いまや中国ではすっかり定着した「独身の日」ネット通販セールは、毎年11月11日に行われている。年々セールの規模が拡大し、消費者の買い物欲が爆発する日となった。この記事では、独身の日の経済インパクトを探る。

目次

  1. 中国の「独身の日」セールの基礎知識
  2. 世界各国の企業も、越境ECサイトなどを通じて製品を販売
  3. 売上高の推移、アリババ集団は10年間で530倍に
  4. 独身の日セールの売上高の伸びから見えることとは?
  5. コロナ禍が収束していない2021年も売上は拡大か
  6. 店舗型ビジネスを展開する企業にとっては脅威
  7. 引き続き市場規模が拡大するのはほぼ確実?

中国の「独身の日」セールの基礎知識

中国において11月11日は「光棍節(こうこんせつ)」と呼ばれている。「光棍」にはさまざまな意味があるが、中国語のスラングには「独身者」の意味がある。11月11日はシングルを意味する「1」が4つ並ぶ日であることから、「独身の日」「独身者の日」として認識されるようになった。

独身の日のイベントは、南京大学の寮に住んでいた学生たちが1993年に始めたのがきっかけといわれている。現在のようなネット通販セールが行われる前は、独身者が参加するパーティーが開催されたり、恋人を探す催しが行われたりしていた。

昨今は独身の日に合わせて贈り物をする習慣も定着している。ここに目をつけたのが、中国EC(電子商取引)最大手の「アリババ集団」だ。独身者にネット通販を楽しんでもらおうと、2009年に独身の日に合わせたセールを始めた。

このアリババの、独身の日に合わせたセールは中国全土で大きな注目を集め、2009年は0.52億元(約8億8,000万円)だった売上高は、2010年には9.36億元(約159億2,000万円)と急増。その後も右肩上がりを続けている。

こうしたアリババの状況を見て、中国におけるEC企業のライバルたちも独身の日のセールを独自に開催。「京東集団(JDドットコム)」も2020年は過去最高の取引額を記録している。中国の独身の日は、EC各社がオンラインセールを行う日として定着したようだ。

ちなみに独身の日のセールは、従来は11月11日だけだったが、アリババは2020年に11月1〜3日と11日の4日間開催している。

世界各国の企業も、越境ECサイトなどを通じて製品を販売

独身の日のネット通販セールはECサイト中心に行われている。世界各国の電機メーカーや消費財メーカーの製品も、ECサイトや越境ECサイトを通じて販売される。

例えば2020年の独身の日のセールでは、アリババのECプラットフォームで「ヤーマン」「Aptamil」「Swisse」「花王」「資生堂」「A.H.C」「SmoothSkin」「a 2」「Bio Island」「Emporio Armani」などの輸入ブランドがよく売れたという。

ちなみに、独身の日は、消費財メーカーが自社ECサイトでの販売に力を入れる日というわけではない。もちろん自社ECサイトで各社がセールをするのは自由だ。しかし、自社ECサイトの集客力が弱ければセールを実施しても売上は伸びない。

そのため中国以外のブランドの場合、基本的には中国の越境ECサイトを通じて独身の日のセールに参加する。中国で売上規模が大きな越境ECサイトには、アリババ系の「Tmall Global(天猫国際)」や「Kaola(考拉海購)」などが挙げられる。

売上高の推移、アリババ集団は10年間で530倍に

セールはEC各社が独自に実施しているため、全体の売上高の推移を算出するのは難しいが、アリババ単体での売上高は以下のように推移している。

<アリババの独身の日のセールにおける売上高の推移>

売上高(元ベース) 売上高(円ベース)
2009年 0.52億元 8億8,000万円
2010年 9.36億元 159億2,000万円
2011年 33.6億元 571億5,000万円
2012年 191億元 3,248億9,000万円
2013年 350億元 5,953億5,000万円
2014年 571億元 9,712億7,000万円
2015年 912億元 1兆5,513億1,000万円
2016年 1,207億元 2兆531億円
2017年 1,682億元 2兆8,610億8,000万円
2018年 2,135億元 3兆6,316億3,000万円
2019年 2,684億元 4兆5,654億8,000万円
2020年 4,982億元 8兆4,743億8,000万円
※1元=17.01円(2021年9月17日のレート)で換算/円ベースの金額は1,000万円未満切り捨て

2010年と2020年の売上高を比べてみると、実に売上高は約530倍となっている。またアリババは、セール期間中のピーク時の注文処理件数も公表しており、2010年は1秒間で1,000件程度だったが、2020年は1秒間で58万3,000件だったという。10年間で583倍になった計算だ。

これらの数字から、いかに独身の日のオンラインセールの規模が拡大しているかがよくわかる。

独身の日セールの売上高の伸びから見えることとは?

独身の日の売上高の伸びを見れば、中国でネット通販がかなり早いスピードで定着してきたことがわかるだろう。アリババ単体で見ると、2009〜2012年ごろにかけて急速に伸びている。最近は伸びが鈍化しているが、それでも右肩上がりであることに変わりない。

また、最近ではライブ動画を活用して商品を売る「ライブコマース」も流行り始めている。独身の日の売上高の伸びに寄与していることも特筆すべき点だ。ライブコマースは、来店しなければ満たされなかった消費者のニーズにライブ配信で応えているところにポイントがある。

例えば衣類であれば、「ライブ配信者がさまざまな服とコーディネートする」「生地の質感などを実況する」といった具合だ。ライブコマースは、従来の人々の「来店型」の買い物文化を大きく変えようとしている。

ただし、中国政府は民間企業が極端に国内で影響力を持つことや、文化を変えるまでのトレンドを生み出すことを嫌う。近年、中国政府が国内企業に対する締め付けを強化していることを考えると、独身の日のセールやライブコマースに対しても、何らかの規制が入る可能性がある。

コロナ禍が収束していない2021年も売上は拡大か

2021年もまた独身の日のセールが行われる。中国ではコロナ禍がほぼ封じ込められたかに見えたが、最近では感染者数がにわかに増加しつつあるため、非対面で買い物ができる独身の日のセールの売上高は、今年も右肩上がりの状況が続くとみられている。

店舗型ビジネスを展開する企業にとっては脅威

独身の日のネット通販セールは店舗型ビジネスを行う企業にとっては脅威となっている。1年という期間を考えれば瞬間的ともいえる独身の日だが、ネット通販を利用する人が増えていくことで、実店舗で買い物をする人は減っていくだろう。ネット通販の隆盛は店舗型ビジネスに大きな打撃を与える。

最近ではアリババのライバルである京東集団が創業日の6月18日に合わせて実施している「6.18セール」も中国国内で定着。実店舗型のビジネスを展開する企業の厳しさは今後も増す一方となりそうだ。

引き続き市場規模が拡大するのはほぼ確実?

中国の独身の日のネット通販セールについて包括的に解説してきた。ECはまだまだ成長領域であり、引き続き市場規模が拡大し続けるのはほぼ確実と言っていいだろう。

まずは今年2021年の独身の日のセールで、アリババがどこまで売上高を伸ばすのか、注目したい。

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