貸出動向:貸出の伸びが縮小、資金需要一服か

貸出・マネタリー統計
(画像=PIXTA)

●貸出残高

10月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、9月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比6.24%と引き続き高水準であったものの、現行統計開始(1)来の最高であった前月(同6.59%)から大きく低下した。低下は2カ月ぶりで、3月(5.13%)以来の低い伸びにあたる(図表1・2)。

業態別で見た場合には、都銀の伸び率が前年比7.27%(前月は8.00%)と大きく低下した。大企業の一部では、最近、予備的に調達していた借入金を返済したり、短期の借入金を長期の社債に切り替えたりする動きがあることが、大企業向け割合の高い都銀の伸び率低下の背景にあると推察される(図表3・4)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、前月まで上昇が続いていた地銀(第2地銀を含む)の伸び率も同5.35%(前月は5.39%)と、わずかながら7カ月ぶりに低下した(図表3)。

地銀が主に対象とする中小企業においては、政府が経済対策の一環で実施している「民間金融機関による無利子・無担保融資」の利用拡大が続いているものの、その前提となる信用保証協会による保証承諾額(フロー)は6月をピークに減少し、保証債務残高の伸びもやや鈍化してきている(図表5)。

国内経済活動が完全に正常化したわけではないため、企業の資金繰りには厳しさが残るものの、前倒しでの調達もあり、企業による資金調達の動きは一旦峠を越えた可能性がある。ただし、企業の経営環境改善が遅れれば、再び悪い意味合いの資金需要が高まり、銀行貸出の伸びを押し上げることになる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)1992年7月

●預貸ギャップが拡大

銀行のバランスシート上の預金残高から貸出金残高を差し引いた「預貸ギャップ」は新型コロナ拡大以降に急拡大しており、直近8月末には過去最大の312兆円に達している。コロナ拡大後の預金の伸びが貸出の伸びを大きく上回ったためだ。貸出も伸びているものの、貸出の増加は預金の増加にも繋がるうえ、政府による各種給付金の支給が預金残高を押し上げた。

銀行にしてみれば、このギャップを証券運用等で埋めたいところだが、株式はもともとリスクウエイトが高く、債券は世界的に利回りが低下していることから、運用難の色彩が強まっていると考えられる。

マネタリーベース: さらに増勢加速、残高は初の600兆円突破

10月2日に発表された9月のマネタリーベースによると、日銀による通貨供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの前年比伸び率(平残)は14.3%と、前月(同11.5%)を大きく上回り、2017年10月以来の高水準となった(図表7)。

日銀当座預金の減少要因となる政府による短期国債(国庫短期証券)の大規模な発行が続いたが、日銀が大規模な買入れを続けたほか(図表8)、金融機関向け貸出である新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペと貸出支援基金が大幅に増加し(合わせて19兆円)、日銀当座預金残高を押し上げた。なお、長短国債の買入れ額はコロナ拡大前と比べて高い水準が維持されているものの、長期国債の買入れ増は限定的であり、短期国債の買入れ増も直近ではペースダウンしている(図表9)。

また、日銀券発行高の伸び率は前年比6.0%(前月は5.8%)、貨幣流通高の伸び率が同1.9%(前月は1.6%)と持ち直したことも、マネタリーベースの高い伸びに寄与している。キャッシュレス化の流れは逆風だが、ATMの利用減少で家計に滞留する現金が増加したとみられるほか、経済活動再開に伴って現金需要がやや回復したことが影響したと推測される(2)。

8月末時点のマネタリーベース残高は606兆円と前月末比23.2兆円増と大幅に増加した。残高が600兆円を突破したのは初のことだ。季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ても、9月は前月比15.9兆円増と高い伸びを維持している(図表10)。

日銀は引き続き前向きな緩和姿勢を維持し、各種資産の買入れや資金供給を積極的に続けると見込まれることから、マネタリーベースは当面高い伸びが続く可能性が高い。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(2)日銀券発行高と貨幣流通高の動向については、「二極化が進む現金流通高~一万円札は急増、五円玉は減少止まらず」(基礎研レター、2020年08月13日)をご参照ください。

マネーストック:預金が急増、通貨量の伸びが5ヵ月連続で過去最高を更新

10月13日に発表された9月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比8.97%(前月は8.58%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同7.43%(前月は7.13%)とともに大きく上昇した(図表11)。伸び率はともに5カ月連続で2004年4月の現行統計開始以降の最高を更新している。既述のとおり、企業向け貸出の大幅な増加が続いているほか、家計・法人向け給付金支給の進展もあって、預金の伸びが押し上げられたことが主因となった。

M3の内訳では、普通預金等の預金通貨(前月15.3%→当月15.5%)の伸び率が引き続き上昇し、過去最高を更新した(図表12)。内訳が判明している8月の時点では、個人の伸びが前年比11.5%であるのに対し、一般法人の伸びが同23.4%に達している。

また、現金通貨(前月5.5%→当月5.7%)の伸び率が上昇したほか、CD(譲渡性預金・前月▲5.3%→当月▲4.1%)、定期預金などの準通貨(前月▲2.5%→当月▲2.1%)の伸びも依然マイナス圏ながら、マイナス幅を縮小している(図表13)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

なお、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比5.57%(前月は5.28%)と上昇した。伸び率はM2やM3ほどではないものの、過去最高を更新している(図表11)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

内訳を見ると、既述の通り、M3の伸び率が上昇したほか、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース前月4.0%→当月4.5%)や外債(前月0.8%→当月2.4%)の伸び率も上昇している。一方、規模の大きい金銭の信託(前月▲1.6%→当月▲1.6%)、国債(前月▲1.1%→当月▲0.9%)の伸びは下げ止まっているものの、依然マイナス圏で低迷している(図表13)。

貸出の伸び率上昇が足元で一服しているうえ、各種給付金の支給も峠を越えているとみられるため、マネーストックの伸び率上昇も一服する可能性がある。ただし、貸出の急減速は見込み難いため、マネーストックの伸び率は今後も高い水準が維持される見通し。


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上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト

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