人生100年時代を迎え、安定した老後生活は資産運用での老後資産形成や年金制度に左右されるといっても過言ではない。年金制度は、少子高齢化や労働環境の変化によって改正され、状況によっては定年時期を先延ばししたり、定年後の再雇用先を探したりするなど臨機応変な対応が求められる。
2020年度年金制度改正のポイントは3つ
人材不足に悩む労働現場では、定年退職をしたシルバー人材をいかに活用するかという課題に直面している。
年金制度も、労働者がより長く多様な形で働くスタイルに変化する中で、その変化に沿いながら、高齢期の経済基盤を安定的に支えるための改正が施された。
●年金受給開始年齢の延長
年金制度改正の1つ目のポイントは受給開始年齢の上限が70歳から75歳にまで延長された点である。年金の受給開始時期が60歳から75歳までの間から選べるようになったのだ。
年金は受け取る権利が発生する65歳を境として、それよりも繰り上げるか、繰り下げるかで受給額が変動する。60歳から繰り上げて受け取る場合は、1ヵ月当たり年金額が0.5%減額 (2022年度からは0.4%に変更) される一方、繰り下げて受け取る場合には1ヶ月当たり0.7%増額される。
65歳で受け取れる年金を100とすると、60歳に繰り上げて受給をスタートすると76に、75歳まで繰り下げてから受け取ると184となる。
寿命がいつまで続くのかはわからない。そのため、年金を繰り上げるべきか、繰り下げて受給すべきかは悩ましい問題だ。2019年の時点で、75歳の平均余命は男性12.41年 (87.41歳) 、女性15.97年 (90.97歳) であった。
仮に年金受給額が年150万円で各種税金や保険料を考慮すると、75歳から繰り下げて年金を受給した場合、65歳から受給するケースの年金額をトータルで上回るのは91歳時点という試算もある。
●在職老齢年金の見直し
2点目は在職老齢年金の見直しである。在職老齢年金制度とは、60歳以上で仕事をしながら賃金と年金を受給している場合、その合計額が一定の水準を超えると年金の一部カット、全額不支給となる制度のことだ。
現在は60歳から64歳の人が就労しながら年金を受け取る場合、給与 (賞与を含む) と年金の合計額が月28万円を超えると、年金支給が停止される。今回の年金制度の改正では、この水準を47万円までに引き上げることになった。
また、65歳以上で在職中の老齢厚生年金受給者の年金額については、毎年10月に年金額の改定を実施し、納めた年金保険料を年金額に反映するように改正される。これまでは退職するまで老齢厚生年金の額は改定されなかった。
●短時間労働者に対する年金保障の充実
3点目は、短時間労働者に対する年金保障の充実だ。現行制度では従業員500人以上の企業において、週20時間以上の勤務などの条件を満たす短時間労働者に対して厚生年金が適応される。
今回の改正では対象となる企業の規模が見直され、2020年10月からは100人以上の従業員、2024年10月からは50人以上の従業員を抱える企業にまで適用されるようになる。
改正によるメリット
今回の年金制度改正によって個人が享受できるメリットは次のようなものだ。
まず、受給開始年齢の上限が75歳まで引き上げられたことにより、繰り下げ受給により年金受給額が上積みできるようになる。また、年金受給者の中には、年金が削られないように勤務時間をセーブしたり、パートなどの雇用形態を選択したりしているケースがあるが、在職老齢年金の見直し措置により就労の選択肢がさらに広がりそうだ。
さらに、中小企業でパートなど短時間労働に従事し、将来への年金不安を抱えている労働者にも厚生年金加入への道が開かれるのは朗報といえる。
企業にとっては、シニア人材の活用が期待できそうだ。これまでは、年金カットや支給停止を回避するために働き方を限定していたシニア人材に対し、年金カットの水準が引き上げられたことで、これまでより高い報酬を提供して経験豊かな人材を活用することが可能となる。
また、中小企業における短時間労働者の厚生年金加入の適用により、厚生年金に加入できる安心感から、子育てなどの事情を抱える人が短時間労働者として積極的に労働市場に参入してくることも想定される。そうなれば、人材不足の解消にも期待が持てるだろう。
年金制度改正は現役世代のキャリアプランにも影響
年金制度改正は、年金受給額の増減にばかり気を取られる傾向があるが、人生設計を左右する変更点に注目することが重要だ。
今回の改正では、労働者がより長期間働くことを想定して、それに見合うように制度に修正が加えられた。
年金受給者だけでなく、現役世代も年金制度の改正と今後のキャリアプランを照らし合わせ、長く働けるようなライフスタイルを模索すれば、人生100年時代にも豊かな老後を享受できるチャンスが広がるだろう。
(提供:大和ネクスト銀行)
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