サラリーマンの方にとって、所得税が給与から源泉徴収されるのに対して、住民税は収入があった時点から1年半遅れて支払う“後払い”の税金です。転職や退職といった人生の変わり目において、住民税は後払いの税金であるがゆえに気をつけなければならないことがいくつかあります。この記事では、その注意点を解説してみたいと思います。

目次

  1. 「住民税」は、所得税と何が異なる?
  2. 住民税の計算と納付時期
    1. (1)税額の計算方法
    2. (2)所得税と住民税の相違点
  3. 住民税、3種類の納付方法を理解する
    1. 住民税の納付方法
    2. 退職時期により住民税の納付方法が変わる
  4. 転職時における住民税の注意点
    1. 年末調整を考慮して転職・退職時期を検討しよう

「住民税」は、所得税と何が異なる?

転職,退職,住民税
(画像=mariusz-blach/stock.adobe.com)

サラリーマンの所得に課される税金には2種類あり、所得税と住民税があります。

前者の所得税が国に対する税金であるのに対し、住民税は都道府県および市区町村に対する税金です。所得税が給与をもらうと同時に源泉徴収という形で引き去られるのに対し、住民税は後払いの税金で、翌年の6月から翌々年の5月までに給与から差し引かれます。つまり、1年半も後払いとなることが所得税との大きな違いです。

住民税の計算と納付時期

住民税の特徴を理解するために、所得税と比較しながら説明したいと思います。税額の計算において所得税のほうが先行するので、所得税の説明をしてから住民税の説明になることをご了承ください。

(1)税額の計算方法

税額の計算のプロセスは所得税も住民税もほぼ同様です。

まず、給与収入からサラリーマンの経費に相当する「給与所得控除」が差引かれ「所得金額」が求められます。この所得金額から、さらに「所得控除」が差し引かれ、「課税所得金額」が求められます。

収入のうち課税所得金額が税金のかかる収入で、給与所得控除と所得控除が税金のかからない収入といいかえられます。

課税所得金額に所得税率または住民税率をかけて、所得税額または住民税額が求められます。
表にすると以下のようになります。

▽所得税または住民税税額の求め方

A給与収入
B給与所得控除 ※
C所得金額(A - B)
D所得控除 ※
E課税所得金額(C - D)
F所得税額または住民税額

給与所得控除と所得控除の内容は次の通りです。

・給与所得控除
いわば“サラリーマンの経費”ともいうべきもので、収入から一定の算式で計算され、所得税の計算でも住民税の計算でも全く同じ金額になります。

・所得控除
“人的控除”と“物的控除”に分かれます。人的控除は納税者本人と扶養家族の状況に応じて、物的控除はその年に支払ったお金の使途に応じて控除されます。項目としては次のものがあります。

(1)人的控除:基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、障碍者控除、ひとり親控除、寡婦(夫)控除、勤労学生控除など

(2)物的控除:社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛け金控除、医療費控除、雑損控除、寄付金控除など

項目は所得税と住民税で同じですが、控除額は同じか、所得税のほうが住民税よりも若干大きく設定されています。

(2)所得税と住民税の相違点

・所得税の計算のプロセスと「精算」について
所得税の納税は給与の支払いと同時です。すなわち、給与支払者である会社が給与支払時に税額を計算し、納税者は給与から源泉徴収されます。

源泉徴収額は一定の仮定をベースに計算しているので、その年の状況に応じて「精算」が必要になります。具体的にいうと、結婚して奥さんが専業主婦になった場合は配偶者控除が受けられます。また、生命保険料を支払った場合は生命保険料控除が受けられます。すなわち、先述の表のD)所得控除の金額が年度によって異なるのでそれを精算する必要があります。これを年末調整といいます。大体の場合、源泉徴収された税金が戻ってくるので、12月の手取り収入は一年で一番多くなります。

それだけではありません。

医療費控除やふるさと納税の寄付金控除の申告は年末調整ではできないので、翌年の2~3月に確定申告をして税の還付請求をします。そうすると、翌年の4~5月ごろには還付請求した金額も受け取れることになります。すなわち、所得税の「精算」の段階は、年末調整と確定申告の2段階ということになります。

・住民税の計算のプロセスと納税時期について
住民税の計算は、所得税の最終確定を待ってから市区町村が行います。納税額は毎年5月ごろに納税者に通知され、給与所得者の場合は6月からその次の年の5月にわたって給与から引かれることになります。

所得のあった年から見ると、住民税は翌年の6月から翌々年の5月の給与から引かれるので、所得税と住民税の納税時期の差は1年半ということになります。住民税は課税所得金額が最終確定してから計算されるので、「精算」のプロセスはありません。

・所得税と住民税の税率の違い
所得税の課税方式は超過累進課税といい、課税所得金額が大きくなるにつれ、税率が5%から最大45%にまで拡大します。すなわち、高額所得者ほど指数関数的に税金が増えることになります。

