(本記事は、高須 克弥氏の著書『全身美容外科医 道なき先にカネはある』講談社の中から一部を抜粋・編集しています)

(画像=PIXTA)

美人の定義とは?

ところで、皆さんは美人の定義をご存じですか。美人の定義とはいったい何でしょうか。読者の皆さんにそれを問うと、「目が大きくてパッチリしている」「鼻が高くて鼻筋が通っている」「いや、小顔でしょう」なんて答えが返ってくるかもしれません。しかし、すべて間違えています。

美人というのは「バランスが整っている顔」を指します。目鼻立ちといいますが、それぞれの形の美しさだけではなく、顔全体の中でのバランスが何よりも重要なんです。たとえパーツが良くてもバランスが悪ければブスなのです。

逆に言えば、美人に見せるには、全部が大きいか、全部が小さいか、どちらでもいいから均一化し、バランスをとることが重要なんです。たとえば、目が大きく、同じように鼻や口も大きければ、バランスがとれているから美人に見えます。しかし、目が大きいのに、鼻が低く、おちょぼ口だとバランスがとれません。日本人形とフランス人形はそれぞれ良さがありますが、日本人形の顔に、フランス人形の鼻をつけても決して美人にはなりません。

ですから、たとえ二重まぶたにしてもバランスが悪いと、手術前に想像していたような劇的なイメージチェンジはできません。これはファッションセンスにも似ています。その昔、一点豪華主義が流行りました。一点豪華主義というのは、安っぽいサンダルをはいているのにルイ・ヴィトンのバッグを持つなど、不相応な、一点だけ豪華なものを身につけることです。

美容外科の世界も同じです。昔の患者は、単純に「目を二重にしたい」「鼻を高くしたい」「人並みな顔にしたい」という人たちでしたが、次第に、漠然と有名人にあこがれて、「〇〇のような目になりたい」「〇〇と同じ鼻にしてほしい」と望む人が増えていきました。近年はその傾向がさらに強まっています。

古くは「天地真理の目にしてほしい」「田原俊彦の鼻にしてくれ」。ちょっと後になると、「浜崎あゆみの目にしてほしい」「ベッカムの鼻にしてくれ」。最近は「石原さとみのようなぽってり唇にしてほしい」「上戸彩のようなアヒル口にしてほしい」というリクエストが多い。しかし、何度も言いますが、一点豪華主義の美人は存在しません。手術を受けた本人は満足するかもしれませんが、周囲からは「美人になった」と評価されることはないでしょう。

「〇〇のようになりたい」は失敗のもと

「流行りの顔」を求める当人たちはそれを美しいと思い込んでいますが、そもそも流行というものは時代とともに変わってしまうものであり、美的感覚もまた時代によって変わってしまうものです。さらに言えば、美の基準は地域によっても違います。ひと昔前の流行美人といえば、八重歯とえくぼが定番で、えくぼをつくりたいという人もいたし、八重歯をつくりたいという人もいました。ところが、それをチャームポイントにしていた芸能人の顔を見ると、いまではそれがすっかり消えています。

男性にしても、開業当初は「進駐軍の兵隊みたいな顔にしてほしい」とリクエストする患者がいました。ものすごく広い窪んだ二重まぶた、額と段差のない高い鼻、前方に突き出した顎……まさにクヒオ大佐です。しかし、いまこんな顔をしたら、モアイ像とバカにされるのは間違いありません。

美の基準は常に変わります。昨日の美人は今日のブスです。実際、いつのまにか美的感覚は変わってしまい、その結果、あとでさらに治したなんて人が数多くいました。だから僕は美しさのブームをつくらないことを治療の基本方針にしています。

ホクロやシミ、シワを取って若々しくしたり、目や鼻の形を整えてコンプレックスをなくしたりしてあげるのが本来の美容外科医の仕事です。すごく鼻が大きい。際立って目が細い。それを治してほしいというのであれば、整えてあげたい。

しかし、誰かのようになりたいという考えは嫌いです。その時代の人気芸能人の顔を真似るのは、没個性の偏差値を上げるだけです。僕はこういう患者を診たくない。実際、冷たくして、診察室から追い返したこともあります。

大事なのはデザインするセンス

(画像=Radachynskyi Serhii/Shutterstock.com)

美容整形には、一部分だけの整形から全身整形までいろいろ段階があります。しかし、基本的には少しだけ修整することで、誰が見ても不自然さを感じさせない美をつくりだすのが理想です。また、それが美容外科医の腕の見せ所だと思います。

頻繁に「上手い美容外科医の条件を教えてください」と聞かれますが、手術が上手いかどうかは枝葉の問題であり、一番大事なのは美的センス。これが8割。あとは設備、使用する医療器具の選び方、そして科学者としての知識。これらを備えている人が優秀な美容外科医です。

