シンカー:信用サイクルが持ちこたえたことで、景気が回復のないL字型になるのは回避され、ワクチン接種が進む中で、緩やかなU字型の回復につながってきている。第四次産業革命、デジタル・トランスフォーメーション、脱炭素などの投資テーマで設備投資サイクルが上振れ、企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、経済対策の効果と合わせて、景気回復をU字型からV字型に変えるだろう。新型コロナウィルス問題の終息後は、企業の成長期待の上振れによる投資拡大と失業率低下にともなう賃金上昇による消費回復が両輪となる内需拡大が、成長を自立的にけん引するようになるだろう。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

成長—ウィルス問題の終息後に内需主導の自立的な形に進化していく

新型コロナウィルス感染拡大の第四波の緊急事態宣言下にあるが、昨年と比較し、厳格な感染対策とともに経済活動の水準は回復してきている。衆議院選挙のある秋にはウィルス問題の終息後の経済成長を促進させる経済対策が実施されるだろう。2021年度の実質GDP成長率は+3.4%となり、2020年度の同−4.6%からリバウンドするだろう。オリンピックは観客を限定して実施されることを前提とするが、建設を含む需要効果のほとんどは既に出ている。中止になれば、政府の危機感で経済対策の規模は膨らむだろうから、成長率に対する影響はそれほど大きくはないだろう。ワクチン接種が進むことで経済活動の回復速度が上がるとともに、後ずれしてきたサービスの消費需要が戻り、第四次産業革命、デジタル・トランスフォーメーション、脱炭素などの投資テーマで設備投資も押し上げとなり、2022年度の実質GDP成長率は同+3.2%と高い水準を維持するだろう。投資テーマを背景とした海外の需要は強く、円安水準が維持されることもあり、輸出も堅調に回復していくだろう。ウィルス問題の終息後は、企業の成長期待の上振れによる投資拡大と失業率低下にともなう賃金上昇による消費回復が両輪となる内需拡大が、成長を自立的にけん引するだろう。

図1:実質GDP成長率と水準

実質GDP成長率と水準
(画像=内閣府、Refinitiv 作成:岡三証券)

労働−信用サイクルが持ちこたえ景気はL字型からU字型の回復へ

日本経済は輸出・製造業から内需・サービス業中心に変化し、在庫サイクルより信用サイクルの影響を強く受けている。日銀短観中小企業貸出態度DIは、信用サイクルとして、雇用の拡大を牽引するサービス業の動向を表し、失業率に明確に先行する。DIは異次元な金融緩和などでバブル崩壊後の圧倒的な高水準に到達し、信用サイクルは堅調である。ウィルス問題が長引いていることが下押しリスクだが、政府・日銀は流動性対策を既に大幅に拡充してきた。DIは高水準を維持し、信用サイクルは腰折れず、景気が回復のないL字型となるのは回避され、ワクチン接種が進む中で、緩やかなU字型の回復につながってきている。ウィルス問題の終息後に企業活動は再活性化し、失業率が2%台前半に低下する中で賃金上昇が強くなり、内需は強く拡大するだろう。2022年度にはウィルス問題で労働市場から退出していた労働者が、デジタル環境の拡充を含めた就業環境の改善で戻るだろう。企業の労働者需要は旺盛で順調に雇用され、総賃金もしっかり拡大するだろう。デジタル技術革新は労働生産性向上の力になり、実質所得を増加させるだろう。

図2:信用サイクル(日銀短観中小企業貸出態度DI)と失業率

信用サイクル(日銀短観中小企業貸出態度DI)と失業率
(画像=総務省、日銀 作成:岡三証券)

企業—設備投資サイクルが強くなり景気回復はV字型に進展

異常なプラスの企業貯蓄率が示す弱い企業活動が、総需要を破壊する力として内需低迷とデフレの長期化の原因となってきた。ウィルス問題で業績が悪化している飲食・宿泊などの設備投資は極めて弱い。一方、第四次産業革命、デジタル・トランスフォーメーション、脱炭素などの投資テーマがあり、設備投資サイクルは腰折れなかった。堅調な信用サイクルと合わせ、企業貯蓄率の上昇による総需要の破壊の力は強くならなかった。労働需給逼迫などによる生産性と収益率の向上の必要性、第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発、そしてウィルス問題後の新常態への適応などの投資テーマは広がりがある。設備投資サイクルを示す実質設備投資のGDP比率はバブル崩壊後初めて17%弱の強固な天井を打ち破り、企業の成長・インフレ期待が上振れ始めたことを示すだろう。2022年度には、企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、経済対策の効果と合わせて、景気回復をU字型からV字型に変えるだろう。企業貯蓄率は低下していき、2023年度にはマイナスとなり、総需要を破壊する力がなくなることでデフレ脱却の条件が整うだろう。外需の弱さに対して内需は強く、貯蓄・投資バランスとして、国際経常収支の黒字額を抑制していくだろう。

図3:設備投資サイクル(実質設備投資GDP比)と企業貯蓄率

設備投資サイクル(実質設備投資GDP比)と企業貯蓄率
(画像=内閣府、日銀 作成:岡三証券)

表:日本経済見通し

日本経済見通し
(画像=内閣府、総務省、日銀 作成:岡三証券)

田キャノンの政策ウォッチ:

8日、日銀の雨宮副総裁は、新型コロナウィルス感染への警戒感から対面型サービス業を中心に経済活動がコロナ前と比べて低めで推移する蓋然性が高いと述べた。6月の決定会合で、9月末に期限となる新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラムで延長される可能性がある。

また、報道によれば政府は18日に決定する骨太方針で、2025年度までにプライマリーバランスを黒字化する目標を堅持する模様。実際に政府が財政拡張路線を採らなければ、ネットの資金需要は縮小していく可能性が高くなる。

岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来