(本記事は、山端 康幸氏の著書『アパート・マンション経営は株式会社ではじめなさい』=あさ出版、2021年6月17日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

税務調査はどのようにして行われるか

税務調査でチェックされるポイントとは?
(画像=Georgeta/stock.adobe.com)

所得税、法人税、相続税などの国税は、納税者自身が税務署へ所得と税額を計算し、申告と納税をする申告納税制度が採られています。したがって、その申告内容や税額計算の誤り、または悪質な納税者による不正申告や不当に納税を免れる事実を確認するため、国税当局の職員が、納税者の申告内容を、帳簿や取引実態を調査することによって、その誤りを正す必要があります。これを「税務調査」といいます。

◆税務調査の方式

税務調査の調査対象者は不正申告者だけとはかぎりません。業種別平均値を逸脱した数字を出している企業に対するものや、年度別に特定の業種や業態別に集中的に行われたり、注目業種のデータ収集のために行われたり、目的はいろいろあるようです。一般的に、赤字企業は税務調査が少ないといわれてはいますが、必ずしもないとはいいきれません。

主な税務調査の方式を紹介しましょう。

①強制調査

いわゆるマルサといわれている国税局による強制調査です。裁判所の令状を持って行われ、この強制調査は明らかな不正申告、脱税者の摘発を目的としています。適正な申告をしている一般企業に行われることはありません。

②任意調査

税務調査のほとんどが任意調査です。事前に調査の日、調査の目的、税目(法人税、消費税など)を告げ(顧問税理士がいる場合は税理士に先に告知)納税者の了解を取ります。ただし税務調査を拒否したり、調査時の質問に黙秘や返答拒否をしたりはできません。この権限を「質問検査権」といい、税務職員はかなり強い権限を持っています。

【イ】国税局調査
国税局とは、各地にある税務署の上部機関です。仙台、東京、名古屋など11局があります。比較的大きな企業や税務署管轄が複数に及ぶなど税務署単独では調査が難しい企業等を扱います。職員も優秀な人員が選抜され、資料収集能力にも優れており、調査期間も長く、税務署による調査より厳しい調査が行われます。

【ロ】税務署調査
税務調査のほとんどは管轄の税務署が行います。一般的に税務署員1~2名で行われますが、規模により数名で行われることもあります。調査期間も1~2日が多く、調査中に重大な不正が発見されない限り短期で終了します。税務署の調査部門は業種別に分かれており、不動産業の調査は不動産業専門の部署の調査官が来ます。

③抜き打ち調査

事前の通知なく、いきなり会社に来て行われる調査です。通常は通知があり任意で行われるのですが、現金商売や不正申告の多い業種、取引隠蔽の可能性が高いと判断した場合に例外的に抜き打ちで行われます。まじめに申告をしていても現金売上・現金仕入が多い業種は要注意です。

会社に顧問税理士がいる場合、税理士は税務申告書に「税務権限代理証書」という納税者の代理人である証明書類を添付して提出します。税務署はこの書類の添付がある会社の調査時には、納税者の前に税理士に税務調査の通知をしなければなりません。そして、税理士はこの通知により納税者と打ち合わせのうえ税務調査の日・時間・場所を決めることになります。

税務調査には通常税理士が立ち会います。税務申告書にある計算の根拠などに答弁するためですが、一番の役割は納税者の不安が解消されるということでしょう。税務署員が不動産専門の部署から来ることを考えると、やはりこちら側の顧問税理士も不動産専門の税理士が望ましいといえます。

◆税務調査後の対応

①申告是認

税務調査によって、納税者の申告内容に間違いがなかった場合、納税者に「調査結果についてのお知らせ」という書面が送付されます。申告の誤りなどには至らないものの、今後の申告や帳簿書類等に指導事項があるときはその旨の説明のあとに、税務調査の終了が伝えられます。

