シンカー:財による生産の回復で油断をしていると、サービス消費の低迷で、回復が喪失するリスクがある。新型コロナウィルスの感染拡大で、これまで景気回復モメンタムを引っ張ってきた財の動きが、サービスに引き継がれる見通しはまだ立たない。景気回復モメンタムが衰えれば、体力を失いつつある企業が雇用削減などのリストラに走り、景気の急激な悪化につながるリスクがある。緊急事態宣言も延長され、解除の見通しはまだ立たない。経済活動を底割れさせず、新型コロナウィルス問題が小さくなるとともに景気回復が強くなる構図を維持するため、家計と企業を支援する政府の経済対策をすぐにでも実施する必要が出てきていると考える。求心力が衰えている菅内閣が国民の支持をつなぎとめるためにも、国民に寄り添う大規模な経済対策が必要になってきている。9月29日の自民党総裁選で菅首相が再任され、自民党執行部の人事刷新を経て、新たな経済対策を発表し、通例で衆議院の任期内の10月17日に衆議院選挙で連立与党が過半数の議席を確保、新内閣の発足後、臨時国会で補正予算を成立させる順になるだろう。経済対策と自民党執行部の人事刷新という総裁選に立候補を表明した岸田前政調会長の意見が丸呑みされた形となった。財政緊縮から拡大路線に転身した岸田氏の後ろには、細田派と麻生派などのリフレ派の動きが見える。自民党内の主導権が、これまでの主流派のミクロ政策から、リフレ派のマクロ政策に再び移っていく可能性がある。総裁選前に自民党執行部の人事刷新、衆議院選挙前に内閣改造となった場合、リフレ派が多く採用されることになり、勢力の変化がより見え、経済対策はより大きくなるだろう。財政政策はこれまでの緊縮路線から拡大路線に向かっていくことになるだろう。これまでの緊縮路線は新型コロナウィルスとの戦いで所得環境の悪化に苦しむ国民からの支持を失ったとみる。政府が懐事情の厳しさを強調すればするほど、それ以上に厳しい懐事情の国民に寄り添っていないと感じるからだ。国民への支援を「ばらまき」と批判する意見も、新型コロナウィルスとの戦いで安全圏にいる強者の論理だと受け入れられなくなっているだろう。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

7月の鉱工業生産指数は前月比-1.5%と、コンセンサス(同-2.5%%程度)を上回った。6月に同+6.5%と大きく上昇していた。7月にオリンピックがあり、ロジスティックの問題が見込まれ、巣ごもり需要などに対応する作りこみの必要もあり、6月に生産が前倒しされた分、7月には反動が出たとみられる。6月には在庫指数が同+2.1%と上昇していたが、7月は同-0.6%と低下している。7月の実質輸出は同+1.7%と増加しており、国内の特殊な動きに左右された減産だとみられる。心配なのは自動車工業の生産の動きだ。半導体不足の影響で自動車工業の生産は5月に同-19.4%と弱く、6月には同+22.6%とリバウンドしていた。新興国で新型コロナウィルスの感染拡大が深刻となり、ロックダウンが工場の操業を止め、部品の問題が半導体から広がってしまっている。7月には自動車工業の生産は同-3.1%と再び減少してしまった。自動車工業の在庫指数は同-13.5%と大きく低下し、生産の停滞を在庫の取り崩して補っている。

8・9月の経済産業省予測指数は同+3.4%・1.0%と、上昇が続く予想になっている。資本財の生産計画が好調だ。一方、サプライチェーンの問題が早期に解消に向かわなければ、生産の増加モメンタムがなくなってしまうリスクがある。8月には自動車を含む輸送機械工業は同-7.3%の減産が予想されている。新型コロナウィルスの感染拡大で、これまで景気回復モメンタムを引っ張ってきた財の動きが、サービスに引き継がれる見通しはまだ立たない。財による生産の回復で油断をしていると、サービス消費の低迷で、回復が喪失するリスクがある。海外の消費者心理に悪化の兆候もあり、好調であった輸出の動きにも警戒感が出てきている。既にマーケットが織り込んでいるFEDのテーパリングの開始と進捗が大幅に遅れるようなことになれば、大きな円高の動きが生まれる可能性もだる。景気回復モメンタムが衰えれば、体力を失いつつある企業が雇用削減などのリストラに走り、景気の急激な悪化につながるリスクがある。緊急事態宣言も延長され、解除の見通しはまだ立たない。経済活動を底割れさせず、新型コロナウィルス問題が小さくなるとともに景気回復が強くなる構図を維持するため、家計と企業を支援する政府の経済対策をすぐにでも実施する必要が出てきていると考える。求心力が衰えている菅内閣が国民の支持をつなぎとめるためにも、国民に寄り添う大規模な経済対策が必要になってきている。

鉱工業生産指数、予測指数、先行き指数(逆数、1リード)、在庫率指数(逆数)、実質輸出、日銀消費活動指数(1ラグ)、景気ウォッチャーDI、政策金融公庫中小企業貸出態度DIを、Zスコア((当月データ-36か月移動平均)/36か月標準偏差)をとり、生産は1、予測指数は0.75、先行き指数は0.25、日銀消費活動指数は2、その他は1のウェイトの過重平均をとり、生産動向指数を作る。7月の生産動向指数は-0.1となり、6月から変化がなく、トレンドとしては改善の動きが弱くなってきている。7月の3カ月移動平均も6月の-0.2から変化はなかった。生産動向が強い時には、指数は1を上回ることを考えれば、まだ本格的な回復局面には至っていない。新型コロナウィルスの感染拡大により、部品の供給制約の解消やサービス消費の回復が大幅に遅れれば、景気回復モメンタムが一気に衰えるリスクがまだある。特に、政策金融公庫中小企業貸出態度DIはじりじり弱くなってきており、企業の体力が徐々に衰えている姿が見える。

9月29日の自民党総裁選で菅首相が再任され、自民党執行部の人事刷新を経て、新たな経済対策を発表し、10月17日に衆議院選挙で連立与党が過半数の議席を確保、新内閣発足後、臨時国会で補正予算を成立させる順になるだろう。経済対策と自民党執行部の人事刷新という総裁選に立候補を表明した岸田前政調会長の意見が丸呑みされた形となった。財政緊縮から拡大路線に転身した岸田氏の後ろには、細田派と麻生派などのリフレ派の動きが見える。自民党内の主導権が、これまでの主流派のミクロ政策から、リフレ派のマクロ政策に移っていく可能性がある。総裁選前に自民党執行部の人事刷新、衆議院選挙前に内閣改造となった場合、リフレ派が多く採用されることになり、勢力の変化がより見えるだろう。財政政策はこれまでの緊縮路線から拡大路線に向かっていくことになるだろう。これまでの緊縮路線は新型コロナウィルスとの戦いで所得環境の悪化に苦しむ国民からの支持を失ったとみる。政府が懐事情の厳しさを強調すればするほど、それ以上に厳しい懐事情の国民に寄り添っていないと感じるからだ。国民への支援を「ばらまき」と批判する意見も、新型コロナウィルスとの戦いで安全圏にいる強者の論理だと受け入れられなくなっているだろう。

図:生産動向指数

生産動向指数
(画像=岡三証券)

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来