21年9月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比17.1%増となり、前月の同15.0%増から小幅に上昇した(図表1)。輸出は昨年4月に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が本格化して急減した後、経済活動の再開やテレワーク需要の増加に伴う電気・電子製品の出荷増、商品市況の改善を受けて増加傾向が続いている。9月も感染拡大防止に伴う活動制限措置によりベトナムやフィリピンなどで輸出の勢いが鈍かったが、国際商品市況の上昇によりインドネシアやマレーシアを中心に資源輸出が好調だった。

ASEAN,貿易統計
(画像=PIXTA)

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、9月は東アジア向け(同21.5%増)と北米向け(同9.4%増)が堅調に拡大した。一方、EU向け(同3.4%増)は生産活動の再開に伴う需要が一巡して伸び悩みつつある。また東南アジア向け(同22.1%増)は前年の落ち込みの大きいことから高い伸び率となったが、域内各国が実施した感染防止策により足元の増勢は鈍化している。

69280_ext_15_0.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)

ベトナムの21年9月の輸出額(通関ベース)は前年同月比0.5%減(前月:同1.7%減)の270億ドルとなり伸び悩んだ(図表3)。輸出は昨年4~5月に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて落ち込んだ後、経済活動の再開と世界的な電子機器の需要拡大により増加傾向が続いたが、足もとでは感染第4波を抑え込みために国内各地で厳格な社会隔離措置を導入したことにより減少している。一方、輸入額は前年同月比10.2%増(前月:同20.4%増)の267億ドルとなり、二桁成長が続いた。結果として、貿易収支が+3.6億ドルの黒字となり、前月から4.7億ドル改善した。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比9.3%増(前月:同4.0%増)、電気製品・同部品が同6.8%増(前月:同0.9%増)となり、それぞれ小幅に増加した(図表4)。またアパレル関連では、織物・衣類が同21.1%減(前月:同10.8%減)、履物が同49.5%減(前月:同39.5%減)と一段と減少した。農林水産物を見ると、水産物(同23.9%減)や野菜(同2.4%減)が減少したものの、コメ(同50.1%増)やコーヒー(同11.7%増)、カシューナッツ(同11.2%増)、天然ゴム(同12.9%増)などが好調だった。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同1.1%増(前月:同3.3%増)と鈍化すると共に、地場企業が同4.8%減(前月:同13.3%減)と減少が続いた。

69280_ext_15_1.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)

タイの21年9月の輸出額(通関ベース)は前年同月比17.1%増(前月:同8.9%増)の230億ドルとなり、伸びが加速した(図表5)。輸出は新型コロナ感染拡大の影響が直撃した昨年4~6月に大きく減少した後、経済活動の再開と世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比30.3%増(前月:同47.9%増)の224億ドルとなり、伸びが加速した。結果として、貿易収支が+6.1億ドルの黒字となり、前月から18.3億ドル改善した。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同18.1%増(前月:同21.2%増)と7カ月連続の二桁増となった(図表6)。製造品の内訳を見ると、在宅時間が増加した影響で電子機器(同20.9%増)や家電製品(同7.7%増)が増加しており、また機械・装置(同16.4%増)や石油化学製品(同31.4%増)、自動車・部品(同8.1%増)などの主要輸出品も堅調に拡大した。また鉱業・燃料は同99.5%増(前月:同116.5%増)となり、石油製品(同109.5%増)を中心に大幅な増加が続いた。このほか、農産物・同加工品は同13.0%増(前月:同22.6%増)と11ヵ月連続で増加した。果物(同26.0%減)が減少したものの、天然ゴム(同83.6%増)やコメ(同33.8%増)、ゴム製品(同0.3%増)の増加が続いたほか、加工食品(同1.0%減)がプラスに転じるなど、総じて増加した品目が多かった。

69280_ext_15_2.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)

