パンデミック宣言から1年が経過し、アフターコロナもリモートワークが広範囲に定着すると予想される現在、リモートワークに新しい潮流が見られます。「ハイブリッド・リモートワーク」や「ヴァーチャル・オフィス・ツール」といったトレンドが生まれたほか、アイルランドはリモートワークの促進を過疎化対策に役立てるという、ユニークな構想を発表しました。

リモートワークの現状  従業員・雇用者間で勤務再開をめぐり温度差

進化するリモートワーク 働き方を変える2021年のトレンドとは?
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国際コンサル企業PwC(プライスウォーターハウスクーパース)が2021年1月にエクゼクティブ133人、従業員1,200人を対象に実施した調査では、雇用者の83%、従業員の71%が「リモートワークは成功している」と回答し、リモートワークに対するポジティブな意見が目立ちました。

しかし、リモートワークの頻度やオフィス勤務の再開時期に関しては、従業員と雇用者の間で温度差があります。従業員の3割が「週5日以上」、1割が「4日以上」のリモートワークを希望していますが、企業文化の維持や生産性、コラボレーションの向上を理由に、「一般の従業員は少なくとも週3日は出勤するべき」と考えるエクゼクティブが6割を超えています。また、32%が「今後リモートワークの割合を増やす」意向を示す一方で、26%は「リモートワークの時間を限定する」、17%は「できるだけ早くオフィスに戻ってほしい」など、リモートワークを補助的なもの、あるいは一過性のものと捉える意見もあります。

オフィス勤務の再開時期については、75%のエクゼクティブが「7月までに少なくとも労働力の半分が現場に戻る」と予想しているのに対し、「7月までに少なくとも週の半分は出勤する」と予想している従業員は63%に留まりました。

在宅+出勤の「ハイブリッド・リモートワーク」が主流に

多くの大手企業はこのような温度差を埋めるべく、在宅勤務と出勤を組み合わせた働き方である「ハイブリッド・リモートワーク」を採用しています。

自宅でできる仕事はリモートで行ない、共同作業が必要な仕事はオフィスで行うことで、生産性の向上やチーム・組織へのコミットメントの強化が期待できるほか、コミュニケーション不足や孤独感といった、リモートワークの課題解決にも役立ちます。

ハイブリッド・リモートワークをさらに向上させる手段として、「ヴァーチャル・オフィス・ツール」を採用する企業も増えています。仮想空間に設置したオフィスで出勤気分を味わいながら、従業員同士が気軽にコミュニケーションをとれる点が、Zoom(ズーム)やSlack(スラック)などのビデオ会議・チャットツールとは異なります。

現在、様々なヴァーチャル・オフィス・ツールが開発されていますが、いずれも状況によって使い分けられる複数のコミュニケーション機能や画面・資料共有機能、WEB会議機能、インタラクティブ・ホワイトボード機能など、オフィスでの共同作業に必要な機能を備えています。

過疎化対策にも貢献!アイルランドの「リモートワーク推進構想」

リモートワークの普及により、東京など一部の大都市では、郊外や地方への移転を検討する人が増えています。アイルランド政府はこの流れを活かし、都市と過疎地の格差を解消するためのリモートワーク推進構想「私たちの過疎地の未来(Our Rural Future)」を進めています。

人口がおよそ498万人という小さな国でも、過疎化は深刻な問題です。アイルランドでは人口の約3割が首都ダブリン近郊に密集しており、全体の約1.4割が65歳以上と高齢化が加速しています。一極集中が進むと地方人口の減少から活力が衰退し、高齢化にともない社会保障費が増加して、地方財政が圧迫されます。

そこで、アイルランド政府は地方創生を促す戦略として、リモートワーク環境の整備を前面に打ち出した、大規模な地方移転支援計画を発表しました。この計画には、400を超えるリモートワーキングハブのネットワークの構築や、個人および在宅勤務を支援する企業への減税制度、過疎地への移住者支援制度、ブロードバンドネットワークの拡大などが含まれます。現時点(2021年4月5日)では具体的なロードマップなどは発表されていませんが、2021年末までに30万人の公務員の2割を、リモートワークに移行させることを目指しています。

従業員のメンタルサポートがニューノーマルに?

リモートワークへの移行は仕事だけではなく、ライフスタイルにも大きな影響を与えています。「ワークライフバランスが取りやすくなった」というポジティブな声もありますが、「オンとオフの切り替えが上手くできない」「仕事に集中できる環境が整っていない」といった理由でストレスを感じる人も少なくありません。

企業側はこのような従業員の声に耳を傾け、仕事面だけではなく生活面も含めて、総合的なサポートを行うことが求められるでしょう。すでにアーンスト・アンド・ヤング(EY)やフィナンシャルタイムズなどは、コロナ禍のリモートワークでストレスを感じる従業員のために、カウンセリングなどのメンタルサポートや、睡眠習慣を改善するためのモバイルアプリ、メディテーションセッションなどを提供しています。

充実したサポート体制は従業員の定着率を向上させ、さらに優秀な人材を惹きつける魅力にもなります。コロナが様々な変化をもたらした現在、人々の働き方とともに企業の役割も大きく変わろうとしています。

(提供:Wealth Road