カンブリア宮殿,日清食品ホールディング
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「カレーメシ」販売1億食~ヒット連発3代目に密着

お湯を注いで5分、かき混ぜるだけであっという間に完成する日清食品の「カレーメシ」。2014年に発売されると、ユニークな広告戦略もあって人気に火がつき、今や定番商品に。去年12月には累計販売数1億食を突破。「麺の日清」がヒットさせた米の商品だ。

今では米の商品は10種類以上。「ハヤシメシ」は玉ねぎとトマトの旨みたっぷりのデミグラスソースが自慢。「阿夫利メシ」は唐辛子と柚子の酸味ある辛さが病み付き必至だ。

東京・新宿区にある日清食品東京本社を訪ねると、お米のチームが次なる商品開発の真っ只中だった。メンバーはたったの5人だ。

「日清食品唯一の“お米”専門チームとなっています」(ブランドマネージャー・土岡洋平)

そんな5人で考え出した次のヒットを狙う新商品が、初めて女性をターゲットにした「オシャーメシ」だ。

「女性はお昼にはカップスープとおにぎり1個、みたいな量を召し上がるので、女性にぴったりなサイズになっていると思います」(マーケティング部・斉藤あかね)

実は即席のご飯は、これまで日清では鬼門とも言えるジャンルだった。創業者の安藤百福は、「カップヌードル」発売の4年後、お湯でご飯を戻す即席ご飯「カップライス」を世に問うていた。次なる宝の山と、巨額の資金を投じて挑んだが、まったく売れず、あっという間に撤退した。

その後、2代目である安藤宏基(現日清食品ホールディングスCEO)の時代にも何度となく即席ご飯にチャレンジする。だが、ヒット商品にはならず、撤退し続けた。

そんな苦い歴史に終止符を打ったのが日清食品社長の安藤徳隆(44歳)。百福の孫で創業家3代目にあたる。日清食品ホールディングスの傘下で、「カップヌードル」「どん兵衛」「カレーメシ」などを管轄する最大の事業会社を任されている。

2015年に社長に就任すると、「カップヌードル」を4年連続で過去最高売り上げに導き、お米の事業も軌道に乗せてみせた。

この日は新商品「オシャーメシ」のCMに関するミーティングが開かれた。安藤とともにカレーメシを手がけてきたのは、「ユニクロ」などのブランド戦略で知られるクリエイティブディレクターの佐藤可士和だ。

安藤は常に消費者をつかむ新たな表現はないかと考えている。そんな安藤を、佐藤可士和は「今までにない経営者」だと言う。

「やはりクリエイターだと思います。すごく新しいタイプの経営者で、イノベーションとか破壊的創造とか、新しいことを常にやりたいと思っている。新しい食の未来をつくっていかなければならないという使命感がある。一緒に考えていけるのはすごくエキサイティングです」(佐藤可士和)

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カロリー&糖質50%オフ~おいしい完全栄養食とは

カンブリア宮殿,日清食品ホールディング
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安藤が今年5月、驚くべき新プロジェクトを発表した。挑むのは完全栄養食だ。

完全栄養食とは、カロリーや糖質などをコントロール。さらに、健康維持に必要な33種類の栄養素をバランスよく全て摂取できる料理のこと。安藤は、見た目や味は普段の料理のままで、完全栄養食を実現したいと考えていた。

「病院食っぽい、ちょっと物足りない完全栄養食は世の中にたくさんありますが、健全な人にも見た目がすごくおいしそうで、ボリュームもしっかりあって、気兼ねなく毎日食べて全部コントロールできる。夢のような食事を作りたいと思って」(安藤)

この日はマルゲリータピザを試食した安藤だが、「生地感はすごく良くなっているけど、まだソースが甘い」と感想を述べた。見た目や味を変えずにカロリーや栄養バランスをコントロールするのは、非常に難しいのだという。

その難問をクリアする秘密が、東京・八王子市にある日清食品グループ研究開発拠点「the WAVE」にある。おいしくて安全な食品をつくるため、日清が長年培ってきた食品の加工技術を完全栄養食に応用できるのだという。

例えば「栄養ホールドプレス製法」。実はビタミンやミネラルなどの栄養素には、苦みやエグ味がある。

「麺の中に栄養素を閉じ込めて、苦みやえぐみを感じさせやすいものを中に閉じ込めることで味を感じにくくする。この『とじ込める技術』を応用してメニュー開発を行っています」(グローバルイノベーション研究センター・小川史恭)

