少し前に「お金持ちが持っているのは長財布だった!」という内容の本が流行った時期があった。長財布を勧める本は出版不況の中で20万部を超えるヒットとなり、類書や同様の記事が登場した。さて、2018年の現在、ネットで「お金持ち 長財布」と検索をすると「長財布を使い始める人はますます貧しくなった」や、「嘘だ」といった否定的な内容が出てきている。「お金持ちは長財布を使っている」のは本当に正しいのか?それとも間違いか?

「お金持ちは長財布」は本当か?

金融
(画像= Suguru/stock.adobe.com)

最初に長財布ブームを作り出した著書は700人以上の社長の財布を見てきた税理士で、その経験から「稼いでいる人はお金を大切に扱うことができ、お金が快適に過ごせる長財布を持っていることでお金に愛されるのだ」と、やや精神論的というかスピリチュアル的な論理展開をしていた。この話は全面的でないにしろ、部分的には正しいだろう。お金を丁寧に取り扱える人とは、概してお金の把握ができている人であるという考え方もできる。

しかし、世のお金持ちがみんな長財布を使っているのか?というとそうではない。長年、ファーストクラスでVIP客へサービスをしてきたキャビンアテンダントは「トップビジネスマンは二つ折り財布が多い」と違った持論を展開している。こうなると主張する人によって異なるから事実が分からなくなってくる。

お金持ちは合理的思考

筆者が数々の富裕層と付き合ってきて感じた共通点は、「彼らはとにかく合理的」ということだ。それはお金の持ち方にも現れている。

知人で年収が億を超える社長がいるが、彼はコンビニで買い物をする場合を含め、使えるところは全てクレジットカードを利用している。否、クレジットカードが使えないお店は面倒だからあまり利用しないと言っていた。「現金でないとお金を使用した感覚がなくなるから危険、という人は単に金銭感覚がないだけ。自分の場合はクレジットカードの明細をきちんと見ているから逆に現金払いが続くと月末の時点で把握できなくなる。かといって家計簿をつけているのは時間のムダ」という。

そして「現金払いは自分だけでなく、社会全体で見て損失を生む。レジに並んでお金の準備、お釣りの受け渡しなどレジ処理にも時間がかかるから現金払いは全体的に見て周囲の迷惑になる」と面白い持論を展開してくれた。そんな彼が持っていたのはカードケース。2枚のクレジットカードを入れていて、外出時はそれで全ての支払いを済ませているのだという。

世界的にはキャッシュレス化が主流

そもそも世界的にみるとキャッシュレス化はどんどん進んでいる。

筆者の知人にアメリカ人トレーダーがいる。彼の年収は数千万、まぎれもない富裕層である。だが彼は財布にこだわりなど持っていない。アメリカはカード社会であり、どこのお店でもカードが使用できるから、お金を持ち歩く必要がなく、こだわりの財布などを持つ必然性がないのだ。彼はジャラジャラとたくさんの小銭をこだわりの財布に入れて残金を把握する、なんていうことはしていない。

いわく「お金持ちになりたければ、大きな額を慎重に見ることに注力するべきであり、小銭のような少額に気を囚われるのはムダだ」とのことだ。また、「大金を持ち歩くとリスクでしかない。お金は落としたら戻ってこないけど、カードなら止めれば損失はない」と言っていた。極めて合理的な思考である。

キャッシュレス化はアメリカだけではない。お隣中国は日本より遥かにキャッシュレス社会を実現させている。知人の富裕層の中国人は基本的に財布を持たない。その理由をこう話す。「中国ではお金は”物理的に汚い”と見ている人が多い。ボロボロだし、血液のようなものが付着していたり、偽札もあったりする。13億人で偽札ババ抜きをしているようなものだから、可能な限りキャッシュを持たないことがリスクヘッジになる」と。日本のホームレスは小銭を入れるボールを前に置いていることがあるが、中国の場合はホームレスもQRコードの札を下げているなど、徹底したキャッシュレス化を実現させているのだ。それは観光客をみても分かる。

比較的お金を持っている中国人が日本へ観光にやってきているわけだが、彼らの中には手ぶらに近い人もいる。クレジットカードはもちろん、近年ではビットコイン決済などを利用する中国人もいるので、スマホだけという人もいるほどだ。

世界的に見てキャッシュレス化は促進されており、現金主義は日本のガラパゴス現象といっても過言ではないのである。

「お金持ちは長財布」の真相

このように「お金持ちはシーンによって長財布や、二つ折り、コインケースやマネークリップを使い分ける「合理主義」が多い」というのが冒頭の問いに対する筆者の答えだ。長財布を使っているお金持ちは、「長財布(二つ折り)はお金が快適に過ごせる空間である」といったジンクスに従って動いているのではなく、お金持ちになる要素を持った人が、たまたま掴んだ先が長財布だっただけに過ぎない。もちろん中には長財布を持ち始めたときからビジネスが上向きになったことで、ゲン担ぎで長財布を使っている富裕層もいるだろう。しかし、それはあくまでその人がそうしたスタイルで動いているだけという話なのである。

「お金持ちが長財布」というのは単なる面白いブームだったように思う。時代はどんどんキャッシュレス化に移っている。お金持ちに一歩近づくためには、おまじないまがいの話を信じるのではなく、合理主義的な思考をマネた方が良いのではないだろうか。

文・黒坂岳央(高級フルーツギフトショップ「水菓子肥後庵」代表)/ZUU online

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