要旨

日本株
(画像=PIXTA)

新型肺炎の影響拡大が懸念される中、日経平均は大崩れすることなく3連休を迎えた。値下がりしたら株を買おうと思っている投資家からすれば“意外にしぶとい”といった印象だろう。海外投資家による“日本売り”まで指摘されているにもかかわらず、日本株が底堅い理由は主に3つある。

日経平均の戻りは鈍いが、大崩れしていない

中国工場の稼働低下、来日外国人の激減、各種イベントの中止など新型肺炎による実体経済への影響が広がっているにもかかわらず、日本株は大崩れしていない。日経平均は1月下旬に一時的に2万3000円をわずかに下回ったが、その後は一進一退で底堅い。日本株が大崩れしない主な理由は3つだ。

もっとも、急落前の水準を回復した米国株や上海株と比べて日経平均の戻りは鈍い。その理由は1月30日付けレポート「新型肺炎だけじゃない 株価急落の本当の理由と今後の見通し」で述べたとおり、そもそも2万4000円は日本企業の業績と比べてやや高すぎる。加えて、日本国内で新型肺炎の感染拡大が懸念されているためだろう。

日本株
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理由(1):円高が進んでいない

日本株が大崩れしていない理由のひとつは為替市場が円高に動いていないことだ。従来、多くの投資家がリスクを回避する“リスクオフ”の局面では円高に動くことが多く、今回のように世界中が注目する悪材料だと、一時的に1ドル=105円くらいまで円高になっても不思議ではない(あくまで筆者の感覚だが)。

しかし、実際は円高どころか1ドル=112円台の円安になった。これが日本株の支えになっているのだろう(円安は輸出企業の業績を改善するので株価にプラス要因)。

なぜ円高にならなかったのか。ひとつは日本や欧州、アジア新興国と比べて中国への依存度が低い米国(米ドル)にマネーが逃避しているからだ。日本は自動車や電気機器など多くの産業で中国への依存度が高い。欧州やアジア新興国も同様だ。米国の国内経済が堅調なことも背景にある。

主に海外の投資家が日本固有のリスクとみている面もある。クルーズ船の対応をめぐり海外では日本への批判も多いと聞く。筆者は防疫対応の適否を論じる立場にないが、日本が“安心安全な国”ではなくなったと評価され、“日本売り”が膨らんだ可能性は否定できない。

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もうひとつ、従来のリスクオフの局面と状況が異なるのは、円キャリー取引の巻き戻しが少ないことも挙げられる。円キャリー取引とは、ヘッジファンド等が金利が低い円を借りてドル等に転換したうえで、海外の株式などに投資する取引だ。

リスクオフになると海外株式などを売却すると同時に、円を返済するためのドル売り・円買い需要が強まる。その結果、急速に円高に動くというメカニズムだ。“有事の円買い”などと言われる。

ところが、最近は円よりもユーロの方が金利が低い。そのため円キャリー取引による投資残高が少なく、結果的に巻き戻しによる急速な円高が起きなかった。ちなみにユーロも対ドルで値下がりしたが、これは欧州経済の悪化を懸念したユーロ売り(ドル買い)が膨らんだためだ。

理由(2):堅調な米国株と中国株

米国株や中国株が堅調に推移していることも日本株の支えになっている。前述のとおり米国は国内経済が堅調なうえ、主要産業(輸出)の中国依存度が相対的に低い。IMFによると2017年の米国の対中輸出比率は約8%だった(15%程度のカナダ、メキシコに次ぐ第3位)。日本の対中輸出比率は第2位の約19%で、第1位の米国向けとほぼ同じだ。

こうした背景から、新型肺炎で中国経済が一時的に急減速しても米国が受ける影響は限定的という見方が早期に広まったため、米国株は急落前の水準を早期に回復した。米長期金利が低水準で推移していることも、米国株の投資家を安心させているようだ。

一方、新型肺炎の影響が深刻な中国でも、当局による大規模な支援策を好感して上海総合指数が3,000ポイントを回復した。中国人民銀行は2月18日までに4兆元(約6兆円)ほどの流動性を銀行部門の供給したほか、20日には3ヶ月ぶりに政策金利を引き下げた。

日本株
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さらに、年金や失業保険などの社会保険料について、湖北省では全ての企業を対象に2月~6月の企業負担分を全額免除し、湖北省以外でも中小企業は2月~6月分を全額免除、大企業の2月~4月分も半額免除とする。中国当局によると総額5,000億元(約8兆円)を超えるという。いずれも企業の資金繰り破綻を未然に防ぐ狙いだ。

理由(3):根強い景気回復期待と日本企業の業績見通し

日本企業の業績見通しが決して悪くないことも重要なポイントだ。2月17日までに発表された12月決算57社の2020年の業績予想を集計すると、純利益は前年比12.5%増える見通しだ。新型肺炎の影響をほとんど反映していないとはいえ、一定の支えになっているとみられる。

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これを日経平均に置き換えると、仮に増益率が10%でも2万3,000円が正当化される。直近の予想EPS(1株あたり予想純利益=1,625円)が10%増えると1,788円となる。これにPER(株価収益率)13倍を掛けると23,240円だ。

米中貿易摩擦が本格化した2018年3月以降の予想PERは平均12.8倍なので、13倍は決して高すぎることはない。こう考えると、国内でも新型肺炎が拡大している中でも日経平均が2万3,000円台を維持しているのは不思議ではない。

今後は楽観できない

ただ、今後について楽観は禁物だ。感染源となった中国湖北省の政府は、従来は2月20日までとしていた企業の休業措置を3月10日まで再延長すると発表した。湖北省には日本の自動車メーカーなども多くの工場を抱えており、中国経済に限らず日本企業への影響拡大も懸念される。

春節が終わって2週間あまり経ったことを考えると、日本国内で感染者が増える可能性があるだろう。もし東京など大都市圏で感染が広まれば、人やモノの動きが滞り、国内経済への影響は避けられない。

ほかにも2月末から3月に発表される経済指標には新型肺炎の影響が反映される。予想以上に悪い内容であった場合など、一時的に日経平均が2万2,000円くらいまで下落する可能性は意識しておく必要がある。

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井出真吾(いで しんご)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任

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