結果の概要:個人所得は市場予想を下回る一方、個人消費は市場予想に一致
10月29日、米商務省の経済分析局(BEA)は9月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比▲1.0%(前月:+0.2%)と前月からマイナスに転じたほか、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の▲0.3%も大幅に下回った(図表1)。個人消費支出は前月比+0.6%(前月改定値:+1.0%)と+0.8%から上方修正された前月を上回った一方、市場予想の+0.6%に一致した。また、価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は+0.3%(前月改定値:+0.6%)と+0.4%から上方修正された前月を下回った一方、市場予想の+0.3%に一致した(図表5)。貯蓄率1は7.5%(前月:9.2%)と、前月から▲1.7%ポイント低下した。
価格指数は、総合指数が前月比+0.3%(前月改定値:+0.3%)と+0.4%から下方修正された前月、市場予想(+0.3%)に一致した。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.2%(前月:+0.3%)とこちらは前月を下回った一方、市場予想(+0.2%)に一致した(図表6)。前年同月比は総合指数が+4.4%(前月改定値:+4.2%)と+4.3%から下方修正された前月を上回った一方、市場予想(+4.4%)に一致した。コア指数は+3.6%(前月:+3.6%)と前月に一致、市場予想(+3.7%)は下回った(図表7)。
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1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。
結果の評価:経済対策効果の剥落で個人所得が大幅に減少
個人消費は堅調な伸びとなったものの、財消費では自動車関連の減少が続いているほか、広範な分野で前月から伸びが鈍化した。もっとも、新型コロナの感染者数が減少に転じていることもあり、サービス消費では娯楽や外食・宿泊では回復がみられた。
個人所得は9月に新型コロナで拡充された失業保険給付の期限切れに伴う移転所得の落ち込みで前月から大幅なマイナスに転じた。この結果、貯蓄率は7.5%と前月から大幅に低下しており、所得対比でみた消費余力は減少した。
一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数(前年同月比)は、総合指数の上昇基調が持続しており、FRBの物価目標(2%)を7ヵ月連続で上回ったほか、91年1月(+4.5%)以来の水準となった。物価の基調を示すコア指数は6ヵ月連続で物価目標を上回ったほか、依然として91年5月(+3.7%)以来の水準を維持しているものの、6月以降は横這いとなっており、上昇は一服している。
所得動向:新型コロナ対策としての失業保険給付の期限切れに伴い、移転所得は大幅減少
9月の個人所得(前月比)は、移転所得が▲7.0%(前月:+0.2%)と前月から大幅なマイナスに転換して個人所得を押し下げた(図表2)。移転所得は金額ベースでは前月比年率▲2,959億ドル(前月:+100億ドル)の減少となったが、新型コロナ対策として実施された失業保険の追加給付やパンデミック失業支援(PUA)、パンデミック緊急失業補償(PEUC)が9月上旬に期限切れとなったこともあり、失業保険給付が前月比年率▲2,546億ドル(前月:▲155億ドル)と大幅に減少したことが大きい。移転所得以外では、自営業者所得が▲0.7%(前月:▲0.7%)と2ヵ月連続でマイナスとなった。一方、賃金・給与が+0.8%(前月:+0.4%)と前月から伸びが加速したほか、利息配当収入が+0.2(前月:▲0.1%)と前月からプラスに転じた。
個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、9月の名目が▲1.3%(前月:+0.1%)と前月から大幅なマイナスに転じたほか、価格変動の影響を除いた実質ベースも▲1.6%(前月:▲0.2%)とマイナス幅が拡大した。(図表3)。
消費動向:財消費は広範な分野で伸びが鈍化
9月の名目個人消費(前月比)は、財消費が+0.5%(前月:+1.6%)と前月から伸びが鈍化したほか、サービス消費も+0.6%(前月:+0.7%)と小幅ながら伸びが鈍化した(図表4)。
財消費では、耐久財が▲0.2%(前月:+0.4%)と前月からマイナスに転じたほか、非耐久財は+0.9%(前月:+2.3%)と伸びが大幅に鈍化した。
耐久財では、半導体不足で生産が減少した影響で新車販売が▲4.5%(前月:▲10.4%)とマイナスが続いていることもあって自動車・自動車部品が▲1.9%(前月:▲4.6%)と、マイナス幅は縮小したものの、5ヵ月連続でマイナスとなった。一方、家具・家電が+0.7%(前月:+3.1%)、娯楽財・スポーツカーが+0.5%(前月:+2.7%)と前月から伸びが鈍化した。
非耐久財では、ガソリン・エネルギーが+2.0%(前月:+2.5%)、食料・飲料が+0.9%(前月:+2.3%)、衣料・靴も+0.8%(前月:+2.0%)と、いずれも前月から伸びが鈍化した。
サービス消費は、医療サービスが+0.7%(前月:+0.7%)と前月並みの伸びを維持した一方、輸送が▲0.8%(前月:+0.5%)と前月からマイナスに転じたほか、住宅・公共料金が+0.2%(前月+0.8%)と伸びが鈍化した。一方、金融サービスが+0.7%(前月:+0.4%)と前月から伸びが加速したほか、娯楽が+1.7%(前月:▲0.8%)、外食・宿泊が+1.3%(前月:▲0.5%)と大幅なプラスに転じた。とくに、娯楽や外食・宿泊の消費回復は、9月に入って新型コロナの新規感染者数が減少した影響とみられる。
価格指数:前年同月比でエネルギーの大幅な物価押上げが持続
価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が+1.3%(前月:+1.9%)と4ヵ月連続、食料品価格指数は+1.1%(前月:+0.4%)と8ヵ月連続のプラスとなっており、価格上昇圧力が継続している(図表6)。前年同月比は、エネルギー価格指数が+24.9%(前月:+24.9%)と7ヵ月連続の2桁上昇となった(図表7)。また、食料品価格指数は+4.1%(前月:+2.8%)と51ヵ月連続のプラスとなっており、物価を押し上げる状況が続いている。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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