本記事は、高津佐 和宏氏の著書『儲かる農家の強化書 年収1000万円以上稼ぐ経営戦略』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
農業界のシェアの話
供給量が減らないのは農業界の特性のせい
需要と供給のバランスで価格は決まっていく、という話をしました。では、供給をコントロールしないのかという疑問もあるでしょう。しかし、農業界では供給をコントロールしにくい事情があるのです。それは、農業界のシェアの話です。
たとえば、日本のトマト農家は4万6,000経営体です。それだけあれば、農家が少し減ろうが、増えようが大きな影響はありません。自動車業界を考えてみてください。自動車を製造するメーカーは国内にいくつあるでしょうか。トヨタ、日産、ホンダ、マツダ…… 他にもいくつかありますが、14社程度です。もし、自動車の需要が大幅に減ったら、各社価格を維持するために減産すると思います。しかし、農家は数が多すぎるために、供給量を全体でコントロールすることが現実的に不可能なのです。
気象条件で豊作になったり、不作になったり
さらに、農業生産の現場では、気象条件により豊作になったり、不作になったりします。
生産面積は変わらないのに、供給量が変化するのです。この気象条件による豊作、不作も農業界で供給量をコントロールしにくい要因になっています。
需要と供給のバランスが崩れた先にあるもの
供給が増えると起こること
供給量が増えると価格は下がり、利益は減ります。価格が下がっても利益を出せる農家と、赤字になる農家に分かれます。赤字の農家は、農業をやめるか、他の品目に切り替えて農業を続けるか選択します。利益は少なくなっているけれど、まだその品目で農業を続けることができる農家は、そういったやめる・品目転換する農家を横目に農業を続けます。
そして、ある程度、農家が減り、品目転換が進むと、供給量が減り、価格が上昇します。
生き残った農家は、高単価で販売でき利益率が良い農業経営が実現できます。農業の現場では、定期的に需要と供給のバランスが崩れることが起きているのです。
供給が減り、価格が上がると起こること
供給が減り、価格が上がると、「最近あの○○は単価がいいらしいよ」「○○は儲かるよ」と話が出回り、その品目の栽培面積が回復していきます。それが行きすぎると、また供給が増えて価格が下がっていくのです。実は農業の現場はこれのくり返し。
生き残るために必要なのは、需要の円の中心にいる農業経営をすること。円の外側の人は、価格が下がったときに真っ先に退場する農業をやっている人。円の中心とは、利益率の高い農業経営ができている人。供給が増えて、需要が相対的に減り、価格が下がっても、円の中心にいる人はその品目で生き残ることができるのです。
農家間の情報格差が広がっている
農家間の差が広がり始めている
ここ数年、顕著になってきているのが農家間の情報格差です。これは、インターネットとスマートフォン、SNSの普及がその要因です。
インターネットやスマートフォン、SNSがなかった時代、テレビ、新聞、ラジオ、雑誌、そして行政やJAの職員からというのが農家の情報源でした。みんな元ネタの情報源がほぼ同じなので、農家同士の情報交換にも限界があります。つまり、ひと昔前、農家はほぼ同じ情報を得ていたので、みんな考え方が似通っていたのです。
しかし、今は違います。スマートフォン片手にさまざまな情報を得ることができます。
遠く離れた農家とリアルタイムで情報交換したりもできます。その結果、今まで手に入らなかった情報を得ることもあり、農家同士の情報格差が広がっています。
情報格差が意識格差に、そして利益の差になる
情報格差は、農家の「意識格差」につながり、そしてひいては利益の差になっていきます。
端的に言うと、稼げる農家はさらに稼ぐようになり、今までと同じ情報でしか行動できない農家はどんどん稼げなくなるのです。
この情報格差からくる問題は、農家同士だけでなく、行政やJA職員、農業関連企業の社員にまで及びます。
自ら優良な情報を得る努力をしないと、優秀な農家にどんどん置いていかれてしまうのです。
宮崎大学大学院修士課程を修了後、JA宮崎経済連に就職する。農業機械、マーケティング、業務加工用野菜、県外営業所勤務を経て、冷凍野菜・カット野菜の製造販売を手掛ける子会社の設立に携わり、営業責任者として15億円の売り上げと工場内の業務改善により黒字化に貢献。
2018年4月に農業経営コンサルタントとして独立。独立後は、農家を直接支援するために、YouTubeやSNSで「儲かる農家になるための情報」を発信しながら、講演・セミナー活動、個別コンサルなどを行っている。著書に『金持ち農家、貧乏農家』(かんき出版)、『ゼロからはじめる 稼ぐ農業 必ず知っておきたいこと100』(共著、あさ出版)がある。
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