差はないといえます。

公務員の安定性を生かした投資をしよう

副業が禁止されている公務員にとって、投資は副収入を確保できる数少ない手段です。公務員特有の制限もないので、安心して始められます。公務員の強みである収入の安定性を生かしたインデックスや中長期投資、節税手段として非常に有効なNISAやiDeCoといった制度などを活用し、将来のための資産形成をしてみませんか。

井上 美鈴
家計管理・公的制度の紹介・教育費や老後資金の貯め方・奨学金・投資など「すぐに役立つお金の話」を分かりやすく伝えるファイナンシャル・プランナーとして活動。 シングルマザーや子育て世代の女性へ向けて、公的機関でのセミナー講師業や個別相談(対面・オンライン)を中心に行っている。 資格:AFP(日本FP協会認定)・証券外務員1種

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