年間40万円で足りている投資家が多いが

NISA
(画像=PIXTA)

つみたてNISA(少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度)に関しては以前から年間40万円の買付額の上限では少ない、せめて12で割り切れる金額にしてほしいとの要望があった。特に、この秋に岸田新首相が金融所得課税強化を掲げた際に、つみたてNISAの拡充も期待した方も多かったかもしれない。そんな上限引き上げを望む声とは裏腹に、現在のつみたてNISAの利用状況からは年間の買付額の引き上げは必要ないようにも見えるが、果たしてそうなのだろうか。

つみたてNISAの一口座あたりの平均買付額は2018年から年々増加しているが、それでも2020年の買付があった口座のみの平均でも22.5万円と上限の40万円から大きく下回っている【図表1】。2021年も順調に買付が行われているが、半年の全口座平均で7.3万円と2020年から買付が急増している様子は今のところみられない。現在の利用状況からは、年間40万円で足りないどころか持て余している人の方が多いように見えてしまうのである。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

忘れてはいけない併用不可の一般NISAの存在

しかし、つみたてNISAの利用状況は併用不可の一般NISAの存在を考慮する必要がある。年間40万円以上投資したい投資家の多くが、年間120万円まで買付ができる一般NISAを選択していると推測されるためである。つまり、年間40万円で足りないと考えている投資家は、つみたてNISAをそもそも利用していない可能性が高い。

実際に2020年のつみたてNISAと一般NISAの口座数をみても、そのことがうかがえる【図表2】。50歳代までのいわゆる現役世代では、「0円超、40万円以下」買付が行われた口座数を比較すると、つみたてNISAの方が一般NISAよりも多い。買付が40万円以下ならば、つみたてNISAが選ばれていることが分かる。ただ、40・50歳代では40万円超の買付が行われた一般NISAが106万口座と、つみたてNISAで(「0円超、40万円以下」)買付が行われた90万口座より多かったことは見逃せない。

さらに、一般NISAでは20・30歳代、40・50歳代ともに「100万円超」買付が行われた口座数が26万口座、63万口座と「40万円超、100万円以下」の18万口座、41万口座より多かった。一般NISAでは買付の上限は年間120万円とつみたてNISAの3倍であるが、ほぼ上限いっぱいまで買付を行っている投資家が、かなり多いことが分かる。資産形成が進んでいる投資家ほど、一般NISAを選択してフル活用しているのであろう。

このように、資産形成層ともいえる現役世代では自身の投資額に応じて、どちらかしか使えないという制約条件がある中、つみたてNISAと一般NISAを使い分けがされている。資産形成が進んでいる投資家ほど利用しないことが、つみたてNISAの買付額が上限から大きく下回っている要因になっていると思われる。そのため、つみたてNISAの年間40万円上限が適切なのか、再検討すべきと筆者は考えている。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

なお、60歳代以上では「0円超、40万円以下」買付が行われた口座でも一般NISAが70万口座とつみたてNISAの26万口座より3倍近く多かった。60歳代以上では運用期間が20年も必要ないと考える方が多いため、運用期間が5年の一般NISAを利用している人が多いのではないだろうか。

見直しが入りにくい状況であるが期待したい

そもそも、つみたてNISAと一般NISAのどちらか選択しなればならない現在の制度が本当に資産形成層の投資家にとって良い制度になっているのか疑問である。どちらが最適か悩んでいる投資家も多いと思われる。やはり、ゆくゆくはつみたてNISAと一般NISAの統合が行われるべきである。

いずれにしても、つみたてNISAの見直しが行われる際には一般NISAと合わせて議論される可能性が高いと思われるが、一般NISAは2024年からの新制度へ移行する。そんな新制度に移行前、もしくは移行直後から、抜本的な制度の見直しの議論がされるとは考えにくい。それもあり、つみたてNISAを含むNISA制度は当面、大きな変更が行われないのではと筆者は予想している。

残念ながら制度が置かれている状況からは見直しが入りにくいといえるが、今後、金融所得課税強化が行われるのであれば、その際にはつみたてNISAを含めたNISA制度の見直し・拡充も合わせて柔軟に議論されることを期待したい。


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前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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