アントのIPO延期の舞台ウラ
 11月3日夜、アント・グループの上海・香港重複上場の延期が発表された。世界最大のIPOになると盛り上がっていた“アント狂騒曲”のまさかの結末。一体何があったのか。

中国株,買い方,日本との違い
(画像=Engdao/stock.adobe.com)

フィンテック大手のアント。キャッシュレス決済だけでなく、資産運用や保険商品購入、小口融資などの金融事業を行っている。 同社が展開する「支付宝(アリペイ)」は電子決済プラットフォームと称されるが、“スーパーアプリ”と言ったほうがしっくりくる。日本のLINEは、QRコード決済やショッピング、音楽など各種サービスにリンクしているが、アリペイはその超グレードアップ版というイメージだ。

「信用システムはビッグデータを基礎として成り立たなければならない」。

10月に上海で開催された「外灘金融サミット」にゲストスピーカーとして登壇したアリババ創設者・馬雲(ジャック・マー)氏の発言だ。 “デジタルドリブン”を前面に出し、AIを活用した審査・融資で一世を風靡するアントを自画自賛した。しかし同時に、従来型金融への苦言も忘れていない。 「銀行はカネが必要ない企業にばかりカネを貸し付けている」。 “オールドバンク”を揶揄するような不規則発言にも見える。 勢いは止まらない。

「中国の問題は金融のシステミックリスクではない。そもそも中国の金融界にはシステムなど存在しない。実質的には“金融システムの欠如”(こそが)リスクなのだ」。

この一言はさすがにキツかったらしい。 同じサミットでは、王岐山・国家副主席が「システミックリスクの発生を防がなければならない」という旨の発言をした。 それと真っ向から対立する形となってしまったのだ。 この頃からアントやオンライン金融に対する風向きが微妙に変わり始めた。 5中総会(10/26~29)後の国務院金融安定発展委員会(10/31開催)では、フィンテックの管理監督強化が議題となった。 11月2日付けの政府系「金融時報」には、ネット企業の金融業務参入に伴う潜在的リスクを指摘する記事が載った。 暗にアントをけん制するものだ。 そして同じ11月2日。 ジャック・マー氏とアントの会長、CEOの3人が、中国人民銀行(中央銀行)や銀行管理当局の“聴取”を受けたことが明らかになった。その場では、アントの消費者ローン事業について、自己資本比率やレバレッジ比率などの点で一段と厳しく審査する旨が伝えられたという。同日、ネット融資を規範化する「オンライン小額融資業務管理暫定弁法(請求意見稿)」も公表された。実質的な“アント包囲網”の構築。 翌3日、アントは上海・香港でのIPO断念を発表した。

今回の一件、端的に言えば、新興ビジネスの台頭をどう指導・管理するか腐心していた当局が「調子に乗るなよ」とばかりに動いたとも捉えられる。 一方、投資家の間では「チャイナリスク」が再び意識される可能性がある。 情報の透明性・公平性が乏しく、政府の干渉や突発的な政策変更で市場が影響を受けるという“悪いチャイナ”への懸念が頭をもたげる。 外資開放を進めるという中国当局の甘い言葉とは裏腹に、“潜規則”と揶揄されるオールドチャイナ方式(人治)への警戒感が生まれてきかねない。 企業側も、政府や政策の流れをうまく感じ取り、当局とのコミュニケーションが重要ということを再認識しただろう。

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一つ残念なのは、中国現地では今回の当局の対応やその影響を分析する議論があまり起きていないこと。 「余計なことは言わないほう・しないほうがいい」という自己防衛的な忖度が働く昨今。 前述したジャック・マー氏の発言はあまりにピュアで正直すぎたのだろうか。 それを受け入れる懐の広さがあれば、金融業界の未来も明るいと思うのだが。

奥山要一郎(おくやま・よういちろう)
東洋証券 上海駐在員事務所 所長
2007年入社。本社シニアストラテジスト等を経て、2015年より現職。
中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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