サラリーマンなら一度は夢見る「早期退職」ですが、給与収入が途絶えてしまうため、一見するとリスクが高い決断にも感じられます。特に自らが養うべき家族がいる場合は、生活環境を変える決断には勇気がいります。
しかし次世代への資産譲渡を考えた場合、早期退職を行うメリットも見えてきます。本稿では、次世代へ資産を引き継ぐための“攻め”の早期退職のメリットを解説していきます。
目次
給与収入は必ずしも「安定」ではない
総務省が発表している2020年9月分の「労働力調査」によると、国内の就労人口は6,689万人おり、そのうちの約90%にあたる5,961万人が雇用者(自営業主・家族従業者以外の就業者)、つまり給与によって収入を得ています。
企業などに雇用され、労働力を提供することで得られる給与収入は、定期的に一定の収入が見込めるため一見安定しているように感じられます。
国税庁が2020年9月に発表した「民間給与実態統計調査」の年齢階層別の平均給与〕によると、たしかに男性の場合は年齢を重ねるに従って平均給与も増加していきます。
しかし、それも年齢が若い期間だけで、50歳を迎えるころになると平均給与の伸び率が鈍化し、60歳を超えると定年退職などによる雇用の変化のため平均給与が減少に転じていきます。
このように、給与収入は年齢によって得られる金額が異なっており、現在高い年収を得ている場合でもそれが長期間続くわけではありませんし、その収入自体を次世代の方々に相続することもできません。
次世代に資産を遺すことが重要に
老後資金の準備が十分に行われていれば、定年退職などにより給与収入が減少した場合でも、年金収入と貯蓄によって自身と配偶者の老後生活を支え、場合によっては子どもや孫への多少の支援も行えるかもしれません。
しかし、平均給与は当然ながら企業規模や業種によっても大きく変動するため、次世代の方々がご自身と同じ収入を得られるとは限りませんし、次世代の方々の老後生活にも問題が生じています。
2019年に厚生労働省が発表した財政検証「国民年金及び厚生年金に係る 財政の現況及び見通し」では、老齢年金の給付額にも触れられており、老齢年金が現役時代の収入をどの程度肩代わりできるかを示す“所得代替率”の低下が示唆されています。
【参考】厚生労働省「国民年金及び厚生年金に係る 財政の現況及び見通し」2019年8月27日
所得代替率は、2019年は61.7%となっていますが、2024年には60~60.9%に低下してしまいます。その後は経済成長と労働参加が良好に進んだとしても、2046年頃には所得代替率が50.8%~51.9%となってしまいます。
所得代替率が低下すると、より多くの老後資金を自身で準備する必要が生じるため、老後に向けて厳しい生活を強いられてしまう恐れがあります。
時間の経過とともに条件が悪化していくのであれば、相対的に現在が最も恵まれている時代とみることもできます。現在多くの収入を得られているのであれば、その資産を子どもや孫など次世代の老後を見据えて活かしてみてはいかがでしょうか。
資産構築の第一歩は、家計資産・収支の棚卸から
次世代のための資産構築を進める場合、まず自身の資産内容や家計の収支の見通しを再確認する必要があります。
この際、不要な支出の洗い出しや、株式や投資信託などの分配金といった不労所得の種類・金額の確認とあわせて、役職定年や定年後再雇用などで給与収入が減少していくことも想定した上で長期的な世帯収支を算出することが重要となります。
また、定年退職などに伴う雇用保険の給付制度も忘れずに反映させるようにしましょう。定年退職に伴い利用できる制度としては、65歳より前に退職した場合に給付される失業保険の「基本手当」と65歳以降で退職した場合に一時金として給付される「高年齢求職者給付金」があります。
支給額は、基本手当の場合は最大で7,083円が150日間にわたり支給され、高年齢求職者給付金の場合は最大で基本手当の50日分が支給されます。ただし、どちらも受給の前提として退職後に働く意思があり、求職をし、失業認定を受ける必要があります。
これら家計資産の棚卸により、不要な支出の削減を行ってもなお、将来的に赤字が予想される場合、生活資金として資産をすり減らしてしまいます。これは次世代のための資産に影響を及ぼしてしまう恐れがあります。
現状の延長では充分な資産を次世代に残せないのであれば、早期退職などを含めたライフプランの再検討を進めてみることをおすすめします。
次世代への資産は不労所得で準備を
ここで次世代への資産構築について考えてみましょう。資産を現預金で渡してしまうと、相続時に高い税率が課されたり、消費してしまうとそれっきりとなってしまうため、さらに下の世代への支援を行うことができなくなってしまいます。
