(本記事は、末 啓一郎氏の著書「テレワーク導入の法的アプローチ-トラブル回避の留意点と労務管理のポイント」経団連出版の中から一部を抜粋・編集しています)

テレワーク
(画像=PIXTA)

テレワーク対象業務の多様性

1.高度専門業務と単純業務との対比

(1)高度専門業務のテレワーク
1993年のアメリカ映画「ザ・ファーム 法律事務所」で、トム・クルーズ演じる若手新人弁護士に、ジーン・ハックマン演じる指導担当弁護士が、「渋滞中の車のなかであろうが、ヒゲを剃っていようが、公園のベンチに座っていようが構わない。依頼者のことを考えろ。それが請求書になり、(ビジネスローヤーとしての)成功につながる」と指導する場面がある。タイムチャージ制をとるアメリカのビジネスローヤーならではの皮肉が効いたセリフだが、これを働き方の側面からとらえるなら、まさにテレワークの勧めといえる。

このようなことは、弁護士業務やいわゆる高プロ(高度プロフェッショナル)対象業務だけでなく、新商品・新技術の研究開発などの専門業務型裁量労働制の対象業務一般についても当てはまりうる。なぜなら、毎日まじめに出社しても何の成果も上げられない社員より、出社は常ならずとも、すばらしい成果が出せる社員のほうが高く評価されてしかるべきだからである。したがって、これらの高度専門業務や裁量労働制対象業務は、テレワークときわめて親和性が高い業務であると考えられる。

しかしその一方で、高度専門業務についてすら、このような考えに違和感を感じる人が多いのではないだろうか。それは、目の前で仕事をしていないテレワークでは、本当に仕事をしているかを確認できないという思い込みがあることに加え、逆に成果が明白であったとしても、「出る杭は打たれる」

「みなと足並みを揃えて働いていなければ角が立つ」といった、わが国社会の文化的背景にも原因があるのだろう。言い換えれば、同じオフィス内で机を並べて働くこと、共同で仕事をしている「一体感」をもつことが重要であるとの考えが、高度専門業務従事者であっても、無意識のうちに続いているのである。

そもそも「仕事をする」とはどういうことなのか。テレワークの導入・活用のためには、この点についての、われわれの無意識の思い込み(マインドセット)を見直す必要がある。逆にいえば、テレワークの導入は、このようなマインドセットを変更する契機とすることができるかもしれない。もちろん単純にマインドセットの問題というだけでなく、オフィスで机を並べて一体感をもって業務を行なうことにより、高度専門業務の場合も成果が上がる部分がないとはいえないが、逆に各人が、自らの業務に集中できる、組織から切り離された環境のほうが効率的に仕事ができる場合もありうるであろう。このような業務の見直しを物理的に進めることが、テレワーク制度の導入により可能となるのであり、この点はテレワーク導入にあたって意識するべきポイントのひとつということができる。

(2)単純業務のテレワーク
これに対して、仕事をするための時間的・場所的制約を取り払えるという点だけを考えるなら、たとえばノートパソコンによるデータ入力業務などは、組織活動としての性格が乏しいだけでなく、作業時間とその成果物との量的な対応関係が明確であり、外部から業務遂行状況の認識が容易であるため、モバイルワークとして、いつでもどこでも「仕事ができる」体制にすることへの違和感は少ないと予想される。

また、オフィスワークのうち、このような単純作業的性格が強い業務は、正社員が担当するよりもアウトソーシングし、個人事業者やサービス会社の社員が、業務委託や請負の形式で従事するほうが効率的なことも多い。その場合には、後述するとおり、法的な規制のみならず、注文をする企業における業務の管理も、社員による業務遂行の場合とはまったく異なるものとなる。

(3)テレワーク導入と業務の分析・評価の見直しの必要性
以上は、いわゆるオフィスワークをテレワーク化するについて、高度専門業務と単純業務という分け方で対比をしたものである。しかし、現実の業務は、このように単純に切り分けられるものではない。特に、西欧のようなジョブ型雇用ではない、メンバーシップ型雇用といわれるわが国の雇用慣行においては、このように各人の業務内容を明確に切り分けることは、必ずしも容易でないことが多い。

したがって、テレワーク導入にあたっては、その業務の分析や評価の方法などの見直しもあわせて行なう必要がある。そうして初めて、どのようなテレワークをどのように、どの程度導入すべきかを検討することができることとなる。

