この記事は2022年1月27日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「パウエル・ショックで株価急落 今後の展開は?」を一部編集し、転載したものです。
要旨:株価下落が止まらない
株価下落が止まらない。米国の金融政策を巡る不透明感が払拭されず、日経平均の昨年末からの下落率は9%を超えた。早ければ明日にも相場全体の底入れを期待したいところだが、1月27日の個別銘柄の値動きからは「質への逃避」も見られた。
1. ―― パウエル・ショック
市場が動いたのは年明け早々の1月5日だ。米FRB(連邦準備制度理事会)が22年中にもバランスシート(保有資産額)の縮小に踏み切る可能性が示唆されたからだ。金融市場は22年の利上げ3回程度までは織り込んでいたものの、バランスシートの縮小は“寝耳に水”だった。
その後、米経済指標の悪化などを受けて急ピッチな引き締めで景気が減速する懸念も高まっていたが、1月25〜26日開催のFOMC(公開市場委員会)は引き締めに積極姿勢を崩さなかった。さらに、パウエル議長は会見で利上げペースやバランスシート縮小時期に関するヒントを与えなかった。
引き締めを加速するにせよ、多少でも視界が開けるだろうとの市場の期待は完全に裏切られた。これでは会見の意味がなく、不透明感を最も嫌がる株式市場は強烈な売り圧力に晒された。パウエル・ショックと言ってもいい。
2. ―― 嵐が過ぎるのはいつか
今日の株価急落を受けて、「どこまで下がりますか?」「いつ頃、落ち着きますか?」といった記者からの電話が絶えないが、「最短なら今週中に下げ止まると思うが、来月前半まで続く可能性もある」と明確に答えることができない。
今週25日にIMF(国際通貨基金)が最新の経済見通しを公表したとおり、世界的に(もちろん日本も)2022年のプラス成長が見込まれている。ファンダメンタルズは悪くないどころか、むしろ良いが、FRBの引き締め加速は新興国経済やクレジット市場にも打撃となる恐れがある。
株式以外の投資家も含めて世界中の投資家がFRBに対して疑心暗鬼になっているとみられ、悲観的な投資家の売り注文が一巡するまで幅広い資産の下落基調が続くだろう。目先で言えば今夜(1月27日)のアメリカ市場が売りのピークになる可能性に期待したいところだが、来週以降に持ち越す可能性も十分にある。
東京都などに緊急事態宣言が再び発動される可能性が指摘され始めたことも、投資家の不安心理を増幅させる。ただでさえ日本株の魅力が薄れたところに人為的な経済活動の停滞が加わることになれば、海外投資家だけでなく国内投資家も消極姿勢から簡単には戻らないだろう。予断は禁物だ。
3. ―― 金利上昇局面での“質への逃避"
27日の日経平均が841円(3.1%)の大幅下落となった中でも、値上がりした銘柄もある。東証REIT指数は取引終了にかけて値を戻し1.9%上昇した。通常、負債を抱えるREITにとって金利上昇は逆風だが、米国の金利が上がっても日本の金利上昇は限定的とみた投資家の買いが向かったのだろう。REITの収益源であるオフィスなどの賃料は短期的に下落する可能性が低いことを考えれば、分配金利回りに魅力を感じるのも頷ける。
26日に決算発表した主な個別企業では、ファナックが1.1%上昇した。同社は22年3月期の純利益の見通しを5.6%引き上げ市場予想を上回った。新たな見通しに対する第3四半期の純利益進捗率は約75%で、計画達成はほぼ確実視される。このタイミングでの上方修正は、来期(23年3月期)業績への期待を高める効果もあったようだ。
一方、22年3月期の見通しを据え置いた日本電産は6.1%の下落となった。見通しが市場予想を下回ったうえ、第3四半期の進捗率が約68%にとどまった点も嫌気されたのだろう。というのも、21年3月期は第3四半期時点の純利益進捗率が69%で、年度末実績は計画対比101%で終えた。22年3月期もこのままでは計画達成がやっとの水準とも解釈できる。当然、来期への期待は高まらない。
27日はPER(株価収益率)が高いハイテク株が軒並み下落したことも含めて、共通するのは「利回りの質への逃避」だ。今後、米国金利の上昇が想定される中で、相対的かつ実質的に高い利回りを確保できそうなところに投資資金がシフトしたと考えられる。
相場全体の底入れがいつか、そしてイールド・ハンティング(利回り物色)でどの銘柄が選好されるか注目したい。
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井出 真吾 (いで しんご)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 上席研究員 チーフ株式ストラテジスト
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