7月下旬、完全栄養食の味をチェックしてもらうため、日清食品に人気の日本料理店「くろぎ」のオーナーシェフ・黒木純さんが招かれていた。出されたのは、日清が「美味しい完全栄養食」として発売を目指すナポリタン。ボリュームがあるのに490キロカロリーに抑えた一方、普通のナポリタンでは取りにくい栄養素も全て摂ることができる。

「最初に目指していた昔ながらの味がよく出ていますね。満足感があります」(黒木さん)」

すでに300ものメニューを開発中だ。

安藤はなぜ完全栄養食に挑んでいるのか。慶應義塾大学医学部でプロジェクトへの協力を引き受けてくれたのが伊藤裕教授と金井隆典教授だ。

「摂生しなさいと言っても、おいしいものは大抵栄養バランスが悪いんです。どうバランスをとりながら食を設計していくか。面白い領域だと思っています」(金井教授)

安藤は、おいしい完全栄養食を開発することで、人々の日々の食生活を改善。肥満などから引き起こされるさまざまな病気を未然に防ぎたいと考えていた。

「毎日食べられるものであることが大事。食べ続けられる完全栄養食で、病気にならず健康でいられるということになるのではないかと思います」(伊藤教授)

「本当にうまくて体にいいものを作りたいと仰っている。食品メーカーが、病気ではない未病の段階で健康に重要なプロジェクトを始めたのは大きな意味がある。最初に聞いた時はびっくりしました。チャレンジングだなと。一代一代チャレンジングなことをやるのが安藤さんの家系なのかもしれない。応援していきたいと思います」(金井教授)

岡山・岡山市で地元の両備グループが手がける「杜の街グレース」の開発現場。オフィスやマンション、商業施設が一体となり、温泉、フィットネスジム、フードコートまでそろえようというプロジェクトだ。2022年7月に商業施設がオープンすると、1日1万人の来場者が見込まれる。

安藤はこの施設で完全栄養食を提供できないかと考えており、両備ホールディングスの松田敏之社長を訪ねた。持参したのは、おいしさに磨きをかけたハンバーガーセットだ。

「健康食には見えないですね」と松田社長。見た目はボリュームたっぷりだが、カロリー半分で栄養もバッチリ。松田社長も前向きになっていた。

「自然の温泉に入り、運動して、おいしい完全栄養食も食べて未病対策になるなら、そんなまちづくりが提供できてうれしく思っています」(松田社長)

まずはオフィスで働く人向けの食堂で、来年1月から完全栄養食を提供することが決まった。

「街に住む人に将来的には24時間、完全栄養食をサービスできる仕組みをつくって、未病対策がどんどん進む街をつくっていく」(安藤)

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2代目はダース・ベイダー?~創業家3代の壮絶バトル

安藤が3年前に作った日清食品の社史。だが、その中身は漫画だった。「こんな社史は世界にないかなと思って」と安藤。そこには驚くべき日清の歴史が描かれていた。なぜか「『カップヌードル』をぶっつぶせ!」という男が登場。安藤の父、宏基だという。

「僕はダース・ベイダー。最悪だよ(笑)。『これが構成上はいいんだ』と、あいつ(徳隆)がしつこく言うもんだから」(宏基)

横浜市みなとみらいにある「カップヌードルミュージアム横浜」。その一角に再現されているのが、安藤百福が世界初のインスタント麺・チキンラーメンを開発した小屋だ。

47歳だった1957年、理事長をしていた信用組合が破綻。全財産を失った百福は、誰でも簡単に食べられるおいしいラーメンの開発に没頭する。

その光景をはっきり憶えている人物が百福の息子・宏基だ。百福は、当時小学生だった宏基に麺の開発を手伝わせたという。

「創業者はチキンラーメンを朝早くから夜遅くまで一生懸命作っていました。手伝わざるを得なくて、味をつけてみたり、蒸してみたり、フライにしてみたり、いろいろやって全部失敗、麺の山になっちゃう。見ていて『無駄だな。こんなことをやっていて親父大丈夫か』という心配も半ばありました」(宏基)

だが、1958年にチキンラーメンを発売するや、手軽に食べられると爆発的ヒットに。さらに百福はその後、カップヌードルを開発。日清食品は巨大企業へと駆け上がった。

しかし、そこに危機感を持ったのが、20代となり日清に入社した宏基だった。

「カップヌードルだけ売れば営業の成績が上がった時代でしたから。でも時代と共に商品は変わっていく。だからいつまでもチャレンジャーでないといけない」(宏基)