②修正申告

申告内容に間違いがあり、追加に納税をしなければならないときは修正申告書を提出します。納税者に申告の誤りの内容などについて、担当職員より説明があったうえで、「修正申告等について」という書面が用いられ、申告内容の誤りを是正するよう指摘されます。この指摘に基づき修正申告書を提出します。同時に追加の納税もします。修正申告では、追加納税にかかる加算税(過少申告加算税)と延滞税がかかります。

③更正・決定

納税者が指摘された事項に不服があり、修正申告書を提出しない場合等に、税務署長が職権で通知する処分を「更正」「決定」といいます。更正は、申告があった場合に税務署等が行う処分で、決定は申告がなかった場合に税務署等が行う処分です。その際、納税者あてに「更正通知書」または「決定通知書」が送付されます。納税者はこの処分に不服であれば、税務署長あての不服申立て、異議申立てを、却下されたら国税不服審判所に審査請求をすることができます。ただし、これらの申し立ての結論が出るまで延滞税という利息相当の税金が生じます。

④過大納税

税務調査の結果は、必ずしも申告是認とか修正申告とはかぎりません。申告のミスによって、過大な納税をしていることが判明することもあります。この場合も税務署は申告内容を更正のうえ、税金を返還する手続きを行います。

不動産管理会社の税務調査のポイント

不動産管理業・不動産賃貸業は比較的入出金が明確で、不正が少ない業種です。そのため、税務署でも要注意業種とは扱われていません。しかし、税務調査を受ける確率は法人が6~7%といわれているなか、実際には休眠会社も多いため、通常営業している会社の調査率はもっと高いといえます。会社であれば、5~7年に一度ぐらいは、税務調査があると思わなければなりません。

主に同族会社の税務調査について、そのポイントを紹介しましょう。

◆不動産管理専門会社のポイントはココ

一番の調査ポイントは管理手数料です。同族会社の場合、個人の所得圧縮の目的で管理手数料を高めに設定している事例もあるため、その手数料率がまずいちばんに見られます。家賃収入に対する管理料の割合は、通常家賃収入の5~8%が適正といわれます。管理状態が調査され、管理の実態が少なければそれ以下の率に是正の指摘を受けることになります。

他のポイントは、下記の表の通りです。

税務調査でチェックされるポイントとは?
(画像=『アパート・マンション経営は株式会社ではじめなさい』より)

◆サブリース会社のポイントはココ

サブリース会社も管理専門会社と同様に、サブリースの利益率がポイントです。テナント家賃とオーナー支払い家賃の差10~15%が目安です。他の税務調査のポイントは不動産管理専門会社と同じです。

◆建物所有会社のポイントはココ

建物所有会社は自己所有の建物賃貸のため、管理料やサブリース利益率などは問題になりません。しかし、土地所有者が同族関係者のため不動産管理専門会社の税務調査のポイントに加えて次の項目に注意が必要です。

●ポイント

税務署員がチェックするポイントは、上記の表を確認。

●対策

建物売買契約が適正か?建物価格の算定が適正か?→適正な評価により売買することが重要(第6章参照)。

土地無償返還届出書の確認→地代が適正か?通常地代方式だと固定資産税の2~3倍の地代が支払われているか?などに注意。

◆土地建物所有会社のポイントはココ

地代の問題以外は、建物所有会社と同様です。

アパート・マンション経営は株式会社ではじめなさい
山端 康幸
税理士法人東京シティ税理士事務所 所長。税理士。
土地活用や相続税対策に関する不動産税務を専門とする。
不動産税務専門税理士として40 年の経験を有する。
クライアントもアパート・マンション経営者が多く長期的な資産活用の税務コンサルタントを業務としている。
明治大学リバティアカデミー講師・全国宅地建物取引業協会講師・不動産コンサルティング協議会講師・賃貸不動産経営管理士協議会講師などを歴任、その他新聞社など主催のセミナーを数多く行う。

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