たとえば、ご本人が公言されているので、例として挙げさせていただきますが、バイク事故で顔面に深い傷を負った千原ジュニアさんの手術を担当しました。厳密には美容外科手術ではなく、形成外科手術ですが、ご本人は「術前よりも顔全体の印象がやさしくなった」と感謝してくれています。これがセンスです。

美容外科医にとって、顔をつくりあげる、つまりデザインするセンスが何よりも重要です。テクニックも大事ですが、それが一番ではありません。テクニックは誰でも訓練すれば向上します。しかし、センスは努力だけではどうにもなりません。

1998年、東大病院に美容外科が開設されました。もともと日本の美容外科は市中の開業医が主導してきましたが、需要が増えたことに加え、大学側の厳しい財政事情もあり、大学病院が美容外科に本格参入するようになりました。かつて、国立大学病院は「美容外科なんて医者のやることではない」と我々を見下していましたが、背に腹は替えられず、美容外科治療を始めたわけです。また、私立大学の病院も同様の理由で美容外科に参入してきました。

読者の中には「大学病院の医者のほうが優秀だ」「大学病院なら安心」という先入観を持っている方がいるかもしれません。もちろん、大学病院には優秀な医者もいますが、必ずしも皆が優秀とは限りません。形成外科は美容外科手術の失敗を修復する技術を持っていますので、大学病院の形成外科には美容外科で失敗した患者がやってきます。しかし、失敗した医者を追跡すると、「犯人」は美容外科クリニックでアルバイトしていた大学病院の形成外科医だったというケースが実に多いのです。

形成外科医に限らず、大学病院の医者は民間のクリニックでアルバイトや研修をしますが、肝心の美的センスに欠けているケースが多々あります。大学病院の医者はそのままでは使い物になりません。彼らは患者から「〇〇をやってください」とリクエストされると、その通りにやるだけなのです。だから、ごく普通の見た目の女性から「美人にしてください」と言われると、「どうしたらいいんだろう……」と頭を抱えてしまう。

医者の使命

医療の問題点を指摘する言葉に、「臓器を診て病人を診ず」というものがありますが、それに似ています。どんな診療をするのであれ、本来、医者というのは患者をまるごと診なければいけないのです。

医者の使命は、患者の病気を治してあげることです。当然、患者に「胃の具合が悪いから胃の薬をくれ」と言われて、胃薬を出すような医者はヤブ医者です。「なぜ胃の具合が悪いのか、もしかしたら別の病気かもしれない」と原因を探り、「あなたは胃が悪いと言いますが、実は肝臓が悪いのです」とアドバイスできる人が本当の医者です。

美容外科でいえば、たとえば「鼻が低いのが嫌だ。治してほしい」という患者がいたとします。ここで患者に言われるがまま鼻の手術をする医者はヤブ医者です。患者が「鼻が低い」と言っても、実は鼻が低いのではなく、あごとおでこが過度に出ているので鼻が低く見えるだけかもしれない。本来治すべきはあごとおでこかもしれない。こうしたことをアドバイスしてこそ本物の美容外科医です。

また、優秀な美容外科医の条件として、患者と十分にコミュニケーションをとれているか否かが挙げられます。美容医療は基本的には患者に満足感を与えるビジネスですから、相手の心に寄り添って、十分なコミュニケーションをとるべきです。そもそも外見というのは心と強くつながっているものですから、心をケアしなければ相手の要望通りに手術をしても、納得してもらえないことが多いのです。

カウンセリングに時間をかければかけるほど、診られる患者の数は減るわけですから営業効率は悪くなります。しかも僕の場合、患者のリクエストが全体のバランスを崩すものであるならば、「その手術はしないほうがいい」と自ら売り上げが減るようなことも言ってしまいます。

しかし、世の中で最強の宣伝はクチコミです。患者さんが満足してそれを広めてくれればプラスになります。だから僕は素直に話します。

大切なのは面と向かって話すこと。当然、腕や学歴だけを自慢して患者を見ずにカルテばかり見ている医者は論外です。そもそも医者が偉そうにしていること自体、おかしいと思います。どんなに立派な肩書を持っていても、患者を不安にさせたり、質問に対してろくに答えなかったり、それどころか患者の目も見ないような医者は失格です。

高須 克弥
1945年1月、愛知県生まれ。日本の美容外科医。医学博士(昭和大学、1973年)。美容外科「高須クリニック」院長。東海高校、昭和大学医学部卒業。同大学院医学研究科博士課程修了。大学院在学中から海外へ(イタリアやドイツ)研修に行き、最新の美容外科技術を学ぶ。「脂肪吸引手術」を日本に紹介し普及させた。「プチ整形」の生みの親でもある。紺綬褒章を受章。近著には『炎上上等』『大炎上』(ともに扶桑社新書)などがある。

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