2.政府が推奨しているテレワークという働き方のイメージ

これに対して、政府が旗振りをしている「テレワーク」の主要なイメージは、情報通信技術を活用して、本来はオフィスに出社して従事することが想定されている会議やデスクワークを、自宅にいながらにして、子育てや介護と両立させながら行なうこと、あるいは風光明媚な地に設けられたサテライトオフィスなどでリフレッシュしながら、効率よく進めることなどであろう。しかし、これを受ける企業の側では、オフィスワークのどのような業務がテレワークにふさわしいのかといった議論はあまりされておらず、主として「働き方」の形としてのテレワークが議論されている。

確かに、一般にテレワークの働き方といえば、上記のような典型例が漠然とイメージされがちだが、働き方の面から考えるだけでも、在宅勤務、サテライトオフィス勤務、さらにはモバイル勤務といった形態があり、契約形態としても、雇用契約にもとづくもののほか、請負契約または準委任契約にもとづくものまで、その法的な立てつけも多様である。厚生労働省のテレワークに関するガイドラインでも、これらは区別して議論されている。また雇用契約にもとづくもののなかにも、正社員だけでなく契約社員や派遣など、いろいろな雇用類型のものがある。加えて、対象業務の種類をオフィスワークに限ってみても、前述のとおり、いわゆる高プロ的なものからデータ入力などの単純作業まで、多様な働き方が含まれている。したがって、それらを踏まえて導入方法・内容を慎重に検討するのでなければ、テレワークの適切な導入はできない。

現在、政府は働き方改革の一環としてテレワークを推進しているが、企業の側としては、多種多様な態様・内容のテレワークについて、何をどのような形で導入するかの検討を抜きにして議論をすることはできない。また就労者のニーズとしても、テレワークに従事することを必要とする事情はいろいろとありうるから、その実情を踏まえることなしに、テレワーク導入を一律に議論することもできない。

3.多様性を踏まえた検討の必要性

翻って、テレワークに関する巷の議論をみると、テレワークを賛美し、その速やかな導入方法を具体的に提示するもの、格差拡大の観点から安易なテレワークの拡大に危機感を示すもの等々、一様ではない。そしてそれらは、テレワークの利用者である企業の視点、従事する就労者の視点、そして社会全体の効率性の視点など、議論を提示する者の重視する視点によって、内容が異なりうる。したがって、テレワーク導入に際し、これに関する議論を検討するにあたっては、その議論を行なう論者の立場を明確にしたうえで検討を行なうべきである。そのようにして初めて、どのような内容のテレワークを、いかに導入するのかを個別具体的に検討するうえで有益な視点を得ることができる。

ただし、各論者が、どのようなテレワークについて、どのような立場から議論しているのかに踏み込んでいくと、その多様さ・複雑さ、そして、テレワークをとりまく環境変化の速さのために収拾がつかなくなるおそれがある。そこで、そもそもテレワークとはどのような働き方であるのかについて、多様な形態のテレワークに共通するところをあらかじめ抽出したうえで、テレワーク全般についての議論を整理しておくことが有益であると考えられる。

そうした整理により、企業側の視点からすれば、どのような形でテレワークを導入すべきかをより具体的に議論でき、テレワーク従事者である就労者・生活者の視点からは、契約の問題などにどのような注意を払うべきかが明らかとなる。また政府等の政策立案者の視点からは、テレワークに対してどのような規制をすべきかが明らかになるほか、法律家の視点からは、各種の規制をどのように適用し、紛争をいかに解決すべきかの議論に資することができると考えられる。

そこでまずは、テレワークの本質について整理をしておきたい。

テレワークの本質

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(画像=Getty Images)

1.「時間と場所の柔軟性をはかれる働き方」は本当か

テレワークとは、「ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」(総務省ホームページ)であるなどと説明されているが、テレワークの本質を考えるうえでは、これについてさらに踏み込んでとらえることが必要である。

上記の総務省の説明からは、テレワークが本質的に「時間」と「場所」の双方の柔軟性をはかることのできる働き方であるかのような印象を受けるが、この表現は誤解を招きかねない。なぜなら、テレワークとは情報通信技術を活用することにより、就労の「場所」をオフィス(事業場)以外とする働き方であり、働く場所に柔軟性があることはその本質であるといえるが、テレワークによって「時間」の柔軟性が当然に高まるわけではないからである。時間の柔軟性については、一定の形態のテレワークについて、場所的な柔軟性が増加することで、労働時間の柔軟性も副次的に高まることが期待できるというにすぎない。

つまり、時間の柔軟性はテレワークに本質的なものではなく、重要ではあるが、副次的な効果にすぎないのである。

2.通常勤務と違いのない「労働時間の規制」

では総務省のホームページでは、なぜ「時間」と「場所」双方の柔軟性をはかることのできる働き方であるとの表現となっているのだろうか。それは、雇用契約を主とする労働契約関係にある労働者が行なうテレワーク(以下「雇用型テレワーク」という)と、請負・準委任(業務委託)契約を主とする労働契約関係以外により行なうテレワーク(以下「自営型テレワーク」という)の双方を含めて議論をしているからだと考えられる。

