小学生・中学生の頃の自分を呼び戻してみる

「もう一人の自分」を見つけるためのアプローチとしては、子供の頃の自分を呼び戻すという方法もあります。小中学生の頃に好きだったことやこだわっていたことを振り返り、自分の中に再び取り込むのです。

ある通信会社の元社員は、今の仕事が向いていないと感じるようになった40代半ばの頃、中学生時代に見た提灯職人の見事な技に感動したことを思い出したそうです。

そして浅草の老舗提灯店に弟子入りし、修業を積んで独立。60歳を超えた今も提灯職人として活躍しています。

やはり子供の頃にモノ作りが好きだった人が高齢者のための家具を作ったり、乗り物好きだった人が地域のお年寄りや障害者を病院や施設までクルマで送り迎えするボランティアをしたりしているケースもあります。

このように子供時代の自分を呼び戻した人は、中高年や定年後になってもイキイキとして、良い顔をしているのが印象的でした。私が企業研修で「過去を振り返ってください」と言うと、たいていの人は新入社員の頃や大学時代からしか検討しません。

しかし、「これを勉強すれば得になる」「これをやっておけば出世につながる」といった損得勘定や合理的思考を身につける以前の子供時代まで遡るべきです。頭で考えるのではなく、自分の内側に本来あったはずの純粋な感情や志向を引っ張り出し、それを次のステップにつなげることが大事です。

とにかく動くことからすべてが始まる

定年後に向けたヒントをいくつか紹介しましたが、一番大事なのは、好奇心を持ってとにかく動いてみること。

会社の外での出会いが刺激となり、新たなステップにつながることが多いので、興味のある勉強会や趣味の集まりなど、人が集まる場所へ積極的に出かけましょう。

定年後に再雇用という選択をする人も多いですが、定年後の準備が間に合わなかった場合の猶予期間にはなるものの、再雇用自体が次のステップにつながっている人はそれほどいないように思います。

皆さんにも、50代から定年後を見据えて行動し、充実した「黄金の15年」を過ごしてもらいたいと思います。

楠木新(神戸松蔭女子学院大学教授)
(『THE21オンライン』2020年10月16日 公開)

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