これに対し、住民税の税率は一律10%(所得割)です。もちろん、所得が増えればその分は増えますが、所得税のように税額が急激に上昇することはありません。

以上が簡単な所得税と住民税の違いの説明です。

住民税、3種類の納付方法を理解する

ここまで住民税の解説をしてきましたが、住民税は1年半後払いの税金であるために、転職や退職の際には注意が必要です。以下、いくつかの場合にわけて押さえておきたい注意点を説明したいと思います。

住民税の納付方法

住民税の納付方法には次の3通りあります。所得税のように収入と税の支払い時期が一致していれば簡単ですが、住民税は1年半遅れの税金なので、退職時期によって支払方法や支払金額が変わってくるので、注意をする必要があります。

▽住民税の3種類の納付方法

納付方法内容
特別徴収給与所得者に対して適用される方法で、会社が毎月支払う給与から住民税を天引きして支払います。従業員から見れば、自動的に住民税を支払うことができます。
普通徴収個人事業主などに適用される方法で、市区町村から自宅に送ってくる納税通知書をベースに納税者自らが支払います。年4回、6月・8月・10月・1月に支払うことになります。
一括徴収会社を退職したとき最後の給与か退職金などから一括で住民税を支払う方法です。

退職時期により住民税の納付方法が変わる

事前に特段手続きをしていない場合は、退職時期に応じて次のとおり住民税の納付方法が変わってきます。

・1月1日から5月31日までに退職した場合
5月分までの住民税を退職時の給与または退職金などから一括徴収されます。5月退職の場合は、今までどおり、5月分の住民税が5月分の給与または退職金などから徴収されます。

・6月1日から12月31日までに退職した場合
退職月分は給与または退職金などから徴収され、翌月以降分については、次のうち本人の意向に従い選択することが可能です。
(1)転職先が決まっている場合、「異動届出書」を提出することにより、転職元と同様、転職先からも特別徴収してもらう。
(2)給与または退職金などから一括徴収してもらう
(3)自宅に郵送される住民税の納税通知書に基づき支払う普通徴収に切り替える(年4回の支払いになります)。

転職時における住民税の注意点

今まで特別徴収で住民税支払いを会社任せにしていた人は、退職とともに税金の支払い方が変わります。6月に退職して一括徴収にした場合は、最大12ヵ月分の住民税を支払わなくてはならなくなるので、個人の資金繰りにも影響することになります。

それでは、転職や退職の仕方に応じて、どんな点に注意し、どのようにすれば最も影響を受けにくくなるか検討してみることにしましょう。

・転職先が決まっている場合
転職先が決まっている場合は転職先に依頼して転職後も特別徴収を継続してもらうのが、資金繰りの問題や手間も発生せずベストです。1月から5月に退職する場合でも異動届出書を転職先にも提出し、転職先が特別徴収の引継ぎを行なってくれれば、特別徴収の継続も可能な場合もあるようです。転職先に相談してみましょう。

・転職先が決まっていない場合
転職先が決まっておらず、しばらくしてから再就職を考えようという場合は工夫が必要です。

1月から5月に退職した場合は、退職時から5月までの住民税が退職時に一括徴収されるので、納税額に応じた資金を準備することが必要となります。

6月から12月に退職する場合は、資金がある方は最大12ヵ月の一括徴収もできますが、通常は、普通徴収に切り替え、2ヵ月ごとに支払って転職のタイミングを探すのが現実的と思われます。

・個人事業主になる場合
退職して個人事業主になる場合は、住民税を給与から天引き(特別徴収)手続きを行なってくれる会社はなくなるので、退職時期に応じて一括払いをした後は、普通徴収に切り替えることになります。

普通徴収に切り替えても年4回の現金納付をするのは面倒ですし、支払いが遅れるリスクもあります。振替納税の手続きをして、納税者名義の預金口座から口座引き落としをするのがおすすめです。

年末調整を考慮して転職・退職時期を検討しよう

12月31日以前に退職した場合、その年の年末調整を前の会社が行うことはできません。その場合、生命保険料控除や住宅ローン控除も受けられなくなるのか、不安になる方もいるでしょう。

しかし、その心配は無用です。会社が行なってくれる年末調整の代わりに、自分で確定申告をする方法があります。いちど確定申告を自ら行なったことのある方であれば、手続きはさほど難しくないでしょう。確定申告をすることによって、その年の住民税が確定するので、翌年の状態、再就職か個人事業主かに応じて、住民税の支払い方法を決め、住民税を支払うことができます。

ただ、確定申告の経験のない方の場合、年末調整は元の会社で済ませて、退職は翌年早々にすることを考えてもよいかもしれません。(提供:JPRIME

執筆:浦上 登
東京築地生まれ。大手重工業メーカーで海外営業を担当後、保険部門に勤務。現在、サマーアロー・コンサルティング代表。ファイナンシャル・プランナー、証券外務員第一種。ライフプラン等の個人相談および講演・記事執筆を行う。


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