確かに、自営型テレワークは企業から独立して自由に働くものであり、労働時間規制の外にある就労時間の柔軟性が高い働き方であるが、それはテレワークであるがゆえに有する特徴ではない。そもそも業務委託や請負にもとづいて役務を提供する場合には、働く時間は自営業者自らが自由に決定できることが原則であり、本質的に「時間」の柔軟性を有する働き方であるといえる。つまり、自営型テレワークの場合は、「テレワーク」だからではなく、「自営業者」だから、時間を柔軟に扱えるにすぎない。これに対して、テレワークといっても、それが雇用型である限りは、労働時間規制が通常勤務と同様に適用され、その面では通常勤務とテレワークとの間に本質的な違いはない(この内容については後述する)。

つまり、雇用型にせよ自営型にせよ、あるいは専門業務型裁量労働制の対象業務をテレワークで行なうにせよ単純労働をテレワークで行なうにせよ、さらには自宅でのテレワーク(在宅勤務)にせよ駅や空港などでの空き時間を利用したテレワーク(モバイル勤務)にせよ、場所的な柔軟性こそが、テレワーク一般に共通する特質であり、これがテレワークの本質であるといえる。

むろん雇用型テレワークであっても、移動中などに、細切れ時間を利用して行なうモバイル勤務などは、その性格上、時間的な柔軟性が高いということができ、また育児や介護との調和をはかるための在宅勤務においては、労働時間を柔軟に運用できる制度的工夫をすることが、そのような働き方を導入した意味を活かす方策であるといえる。

しかし、雇用型である以上、時間規制はテレワークにも当然に及ぶ。モバイル勤務であっても、情報通信技術により、オフィスにいるのと同様またはそれ以上のレベルで時間管理が可能である。逆に、自営業ではなく、テレワークでもない通常のオフィス勤務の場合であっても、フレックスタイム制、裁量労働制、いわゆる高度プロフェッショナル制などを採用することによって、勤務時間の柔軟性は実現できるのである。

このように、「時間」の柔軟性が高まることや柔軟性を高める必要性があることは、テレワークの重要な特長であるとはいえるが、その本質であるとはいえない。

3.「離れた場所での勤務」が本質

したがって、身も蓋もない言い方になるが、雇用型も自営型も含めたテレワーク一般について、その本質を考えるなら、読んで字のごとく「テレ」(「遠い」という意味の接頭語)で「ワーク」するというにすぎない。

ちなみに、日本の法制度のなかにはテレワークについての定義規定はないが、アメリカでは、連邦法としてテレワーク強化法(Telework Enhancement Act of 2010)があり、連邦職員のテレワーク利用促進について具体的な定めをおいている。そこでは、「テレワークとは、職員が、その地位にもとづく権限や責任の行使その他の活動を、その職員がそうでなければ行なうであろう場所以外の承認された場所で行なう業務柔軟性措置をいう」とされている。この定義で示されているのは、場所的柔軟性のみである。

このように、テレワークの本質が「離れた場所での勤務」であるというにすぎず、通常勤務とそれ以上の本質的違いがないということを理解しておくことは、労働時間、安全衛生管理、差別禁止等々についての法規制・行政規制に関する諸問題や、労務・雇用管理等のテレワーク導入の実務的留意事項を考えるうえで有益であり、テレワークを導入するうえで明確に意識しておくべきことである。

ただし、テレワークの本質がそこにあるとはいっても、政府が旗振りを行ない、また巷で議論されているテレワーク概念には、前述のとおり、そこに若干の性格づけがされている。それを端的に示しているのが、厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下「雇用型テレワークガイドライン」という)である。このガイドラインの表題で、テレワークは「情報通信技術を利用した事業場外勤務」とされており、情報通信技術の利用という性格は、テレワークに本質的なものではないものの、このガイドラインでは、テレワークを論じる場合の当然の前提とされている。

この点は、テレワークの周辺概念や、テレワークの類型などをみてゆくと、さらに明らかになってくる。

テレワーク導入の法的アプローチ
末 啓一郎
1982年東京大学法学部卒業。1984年弁護士登録、第一東京弁護士会。高井伸夫法律事務所、松尾綜合法律事務所、経済産業省勤務などを経て現在、ブレークモア法律事務所パートナー。ルーバン・カソリック大学法学部大学院(法学修士1992年)、コロンビア大学ロースクール(LL.M.1994年)、一橋大学(法学博士2009年)。米国ニューヨーク州弁護士、一橋大学ロースクール講師(国際経済法)

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