たった1回10分程度でストレスホルモンが低下
私は、ストレッチの効果をさらに詳しく知るため、40代半ば~50代半ばの女性たちを対象に研究を行ないました。彼女たちに10分間のストレッチをしてもらい、その前後で唾液に含まれるコルチゾールの量に違いがあるかを検証するというものです。
コルチゾールは心理的ストレスがかかったときに分泌されるホルモンで、その分泌量が多いほどストレスが強い状態であることを示します。
その結果がグラフ2です。ストレッチをした人と何もせず安静にしていた人を比較したところ、前者はコルチゾールの量が大きく低下したのがわかります。つまり、ストレッチをすると、ストレスが低下してリラックスした状態に近づくことが判明したのです。
しかも、これはたった1回だけストレッチを行なった結果です。仕事の合間にほんの10分程度のストレッチをするだけでも、体内のストレス反応は軽減するということです。
さらに私たちは、同じく中高年世代の女性を対象に、今度は継続的なストレッチを行なってもらいました。毎晩、寝る前に10分間のストレッチを行ない、それを3週間続けたところ、「入眠時間」「抑うつ」「更年期症状」が改善するという結果が得られました(グラフ3)。
特に入眠時間が短縮したことが、心の状態に良い影響を与えるカギになっています。入眠時間が短くなったということは、寝つきが良くなり、睡眠の質が改善したことを示します。抑うつの前段階の症状として不眠があるので、睡眠の質が上がったことが、抑うつの改善につながったと考えられます。
就寝前のストレッチで睡眠の質がよくなる
ストレッチが睡眠改善に効く理由は、体温がほんのわずかに上昇するからです。そこから熱を放出して体温を下げることで、眠りに入りやすくなるのです。
ただし、体温を上げすぎると、今度はなかなか下がらず、寝つきが悪くなります。
私たちが行なった実験の結果、10分間のストレッチの前後で体温は0.2度上昇することがわかりました。これが0.5度だと高すぎて眠れなくなるので、ストレッチは入眠の準備運動として最適と言えます。
ポイントは、ストレッチの中に、立って行なうものを入れること。座ったままのストレッチだけでは体温の上昇が鈍いからです。
睡眠と心の健康は、切っても切れない関係にあります。最近の研究によると、人間の脳はレム睡眠中に記憶の取捨選択をしていることがわかってきました。その基準となるのは、「快・不快」です。つまり、嫌な記憶は捨てて、良い記憶は残すわけです。
ですから、ノンレム睡眠とレム睡眠がバランス良く出現する質の良い睡眠を取らないと、嫌な記憶が整理されないまま、ずっと残ることになります。
私たちの研究では、就寝前にストレッチを行なうと、レム睡眠がしっかり出現することも確認しています。
《取材・構成:塚田有香》
《『THE21』2020年2月号より
永松俊哉(ながまつ・としや)
山野美容芸術短期大学教授
1963年、福岡県生まれ。福岡教育大学大学院修士課程修了。(公財)明治安田厚生事業団 体力医学研究所所長を経て、19年より現職。専門は運動生理学、公衆衛生学。著書に『ポジティブ脳に切り替えるストレッチ』(メディカルトリビューン)などがある。(『THE21オンライン』2020年02月17日 公開)
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