そこで次世代のための資産を、現預金ではなく、不動産や株式・投資信託といった金融商品からの家賃収入や配当金などに替えることで継続的な支援を行うことができます。
不動産や金融商品に替えるとすると、不動産の場合であれば購入する物件の種類や立地、周囲の賃料相場の動向などの調査や修繕などに備えた資金計画の立案が必要となりますし、株式などの金融商品は銘柄の選定や投資タイミングなどを検討する必要があるため、仕組みの構築には一定の労力が必要となります。
ですが、一度こうした収入基盤をつくってしまえばこうした金融資産からの不労所得は、所有者の年齢や健康状態に左右されることなく収入を確保することができるほか、相続財産として次世代に引き継がせることも可能となります。
ここで、個人で構築した資産を次世代が保有するときに注意したい点もあります。相続税によって相続を経るごとに構築した資産が徐々に目減りしていったり、法定相続人の増加によって資産が散逸してしまうといったデメリットがあるからです。
このデメリットへの対策として、資産管理会社を設立する方法があります。法人として不動産や金融資産を所有し、資産管理会社の株式を次世代の方々の相続財産とすることで相続税対策を容易にし、資産の散逸を防ぐことができます。
勤務先によっては大規模な不動産投資や資産管理会社の利用を制限している場合もあり、サラリーマンのままでは利用できる手段が限られてしまうかもしれません。
早期退職は、こうした制約を受けることなく、また退職によって生まれた時間を不労所得の基盤づくりに充てられるメリットがあります。金融資産からの収入でご自身や配偶者の老後生活を支え、資産を目減りさせることなく次世代に伝えることが可能になるかもしれません。
早期退職後のリスクへの備えを確認
早期退職によりサラリーマンでなくなってしまうと、事故や病気など、万が一の際の福利厚生が弱体化してしまうのではないかと懸念を感じられるかもしれません。
そこで、サラリーマンと個人事業主の死亡・傷病リスクに対する、主な社会保険制度の差異を比較してみます。
死亡リスクに対する制度比較
・サラリーマンの場合
サラリーマンは通常厚生年金に加入しているため、死亡した場合には配偶者や子どもなどの一定の親族に対して、「遺族厚生年金」が支給されます。遺族厚生年金は、基本的に厚生年金に加入している人が死亡、ないしは加入期間中の傷病の初診日から5年以内に死亡した場合が支給要件(短期要件)となります。
・個人事業主の場合
厚生年金に25年間以上加入してから退職した場合は、退職による資格喪失後でも遺族厚生年金を受け取ることが可能です(長期要件)。
この長期要件に合致する場合であれば、退職によって社会保険の死亡保障が大きく減少することはありません。
傷病リスクに対する制度比較
・サラリーマンの場合
傷病による休業の場合、労災認定を受ければ休業補償、健康保険の傷病手当金などが利用できます。また、使用者の都合で休業になってしまった場合には、平均賃金の60%以上の休業手当が支払われるなど、リスクに対して一定の備えがあります。
・個人事業主の場合
もし先述の休業補償や傷病手当金などの受給期間中に早期退職をするならば、いくつかの手当金は退職後も期間内は受け取ることができます。しかし、基本的には個人事業主の場合は民間の医療保険に独自に加入する必要があり、リスク対策の重要性は高まるといえるでしょう。
ですが、公的医療保険制度にある医療費の自己負担限度額を定める「高額療養費制度」のように、加入者の所得によって自己負担額の上限が引き下げられる費用もあるため、一概に弱体化してしまうわけではありません。
結論として、早期退職を行った場合は社会保険制度によるリスクへの備えはご自身の厚生年金の加入期間、退職タイミングなどに応じて異なるといえるでしょう。
早期退職で得られた時間を次世代のために有効利用
サラリーマンが生活の糧とする「給与収入」は定年退職などにより一定の期間を過ぎると収入額が大きく低下してしまうという特徴があり、減少した収入分を預貯金や退職金などで補うことで老後生活を継続させていくことになります。
しかし、経済環境は今後も厳しさを増していくため、次世代の方々はご自身と同じレベルの生活を送れないかもしれません。
そこで、早期退職によって得られた時間と老後資金を次世代への資産として永続性のある不労所得の仕組みを構築するのに費やしてみてはいかがでしょうか。(提供:JPRIME)
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