「働き方改革」の流れで注目が高まってきた兼業・副業やフリーランスという働き方。企業がこうした社外人材を活用する事例も増えてきていたが、コロナ禍を受けて、それがいっそう加速しているという。仕事を依頼したい企業などと、仕事を依頼されたい兼業・副業やフリーランスの人たちをマッチングするサービス「ランサーズ」を運営するランサーズ〔株〕の代表取締役社長CEO・秋好陽介氏に話を聞いた。

在宅勤務の普及が日本の生産性向上へのレールを敷いた

ランサーズ,秋好陽介
(画像=THE21オンライン)

――新型コロナウイルスの流行は、御社のサービスにどのような影響を与えていますか?

【秋好】日本全体で見ると、人口は2008年から減少しているのですが、就業者数は2019年に過去最多となりました。定年後も働く方が増えたり、働く女性が増えたりしたからです。

しかし、これから先は、就業者が減っていくのが明らかです。そこで、国も兼業・副業やフリーランスという働き方を推進していて、2015年に913万人だったフリーランスの人数が、コロナ禍前には1000万人ほどにまで増えていました。

それに伴って、ランサーズに登録するランサー(兼業・副業やフリーランスで働く人)の人数も増えていたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、さらに大きく増えています。今年4月の新規登録者数は、昨年12月に上場した頃の1カ月間と比べて、約2倍になりました。

収入が減ってしまったため、新たな収入源を得るために登録される方も増えたのですが、在宅勤務でも十分に仕事ができることを実感したことで、「だったら、他の会社の仕事も受けてみよう」と思った方にも多く登録していただいています。在宅勤務になると通勤時間がなくなるので、その時間を他の仕事に使えるようにもなりました。

東日本大震災が起こったあとも登録者数が伸びたのですが、特に大きく伸びたのは、半年ほど経って、事態がある程度落ち着いた夏頃でした。従来の働き方や生き方を改めて考え直すようになるのが、そのくらいの時期なのでしょう。未来は予想できませんが、それを踏まえると、今回も半年後にさらに登録者が増えるのではないかと思っています。

――企業からランサーへの仕事の依頼も増えたのでしょうか?

【秋好】増えた依頼と、減った依頼があります。

減ったのは、観光業やイベント企画などの企業、また、それらの企業から仕事を受注しているWEB制作会社、広告会社などからの依頼です。

一方で、新たなニーズも生まれています。例えば、密になることを避けるためにコールセンターへの出勤ができなくなったので、在宅のフリーランスの方々にコールセンター業務を依頼したい、というようなニーズです。社員がいないオフィスにかかってくる電話に対応するための電話代行の依頼も増えました。企業からの新規の問い合わせ数は、4月時点で昨年12月の1.5倍になっています。

これを受けて、当社としても電話代行サービスを始めたり、セキュリティの高いオンラインのBPOセンター(コールセンター業務やインサイドセールス、カスタマーサポートなどを請け負う)を立ち上げたりしています。

トータルで言うと、当社の業績は伸びていて、4月は昨年度比約130%でした。

――在宅勤務が広がった影響が大きいわけですね。

【秋好】調査によって数字が違うのですが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、約7割の方が在宅勤務を経験したと言われています。ビフォアコロナでは1割前後でしたから、これは劇的な変化です。インターネットの普及率が1割から7割になるのに約10年かかっていますし、スマホも6年くらいかかっているのに、在宅勤務は約3カ月だったのです。

7月6日には、日本を代表する企業の一つである富士通〔株〕が、在宅勤務を基本とし、オフィスの面積を3年かけて半減すると発表しました。多くの企業が、やむを得ずに在宅勤務をやってみたところ、全体としてうまくいったという経験をしましたから、同様の施策を取る企業はもっと増えるでしょう。

当社でも、もともとテレワークを導入していたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、99%が在宅勤務になりました。在宅勤務の生産性を上げるために、スマートワーク研究会というものを立ち上げて、週に1回、ミーティングをしています。その研究会で、困っている人がいないかアンケートを取ったりして、在宅勤務だと腰が痛くなる人が多いのでオフィスの椅子を貸し出す制度を作ったり、家庭の光熱費が上がるので3万円をリモートワーク手当として支給したり、深夜に働きたい人も出てきたので、深夜手当をどうするかといった制度の整備をしたり、といったことを進めています。

オフィスも、面積を小さくして、作業や会議をする場所からイノベーション施設に変えることにしました。ブレストをしたり、人と触れ合って人間関係を作ったりするためのオフィスにするのです。年内には工事を終える見込みです。

このように、在宅勤務の普及は非常に大きな変化なのですが、「働き方改革」の入り口に立ったに過ぎないとも思っています。

テレワークが普通になると、九州でも沖縄でも北海道でも、社員がどこにいても構いません。時差が問題にならない範囲なら、タイやスリランカでも、ハワイでもギリギリOKかもしれません。仕事の進め方も変わって、ジョブディスクリプションを明確にするようになり、組織はフラットで権限移譲型のものになるでしょう。雇用も、これまでのメンバーシップ型からジョブ型に変わるはずです。

そうなると、週2日だけ手伝ってくれる社外の優秀なスペシャリストに仕事を依頼したり、引退して地方で暮らしている企業役員経験者を顧問に迎えたりするのも、普通のことになります。

すると、日本全体の生産性が高くなる。新型コロナウイルスの流行をきっかけに、そこへ向かうレールが敷かれたと思います。