住宅ローン減税から得られる経済メリットを最大化する借入額の水準
2022年以降、住宅ローン減税から経済メリット得るには、図表4で示した借入額のブレークイーブン・ポイントよりも少なく借り入れるべきだと説明した。次に、利息支払額の合計と所得控除額の合計の差額を経済メリットとした上で、最も経済メリットが大きくなる住宅ローン借入額を計算してみたい。図表5は変動金利型住宅ローンの適用金利が0.4%の場合に、新築のその他の住宅を購入する際に控除期間13年間で所得控除額と利息支払額の差分の合計値が最も大きくなるように借入額を決定したときの利息支払額と所得控除額の推移を示したものである(*4)。このとき借入額は3,448万円で経済メリットは約103万円となる。興味深いのは、このシナリオに基づくと最大控除額(21万円)を享受するのは当初の5年間にとどまっており、最大控除額を13年間ずっと得るのが決して最適とは言えないということである。つまり、3,448万円以上住宅ローンの借入額を増やすと、所得控除額が増える効果よりも利息支払額が増える効果の方が大きくなるため、経済メリットは徐々に小さくなってしまう。
借入限度額と適用金利変化させたときの経済メリットを最大化する住宅ローン借入額については図表6に示している。経済メリットを最大化する借入額は、適用金利が0.3%台にならない限りにおいて借入限度額よりも1,000万円以上高くなることはないことが分かる。ここから、借入限度額や適用金利の水準に関係なく、住宅ローン減税から得られる経済メリットを追求する場合、控除期間全体にわたって最大控除額が得られるような形で、借入限度額を大きく上回る住宅ローンを借り入れる必要はないと結論付けられる。
(*4) 確定申告による所得控除の還付は年1回だが、毎月ある前提で簡易的に算出した
まとめ
本稿では、2022年の税制改正に伴って住宅ローンの新規契約者の経済メリットがどの程度変わるのか、ブレークイーブン・ポイントとなる借入額や経済メリットを最大化する借入額を算出することで確認した。2021年末時点の首都圏の新築マンションの価格は6,100万円台となっており(*5)、この価格水準に対して、不動産価格分をすべて住宅ローンで借り入れたとしても、変動金利型住宅ローンの適用金利が0.7%よりも低い水準にある限りにおいては、税制改正後の住宅ローン減税においても経済メリットを享受することができる。今後も、住宅購入者にとって住宅ローン減税は経済的に有利な制度であると言える。
しかしながら、控除期間終了後の利息支払額も小さくなる効果を踏まえると、住宅ローンの借入額をできる限り小さくした方がよいだろう。少なくとも控除期間が終了すれば、繰り上げ返済も積極的に進めた方がいいのかもしれない。たとえば、新築その他の住宅を購入して、最適解である3,448万円を住宅ローンとして借り入れて、当初13年間は適用利率が0.4%で一定で推移した場合、経済メリットの総額は103万円程度になると先ほど言及した。その後14年目に0.5%程度の適用利率の上昇が生じて一定で推移すると、35年間の借入期間が終了するまでに利息支払額の負担は129万円増える。つまり住宅ローン減税から得られる経済メリットはその後の0.5%程度の金利上昇によって消失してしまう程度のものである。
このように、変動金利型住宅ローンで借り入れる場合には、将来の金利変動に晒されることを考慮に入れる必要がある。住宅ローン減税から得られる経済メリットを追求するだけでなく、住宅ローンの一部を固定金利型の住宅ローンで借り入れる(ミックスローンの活用)、預貯金を積み立てるなどしてリスクバッファを確保するなどの対応策も合わせて検討していく必要があるものと思われる(*6)。
(*5) 住友不動産販売Webサイト「新築中古マンション市場動向(2021年11月)」を参考にした
(*6)詳しくは「変動金利型と固定金利型のどちらの住宅ローンを選択すべきか-市場動向から最適な住宅ローンの借入戦略について考える」(ニッセイ基礎研究所、2021年11月8日)などを参照されたい。
福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部上席 研究員・年金総合リサーチセンター兼任
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