宏基は「どん兵衛」や「U.F.O.」など、カップヌードルの競合ともなる商品を次々に開発、日清を飛躍的に成長させた。

「どんぶりならうどんの『どん』で『どん兵衛』、皿形なら飛ばすとフリスピーみたいだから『U.F.O.』だと」(宏基)

その時の宏基の宣言が社史に描かれた「カップヌードルをぶっつぶせ!」という言葉だった。

「創業者は怒っていたけど、今は怒ってないと思うよ(笑)」(宏基)

そんな祖父と父の格闘を見つめてきた三代目の安藤が、先人たちの成功を乗り越えるべく挑むのが完全栄養食の事業だ。

安藤がミーティングをしていたのはAIを得意とするベンチャー企業「プリファード・ネットワークス」の西川徹CEOと岡野原大輔COOだ。

「完全栄養食であるレシピを31%以上作れたのは、今後の可能性を示せているのではないかと思います」(西川さん)

栄養バランスの計算をAIにさせることでメニュー作りをスピード化。個人個人に合わせた料理を提供できるという。

「彼らの自動レシピの生成技術を使うと開発の時間短縮になるんです。AIなしでは我々の未来の食のプロジェクトは進まない」(安藤)

屋台骨をぶっつぶす。創業家たちのその迫力こそが日清の強さなのだ。

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3代目のオフィス大改革~株価連動の社食とは?

安藤はオフィスも大胆にリニューアルした。入り口には部署ごとに顔写真が貼ってある。社員同士が声をかけやすくする工夫だ。オフィスの中はなぜか鉄パイプがむき出しになっており、工事現場のよう。とても大企業とは思えない、手作り感に溢れた空間だ。

「創業者は小さな倉庫からイノベーションを起こしたので、ガレージのような雑多な空間を作って、もう一回原点に戻ってイノベーティブマインドをあおるオフィスを作りたいなと思って」(安藤)

毎月、部署の位置を変え、いろいろな社員と顔を合わせられるようにしている。

「こういう工事現場みたい感じなので、自分がどこにいるかよく分からなくなるんです。『だいたい金色のゴリラの所』とかで待ち合わせする。少し目印になるような雑貨を置いていこうと思っています」(安藤)

あるデスクにはピンクのうさぎが。安藤がこだわったのは仕事を楽しめるオフィスだ。

「『ラ王』の担当です」と、社員が取り出したのはカップラーメンの写真が載ったカード。裏には名前や連絡先が書いてある。それぞれ担当する商品を印刷した名刺を作っている。「名刺の裏側で商談のオープニングトークにつながるので、デザインになっているのは非常にいいと思います」と言う。

別の社員は、「純豆腐スンドゥブチゲ」の担当。「「可愛いですね」と言ってもらえることがすごく多くて、話を振ってもらえることが多くて助かっています」と言う。

今ではそんな楽しい名刺が24種類になった。

社員食堂も作り変えた。名前はカフェテリアならぬ「カブテリア」。壁にはディスプレイがあり、日清食品の株価がリアルタイムで表示されるようになっている。

「当時、みんなに聞いても株価を答えられる社員があまりいなかった。ゲーム性、面白さを持たせて、株価が上がっているか、下がっているか意識してもらえるような、そんな食堂をやってみようと」(安藤)

画面の上には前の月の平均株価が、下には現在の株価が表示されている。普段は大皿料理を楽しめるビュッフェだが、株価が前の月の平均を上回ると、ご褒美として「マグロの解体ショー」などのイベントが。反対に前の月を下回ると、罰として昭和の給食のような料理が登場する。

かっぽう着姿で配膳するのは役員たちだ。ただ食事するだけでなく、仕事のやる気につなげる。それが日清の強さだ。

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~村上龍の編集後記~

創業者の安藤百福氏は日本人が麺が好きなことに気づいた。チキンラーメンが、そして艱難辛苦の末にカップヌードルが生まれた。2代目は、カップヌードルの次の商品を社員から募集した。3代目はついに代わるものを見出したのかも知れない。分子生物学を学んだ徳隆氏は飽きっぽく、ひどいときは新商品の発売前に飽きてしまうらしい。彼が発見したのは食品ではない。食の体系とでもいうべきものだ。完全栄養食。カップヌードルがそのベースとなることも可能だ。

<出演者略歴>
安藤徳隆(あんどう・のりたか)
1977年、大阪府生まれ。2002年、慶應義塾大学大学院修了、祖父・百福の鞄持ちを3年間務める。2007年、日清食品入社。2015年、日清食品社長就任。2016年、日清食品ホールディングス副社長就任。

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