マレーシアの21年9月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比24.1%増(前月:同17.4%増)の266億ドルとなり、伸びが加速した(図表7)。輸出は昨年4~5月に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して約3割の減少を記録した後、世界経済の回復や商品市況の高騰、電気電子製品の需要拡大を追い風に増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比25.9%増(前月:同11.6%増)の203億ドルとなり伸びが加速した。結果として、貿易収支が+62.7億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から12.0億ドル拡大した。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同6.0%増(前月:同6.7%増)となり、主力の電気・電子製品(同5.1%増)を中心に3カ月連続で増加した(図表8)。また鉱物性燃料は同93.9%増(前月:同52.4%増)と一段と上昇した。石油製品(同179.7%増)と天然ガス(同72.2%増)の大幅な増加が続き、原油(同8.5%増)もプラスに転じた。このほか、化学製品(同47.2%増)、動植物性油脂(同55.7%増)が二桁増となる一方、ゴム手袋(同18.4%減)は減少に転じた。

69280_ext_15_3.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)

インドネシアの21年9月の輸出額(通関ベース)は前年同月比47.6%増(前月:同64.1%増)の206億ドルとなり、大幅な増加が続いた(図表9)。輸出は昨年3~5月にかけて新型コロナの感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて最大約3割減まで落ち込んだ後、経済活動の再開や国際商品市況の上昇により増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比40.3%増(前月:同55.3%増)の162億ドルとなり、大きく増加した。結果として、貿易収支が+43.7億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から▲3.8億ドル縮小した。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同48.0%増(前月:同63.5%増)、石油ガス輸出が同39.8%増(前月:同77.9%増)となり、それぞれ好調を維持した(図表10)。品目別にみると、鉱産物(同129.0%増)や鉄・鉄鋼(同88.8%増)、動植物性油脂(同64.7%増)、電気機械(同24.5%増)、機械類(同20.8%増)、自動車・同部品(同16.5%増)、ゴム製品(同9.5%増)などが増加した一方、天然又は養殖真珠、貴石、半貴石(同47.2%減)は引き続き低迷した。

69280_ext_15_4.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)

シンガポールの21年9月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比13.8%増(前月:同3.7%増)の117億ドルとなり、伸びが加速した(図表11)。輸出は昨年コロナ禍でも増加傾向で推移し、今年は世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により総じて好調が続いている。なお、総輸出額が同20.3%増(前月:同18.6%増)の387億ドル、総輸入額が同20.3%増(前月:同24.1%増)の342億ドルと、それぞれ増加した。結果として、貿易収支が+45.0億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から8.5億ドル縮小した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約2割を占める電子製品は同16.0%増(前月:同17.9%増)と好調を維持して10カ月連続の二桁増となった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同8.4%増)やPC(同47.3%増)、ダイオード・トランジスタ(同24.7%増)の堅調な拡大が続いたほか、ディスクメディア(同7.5%減)が3カ月ぶりの増加に転じた。また全体の約3割を占める化学品は同34.0%増(前月:同18.3%増)となり伸びが加速した。化学品の内訳を見ると、石油化学製品(同54.8%増)が大きく増加し、医薬品(同29.0%増)がプラスに転じた。

69280_ext_15_5.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)

フィリピンの21年9月の輸出額(通関ベース)は前年同月比6.3%増(前月:同18.9%増)の67億ドルとなり、伸びが鈍化した(図表13)。輸出は昨年3月に新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて急減した後、世界経済の再開を受けて増加傾向が続いているが、足もとでは感染再拡大に伴う外出移動制限措置の影響により輸出の増勢は鈍化している。また輸入額も前年同月比24.8%増(前月:同30.2%増)の107億ドルとなり、伸びが鈍化した。結果として、貿易収支が▲40.0億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から4.9億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同5.4%増(前月:同16.5%増)と鈍化したが、増加傾向を保った(図表14)。電子製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同2.7%増)に加え、電子データ処理機(同13.6%増)や消費者向け電子製品(同11.3%増)がそれぞれ増加した。その他9品目については、化学品(同55.4%増)や金(同44.3%増)、製錬銅(同39.8%増)、ココナッツオイル(同21.1%増)、その他鉱物製品(同17.0%増)、その他製造品(同7.1%増)、電子機器・部品(同5.4%増)がそれぞれ増加した一方、機械・輸送用機器(同27.0%減)と金属部品(同22.8%減)、イグニッションワイヤーセット(同1.7%減)が減少した。

69280_ext_15_6.jpg
(画像=ニッセイ基礎研究所)

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

斉藤 誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
タイトル
タイトル
タイトル
タイトル
タイトル