シンカー:11月の鉱工業生産指数は前月比+7.2%と、コンセンサス(同+4.8%程度)を上回る結果となった。10月の同+1.8%に続き、2か月連続の上昇となった。まだ海外からの部品の調達には滞りがあるが、サプライチェーンの問題は徐々に解消してきているとみられる。払底した在庫の修復の動きも生産を押し上げたようだ。経済産業省の生産の判断は「持ち直しの動きがみられる」に、「足踏みをしている」から上方修正された。鉱工業生産指数の動きは、経済産業省予測指数、先行き指数、日銀実質輸出/実質輸入、中小貸出態度DI、日銀消費指数、在庫率、そして景気ウォッチャー指数で説明することができる。推計の予測誤差が1標準誤差より大きかった時は、上方にアップダミー変数(1)と下方にダウンダミー変数(1)を入れている。サプライチェーンの問題などにより、9月と10月の鉱工業生産指数は、これらの説明変数が示す推計値より、大きく下振れた。ダウンダミー変数として9月は1.20、10月は1.75に相当する大きな下振れであった。一方、11月はダウンダミー変数としては0.1に相当する下振れでしかなく、モデルの推計値とほぼ同じ結果となった。鉱工業生産指数のモデルの推計値からの下振れが小さくなっていることは、サプライチェーンの問題が徐々に解消に向かっていることを示す。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

11月の鉱工業生産指数は前月比+7.2%と、コンセンサス(同+4.8%程度)を上回る結果となった。10月の同+1.8%に続き、2か月連続の上昇となった。経済産業の誤差修正後の予測指数の同+4.2%も上回った。まだ海外からの部品の調達には滞りがあるが、サプライチェーンの問題は徐々に解消してきているとみられる。自動車工業の生産は同+43.1%となった。払底した在庫の修復の動きも生産を押し上げたようだ。生産財の生産が同+6.9%、出荷が同+5.6%と強く、回復の持続性がみえる。在庫指数は同+1.7%と3か月連続の上昇になっている。自動車工業の在庫が同+27.8%となった。経済産業省の生産の判断は「持ち直しの動きがみられる」に、「足踏みをしている」から上方修正された。10月から生産活動は回復局面に入っているとみられるが、10月の鉱工業生産指数は97.7と、4月のピークの100.0をまだ下回っている。

新型コロナウィルスの感染が抑制され、サービスを含め経済活動の回復が始まっている。これまで景気回復モメンタムを引っ張ってきた財の動きが、サービスに引き継がれる見通しが立つのかが注目である。デジタル技術の普及により、サービス消費の拡大とともに財の需要は大きくなってきていた。サプライチェーンとサービスの回復が両輪となることが出来るのかに注目である。12・1月の経済産業省予測指数は同+1.6%(誤差修正後−1.3%)・+5.0%と、トレンドとしての回復が予想されている。新型コロナウィルスの感染拡大の第六波の警戒感も、オミクロン株を含め残っていて、12月の生産予測は控えめだ。グローバルなデジタル需要拡大に対応するには半導体などの生産はまだ不足している。サプライチェーンの問題の解消とサービス消費の拡大にはまだしばらく時間がかかるとみられる。生産は回復方向に向かうとみられるが、計画は後ずれするリスクが残っている。

鉱工業生産指数の動きは、経済産業省予測指数、先行き指数、日銀実質輸出/実質輸入、中小貸出態度DI、日銀消費指数、在庫率、そして景気ウォッチャー指数で説明することができる。推計の予測誤差が1標準誤差より大きかった時は、上方にアップダミー変数(1)と下方にダウンダミー変数(1)を入れている。サプライチェーンの問題などにより、9月と10月の鉱工業生産指数は、これらの説明変数が示す推計値より、大きく下振れた。ダウンダミー変数として9月は1.20、10月は1.75に相当する大きな下振れであった。一方、11月はダウンダミー変数としては0.1に相当する下振れでしかなく、モデルの推計値とほぼ同じ結果となった。鉱工業生産指数のモデルの推計値からの下振れが小さくなっていることは、サプライチェーンの問題が徐々に解消に向かっていることを示す。

鉱工業生産指数=−2.9 +0.48 予測指数 + 0.047 先行き指数(逆数、1リード)−0.036 在庫率指数(1ラグ)+0.025 実質輸出/実質輸入+0.40日銀消費活動指数(1ラグ)+0.089景気ウォッチャーDI+0.14中小企業貸出態度DI+2.0アップダミー(1標準誤差以上)−2.1ダウンダミー(−1標準誤差以下); R2=0.98

鉱工業生産指数、予測指数(1期リード)、先行き指数(2期リード)、在庫率指数(逆数)、実質輸出、日銀消費活動指数プラス(1期ラグ)、資本財出荷指数(除く輸送機械)、景気ウォッチャー先行きDI、政策金融公庫中小企業貸出態度DIを、Zスコア((当月データ−36か月移動平均)/36か月標準偏差)をとり、予測指数と先行き指数は0.5、その他は1のウェイトの加重平均で、生産動向指数を作る。11月の生産動向指数は+0.2となり(10月−0.2)、7月以来のプラスに回復した。0がトレンドの水準であるから、トレンドを上回り、回復基調がしっかりし始めていることを示す。

全国と東京のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)、企業物価指数、企業向けサービス価格指数(1期ラグ)、新規求人倍率(1期ラグ)、総賃金(毎月勤労統計現金給与総額X常用雇用、1ラグ)、広義流動性、マネタリーベースを、Zスコア((当月データ−36か月移動平均)/36か月標準偏差)をとり、平均で、物価動向指数を作る。物価動向指数は11月には+1.0となり(10月の+0.9)、年初から1前後にいて、輸入物価の上昇を背景に、物価動向は堅調である。11月の新規求人倍率は2.13倍となり、緊急事態宣言下にあった8月の1.97倍の底から、経済活動の正常化に向けた動きで上昇を始めている。

生産動向指数と物価動向指数の平均をとり、生産と物価の動向を総合したファンダメンタルズ指数を作る。ファンダメンタルズ指数は11月に+0.6、7月以来の水準に回復した。9月、10月に底を形成した後、リバウンドに向かっている。ファンダメンタルズは景気と株式市場に下押し圧力をかけてきたが、オミクロン株などの不確実性はあるものの、その下押し圧力は緩和しつつあるようだ。

図1:生産動向指数

生産動向指数
(画像=出所:内閣府、日銀、岡三証券、Refinitiv 、岡三証券 作成:岡三証券)

図2:生産動向指数の各構成要素のZスコア

生産動向指数の各構成要素のZスコア
(画像=出所:内閣府、日銀、岡三証券、Refinitiv 、岡三証券 作成:岡三証券)

図3:生産動向指数の各構成要素のZスコア

生産動向指数の各構成要素のZスコア
(画像=出所:内閣府、日銀、岡三証券、Refinitiv 、岡三証券 作成:岡三証券)

図4:物価動向指数

物価動向指数
(画像=出所:内閣府、日銀、岡三証券、Refinitiv 、岡三証券 作成:岡三証券)

図5:ファンダメンタルズ指数

ファンダメンタルズ指数
(画像=出所:内閣府、日銀、岡三証券、Refinitiv 、岡三証券 作成:岡三証券)

岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来

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