シンカー:コア消費者物価指数の前年同月比は0.0%でまだ停滞感があるが、物価上昇圧力は着実に蓄積されてきていると考える。4月の携帯電話通信料の大幅な引き下げがあったことを除けば、1月からコア消費者物価指数は+0.9%上昇している。物価・賃金・マネー関連の指標をまとめて物価動向指数を作る。全国と東京のコア消費者物価指数、企業物価指数、企業向けサービス価格指数、新規求人倍率、毎月勤労統計現金給与総額、広義流動性、マネタリーベースを、Zスコアをとり、平均をとる。物価動向指数は2021年8月には0.7となり、2020年5月の−0.1を底に持ち直している。マイナスがトレンドを下回ることを意味するため、物価が下落トレンドとなることは防がれたようだ。2021年は0.7前後で持ち直しの動きに一服感はあるが、携帯電話通信料の引き下げなどの特殊要因が重しとなっている。企業向けの物価とマネーの指標は強く、賃金の指標も下げ止まっているため、新型コロナウィルス問題が小さくなって経済活動が回復するとともに、物価動向指数は徐々に再上昇が始まることになるとみる。コア消費者物価指数が示すより物価トレンドは堅調である。来年の4月以降は物価動向指数は1を上回り、物価上昇圧力をマーケットも感じることになるだろう。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

8月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比0.0%と、13か月ぶりに下落がとまった。8月は緊急事態宣言下にあり、夏休みの旅行関連の価格が例年通り上昇することはなく、コアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)は季節調整済前月比で−0.3%となった。一方、エネルギー価格が上昇し、コア消費者物価指数は同−0.1%と下落幅が小さかった。4月の携帯電話通信料の大幅な引き下げがあったことを除けば、1月からコア消費者物価指数は+0.9%上昇している。コア消費者物価指数の前年同月比はまだ停滞感があるが、物価上昇圧力は着実に蓄積されてきていると考える。

新型コロナウィルス問題の長期化で、値下げで需要喚起ができるほどの企業の体力はなくなってきており、供給の減退もあり、コア消費者物価は落ちにくくなっているとみられる。企業が供給制約を意識することで、シェアではなく収益を最大化するため、値上げと販売数量の減少のバランスをみる価格弾力性をより重要視することになりそうだ。価格弾力性が低下しているとの認識は、コストの増加分の価格転嫁を進めるとともに、需要の回復にともなう値上げの可能性につながる。新型コロナウィルス問題による経済活動の下押しが緩和され、携帯電話通信料の引き下げの影響がなくなる来年4月には、前年同月比は+1%近くまで上昇しているだろう。

物価・賃金・マネー関連の指標をまとめて物価動向指数を作る。全国と東京のコア消費者物価指数、企業物価指数、企業向けサービス価格指数(1ラグ)、新規求人倍率(1ラグ)、毎月勤労統計現金給与総額(1ラグ)、広義流動性、マネタリーベースを、Zスコア((当月データ−36か月移動平均)/36か月標準偏差)をとり、平均をとる。物価動向指数は2021年8月には0.7となり、2020年5月の−0.1を底に持ち直している。マイナスがトレンドを下回ることを意味するため、物価が下落トレンドとなることは防がれたようだ。コア消費者物価指数が示すより物価の基調は堅調である。2021年は0.7前後で持ち直しの動きに一服感はあるが、携帯電話通信料の引き下げなどの特殊要因が重しとなっている。企業向けの物価とマネーの指標は強く、賃金の指標も下げ止まっているため、新型コロナウィルス問題が小さくなって経済活動が回復するとともに、物価動向指数は徐々に再上昇が始まることになるとみる。コア消費者物価指数が示すより物価トレンドは堅調である。来年の4月以降は物価動向指数は1を上回り、物価上昇圧力をマーケットも感じることになるだろう。

図1:物価動向指数

物価動向指数
(画像=内閣府、日銀、岡三証券、Refinitiv 、岡三証券 作成:岡三証券)

図2:物価動向指数の各構成要素のZスコア

物価動向指数の各構成要素のZスコア
(画像=内閣府、日銀、岡三証券、Refinitiv 、岡三証券 作成:岡三証券)

図3:物価動向指数の各構成要素のZスコア

物価動向指数の各構成要素のZスコア
(画像=内閣府、日銀、岡三証券、Refinitiv 、岡三証券 作成:岡三証券)

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来